2020年12月14日

在宅ワークで必要になる経理社員のマインドセット第05回 在宅ワークで必須となる「表現力」を養うコツ

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

先日、WEB回線を使い自宅からセミナー登壇を行いました。会場に行かない分、時間的には有難かったのですが、カメラ映りなどは自分で調整してもなかなかうまくいかず、「いつも会場ではたくさんのライトで自分の顔をごまかしてくれていたんだ」と改めて思わされました。

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知り合いの美容院の店長さんやモデル事務所の社長さんなどと話をしたのですが、これからは芸能人や著名人だけでなく、会社員も「自分がどう画面上で映っているか」ということなど、セルフプロデュースをしていかなければいけない時代になるかもしれないと感じました。

WEB上での定例会議やプレゼンテーションなど、皆さんの中にも既に経験された方もいるでしょうが、「画面を通した自分」が、たとえば健康的で自信があふれるように見えるか見えないかで、実際の仕事の結果や評価にも影響を及ぼしてしまうことがあるかもしれません。身だしなみや表情などの勉強も、仕事と並行して各自でしていくこともこれからの時代に他者と差をつけていく一つのきっかけになっていくのではないかと思います。

環境が変わると必要なスキルもまた変わっていくように、職場のコミュニケーションスキルも、在宅ワークの場合はこれまでとは違うスキルが新たに必要になっていきます。今までは、オフィスなど同じ空間に居てこそできる「あうんの呼吸」といったもの、たとえば「気が利く」、「空気を読む」ということが、日本人にとっては「グッドコミュニケーション」、「仕事がしやすい仲間」だと思われてきました。ところが在宅ワークではそれが通用しません。なぜなら同じ空間にいないので「雰囲気」「話の流れ」を感じ取ることができないからです。

自分が伝えたい意図を正しく伝えるポイント

これまではさして気にならなかったのに、在宅ワークになって「あの人とリモートで会話や文章のやりとりをしていると、すごく疲れる」という場合、今申し上げた理由が起因しているのではないかと思います。
たとえば次のような会話や文章だけを突然リモートで投げかけられたら皆さんはどう反応するでしょうか。

  • 例1「あの件どうなった?」
  • 例2「さっきの話やっぱりキャンセルで」
  • 例3「添付します」

多くの人は「え?」と、一瞬、頭も身体も固まるのではないでしょうか。

  • 例1「あの件、ってどの件だろう?」
  • 例2「さっきの話って、さっき3件話したけどそのうちのどれ?」
  • 例3「いきなり添付しますって言われても何の資料かわからないんだけど…」

しかし、これらの会話というのは、特に日本人同士の場合は、オフィスでは日常的にしていたやりとりです。よく家族同士で朝食時に「ちょっとあれ取って」と言われただけで、言われたほうは、「ああ、目玉焼きに塩をかけたいから、自分の目の前にある塩をとって渡してくれない、ということだな」ということがわかるのと同じです。これをいちいち「私は目玉焼きに塩をかけたいので、あなたの手前にある塩を取って私に渡してくれない?」などと家族同士では言いません。同じ空間で同じ環境を長く共有していると経験や習慣から得た知識で、言葉をどんどん省略できてしまうのです。

ただし、在宅ワークの場合に、このような文脈を極力省略したコミュニケーションをしてしまうと、前述のような「わかりにくさ」につながってしまいます。つまり、在宅ワークでの会話や文章での表現方法のコツは、「最低限の主語・目的語・述語は伝える」、ということです。これをしないと、

「あの件って、A社の件ですか、B社の件ですか」

と相手が聞き返す工程が一つ増えます。これが毎日、毎回と考えたらものすごい量になります。相手にとってストレスが溜まります。在宅ワークの場合は「話しかけるほう」「書くほう」が「とりあえず言う、書く」のではなく、「頭で整理してから話しかける、書き始める」ということをしないと、相手には過度な負担や迷惑になり「あの人とのやりとりは疲れる」となることがあります。

