お客様インタビュー
新しい価値をつくる挑戦は、一人ひとりのスキルから生まれる
大日本印刷株式会社 人財開発部 専門人材開発グループ
岩田洋一様(左)、黒沢一男様(右)
記事公開日:2023年3月31日
明治9(1876)年の創業から日本の成長と発展を印刷事業によって牽引してきた大日本印刷株式会社が今、ダイナミックに変貌しています。DNPグループとしてこれまで培ってきた事業基盤を活かし、イノベーションを推進。「未来のあたりまえ」となる製品やサービスを生み出していこうと挑戦を続けています。このような中で、実際に事業を担う一人ひとりの社員にはどのようなことが求められ、会社はどのような人材育成を行っているのでしょうか。企業ビジョンと現場の人材をつなぎ、日々最適な支援は何か追求されている人財開発部の黒沢一男様と岩田洋一様にお話を伺いました。
DNP独自の強みを活かして、社会課題の解決に挑む
黒沢様:私たちDNPグループは、事業ビジョンに「P&Iイノベーション」を掲げています。PはPrinting=印刷、IはInformation=情報。DNP独自の強みを掛け合わせ、さまざまなパートナーと連携を深めることで、社会の課題を解決するとともに、人々の期待に応える新しい価値を生み出すことに努めています。
コロナ発生以降、人々の暮らしや働き方の変化が加速し、企業や自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)も進展する中で、私たちはDX、長寿命化、都市のスマート化、循環経済の構築などをメガトレンドとして捉えながら、特に「データ流通」「IoT・次世代通信」「モビリティ」「環境」に関連する成長事業に力を注いでいます。例えば、リチウムイオン電池用のバッテリーパウチ*は、世界トップシェアの強みを活かして、カーボンニュートラルや次世代通信の実現に貢献しています。有機ELディスプレイ製造用メタルマスク*でもDNPの独自技術を活かし、スマートフォン向けで世界トップシェアを獲得しています。
変革を起こすDX人材は、幅広い職種で育てていきたい
黒沢様:1980年代の終わり頃からDNPはIT社会の到来を事業拡大の好機と捉えてきましたが、近年はデジタル技術やデータの活用をさらに広げてDXを進めています。具体的には「新規ビジネスの創出」と「既存ビジネスの変革」による事業の推進、「社内システムの基盤革新」「生産性の飛躍的な向上による基盤の強化」という4つの観点でDXによる変革に取り組んでいるところです。
そのため、従来から進めてきた「ICT人材の育成」に加えて、「DX人材の育成」は現在最も注力していることの一つです。
ICT人材とDX人材の違いですが、私たちはICT人材を「ICT・デジタル技術を活用してサービスシステムを企画設計開発、運用保守する人材」、DX人材を「ICT・デジタル技術を活用し、変革を起こす人材」と定義しています。DX人材では「変革」というところがポイントで、対象者はシステム開発・運用に関係している人だけでなく幅広い職種に広がっています。
DNPにおけるICT人材&DX人材育成の概要
ICT人材育成施策
施策の一つとして「ICTスキルセミナー」を展開している。全体の底上げをねらった基礎的な入門編から高度なシステム開発者向けの専門的内容までカバー。高度なレベルの科目は受講者選抜によって実施する場合も多いが、基礎的な入門編は全社員向けに公開。希望者は誰でも受講できるようにしている(多くはオンラインで受講可能)。
DX人材育成施策
DX推進において必須スキルになっているクラウド、アジャイル、AIスキル習得に向けて個別の育成プログラムを実施。最近では、ICT開発職のDX分野(アジャイル、クラウド等)を中心としたスキル向上、AI、データサイエンティスト教育への活用を目的に、実践的かつ最先端の知見を得られる動画講座を活用している。またDXリテラシー向上策として、DXの理解や用語に慣れることで、DXに苦手意識のある営業の意識変革や行動変容を促すことを目的に、いつでもどこでも見られる動画コンテンツを用意している。
個々のスキルレベルをどのように可視化して、共有する?
岩田様:私が人財開発部に着任した2019年10月時点で、ICT・DX人材育成における最初の課題は、どのようにスキルレベルを可視化するかでした。最初、タスクベースに人材像の役割定義を行って各自がタスク遂行レベルを自己評価するという方法を検討したのですが、タスクベースの人材像の把握に時間がかかってしまうことや、自己評価だと評価が甘い人もいれば厳しい人もいて、判断基準がブレてしまうと「客観性」が問題になりました。上司によるレビューも考えましたが、作業負荷がかかりますし、上司判断にもバラツキが懸念されて、見直しを行いました。
そこで導入することにしたのが、グループ会社のDNPデジタルソリューションズで利用を始めていた富士通ラーニングメディアの「SkillCompass(スキルコンパス=IT人材向けスキル診断サービス)」と、「e講義動画ライブラリ」「オンラインLive研修」です。「スキルコンパス」には、経験実績を問う設問とスキルレベルを診断するテストがあって、同業者との比較も可能なため、自分たちのスキルレベルが把握しやすく、客観性をもって可視化することができました。その結果、経験の長さが必ずしもスキルの高さに結びつくとは言えないことも見えてきて、もう少し全体に底上げをしないといけないかなと思いました。
それぞれの実務で、次の一歩を踏み出せるように
岩田様:「e講義動画ライブラリ」は、「スキルコンパス」を受けた多くの人がスキルアップのために活用しています。「スキルコンパス」の診断結果を分析して、この辺が弱いのでこの講座を受けるといいですよといったレコメンド機能があるので、自己啓発に結びつくと感じます。システム開発職の社員の中には、事前に「e講義動画」のコンテンツを見てから、ライブ研修に参加する人もいます。「わからない点はライブで講師の方に質問し、その場ですぐ解決できるので、うまく知識の習得につなげられている」という受講者のコメントも届いていて、受講後の満足度も高いようです。
コロナ禍で一番の課題は、実習環境をどうするかでした。富士通ラーニングメディアのオンラインLive研修にはクラウドの実習環境があり、対面と変わらない人数(24名から30名)を受け入れていただけるということで、これは利用する一番の決め手になりました。研修を受けても実務ではなかなか役立てられず次の一歩を踏み出せないということもあるので、自分の手を動かして実習できるというのはとても大事だと思います。受講者の評判も良かったです。また受講者のスキルレベルには個人差があるため、それぞれの進捗に対応するブレイクアウトルームを作り、講師陣の方々が個別指導で手厚くフォローしてくださったことにも感謝しています。
より専門性の高い研修には、専門家の力を借りていく
黒沢様:その後の社内プログラムですが、DXの推進に伴って、システム開発・運用に関係している人だけでなく、営業・企画職や研究開発、さらに製造、スタッフ等幅広い職種の社員が受講するようになっています。初級者向けの研修は内製化を進めていて、初めてICT系のスキルを身につける社員向けには「はじめてのエクセル」「はじめてのデータベース」「はじめてのPython」等の研修メニュー「はじめてシリーズ」を用意しています。これらは受講者も多く、好評です。また初級者向けの講座としては「できるシリーズ」、例えば「できるプログラミング」「できるJava基礎」等を用意していて、両シリーズとも社内講師が担当しています。録画しておいて、当日調整のつかなかった場合は後日視聴できるようにも対応しています。
より専門性が求められる研修は専門家にお願いしています。富士通ラーニングメディアに依頼している「Python入門」や「Pythonによるデータ分析入門」は、実際に手を動かす研修で、受講者のスキル向上につながっていると感じています。PM(プロジェクトマネージャー)のリーダー育成のための「システム開発事例で学ぶヒューマンスキル」に関しては、かなりスキルレベルの高い社員が受講しています。受講者が指導する側に回れるように、お互いに説明役になったり聞き役になったりしながら気づきを得たり、講師の方のいろいろな実体験を交えた講義が非常に好評です。
今後、富士通ラーニングメディアに期待することとしては、経産省と独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が策定した「デジタルスキル標準(DSS-P)」に準拠したアセスメントツールの提供です。研修企画を行うためにも受講対象者のスキルレベルを正しく把握する必要があるからです。
DNPだからできる、DNPならではの人材育成体系をつくりたい
黒沢様:将来に向けては、まずDX人材像の定義と可視化をさらに進めたいと考えています。経産省とIPAが策定したDSS-Pも参照しながら、特にまだ可視化できていない営業企画系や技術開発でデータサイエンティストになるような社員のスキルの保有状況を明らかにして、どのような研修をやっていくか考えていきたいです。それから、DX関連のリテラシー教育も大切ですが、専門人材の育成を強化していきたいですね。プロダクトオーナーといったサービス系の企画をできるような人材が求められているので、より実務に直結するような人材育成を強化していけたらと思っています。
岩田様:これまでの企業風土や体質には受注産業のようなところも当然あって、変化の激しい今の社会には、研修体系もこれまでのものではなかなか対応できていないと感じています。元々紙への印刷から始まったDNPの持っている技術やノウハウなど自分たちの強みを、時代のニーズに合わせてカスタマイズしたり革新したりして、新たな価値を創出できる人材を育てていきたいです。そういうDNPならではの人材育成体系をゆくゆくはつくりたい。私のDNP人生として、それができたら本望だと(笑)、夢を持ちながら今の仕事に取り組んでいるところです。
黒沢様:自ら製品やサービスを展開していくということは、大きな課題ですね。それぞれが世の中の動向を敏感にキャッチして、身近なところからもネタを見つけて新しいサービスを生み出すような人材をどんどんつくりたいです。そのためには単にDXという言葉だけじゃなくて、意識改革が必要だと思います。
自ら学ぶ人、自律的な学びができる人を増やしていきたい
黒沢様:人材育成で最も大切なことは、学びに対するマインド変革だと思っています。自ら学ぶ人、自律的な学びができる人を増やしていきたいです。一人が学ぶことから仲間が生まれ、それが組織に、さらには会社全体に広がっていくように、会社の風土変革ができればと考えています。そのためには学んでいくことが楽しい、自分のためになるという気持ちになってもらうことが一番大切かなと思っています。
岩田様:学ぶためには目標などの動機が必要ですが、実際は日々の業務に追われてしまって自身のキャリアを描けず、何をしたら良いか動機を持てていない社員が多いのが現状です。研修を運営する側としては、自律的に学ぼうと感じられる環境づくりができたらいいなと思います。動機を見つけるヒントやきっかけとなるような情報、目標が決まったら実現に向かって十分な知識・スキルを身に着けられる環境を提供することが必要だと考えています。
黒沢様:自分から動いてみると、何かが変わります。失敗することもあると思います。失敗すると、「怒られちゃうから無かったことにしよう(笑)」と誤魔化して反省も忘れてしまいがちですが、失敗の記録もちゃんと残して、それをポジティブに捉えるようにしていきたいですね。世の中は動きが早いので、素早くやって、もし失敗しても許容して、いい経験だけでなく悪い経験も生かせるような風土に変えていけるよう、我々人財開発部としては「人づくり」の面から、支えていくことが使命だと思っています。
富士通ラーニングメディア担当者からのメッセージ
情報のアウトプット媒体が、これまでの「紙」から「デジタル」へ大きく変わってきている環境において、人材の「DX化」への強い思いを感じていました。お手伝いしている【スキル診断によるスキルの可視化】や【ICTスキル底上げのためのeラーニング学習】【スキルをさらに一歩昇華させていく各種セミナー】といった各種人材育成施策はすべて、大日本印刷様の想いを受け取り、一つひとつ一緒に創り上げていったものになります。今後は「DX専門人材の育成」や「DXスキルの見える化」などを経て、「DX時代のトップランナー」としてご活躍頂けるよう、これからも良き「伴走者」としてご一緒できれば幸いです。
※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。