特にこれは、上の世代や上役の方達が意識して気を付けなければいけないことです。私の経験上、受け取った内容がどのことを指しているのかよくわからないのは、若い世代よりも、あうんの呼吸を知っている上の世代の方に比較的多いというのと、部下から上司には「あの件ってどの件ですか」ということは、立場上聞きにくいからです。

自分が伝えたい意図を正しく伝えられているかを簡単にチェックする方法があります。それは、「あの人もこの人も、どうして1回で自分の話を理解できないのだろう」と思ったことがあるか、ということです。このように思ったことがある人は、実際は周囲の勘が鈍いのではなく、その人の伝え方が悪いのです。

以前、ある会社で「うちの会社の部下は皆、私の言っていることをすぐキャッチできない」と毎日愚痴っていた方がいたのですが、その方の指示はいつも隣で聞いていても抽象的でわかりにくく、部下が仕方なく自分で指示内容を想像して作業を終え提出をすると、「こういう風に指示したつもりはなかったんだけど。もういいです。自分でやりますから」ということを繰り返していました。対面でこのレベルですから、きっと今はリモートになりさらに悪いコミュニケーション状態になっているはずですが、こうした行為は実際にその人のマネジメント能力の評価にも影響してきます。上司の方は「たかだかこんなこと」と思わず、真剣に自分のコミュニケーション方法が抽象的過ぎないか、意識をされた方が良いと思います。

ポイントとしては、

  • 固有名詞で伝える(「あの件」ではなく、「A社の件」など)
  • 主語、目的語、述語など言葉を極力省略しない

という2点に気を付けるだけでも、

「あの件はどうなった?」⇒「A社の見積もりを今日までに出すと言っていた件はどうなった?」
「さっきの話はやはりキャンセルで」⇒「さっきのセミナー参加の話の件はやはり自分はキャンセルするよ」
「添付します」⇒「昨日頼まれていた来期の予算資料のファイルを添付します」

というように、相手が「聞き返し、読み返しをしなくても1回でわかる」内容になります。「あうんの世代」の方達から見ると「面倒」「こんなことも感じ取れないなんて」と思うかもしれませんが、在宅ワークの場合はこれまでの対面での環境よりも何倍もメールやチャット、画面上で他者とのやりとりを行わなければいけません。「相手は自分だけでなく、常に何人かと同時にやりとりをしている」つもりで、自分の伝えたいことを表現すると良いと思います。

誤解がないためのコミュニケーションテクニック

また、若い世代の方達へのアドバイスとしては2点あります。

一つは、上役の方が抽象的な表現で連絡や指示などのコミュニケーションを繰り返し、何のことを言っているのかわからない場合についての対応です。たとえば「あの契約、作業進めている?」と言われたときに、これを「聞き返すのもストレスだし…」ときちんと確認せず、「あの契約って、きっとB社の契約のことだろう」と思って仕事を進めていたら、A社のことだった、ということもあり得ますので、やはり確認はしたほうが良いと思います。そのような場合は、「あの件というのは、B社の契約の件でいいですか」「今の話をまとめますと、B社との契約書を来週金曜日までに先方から印鑑を頂いてくるというスケジュールで宜しいでしょうか」と、こちらからさりげなく「確認」の形で応答するというテクニックを身に着けることで「自衛」をすると良いと思います。

もう一つは、若い世代の方で仕事上のメールやチャットなどで「そーですね」「わかりましたー」など、「ー」を多用する人がいます。これは同世代間ではいいかもしれませんが、上の世代、特に日本語を正しく使うことに仕事上慣れている人達からすると「馬鹿にされているのか」「舐められているのか」と誤解を受けることがありますので、仕事上では「そうですね」「わかりました」など、正しい書き言葉で書いたほうが良いと思います。私も最初「そーですねー」と返答があったときに抵抗がありましたが、だんだん見慣れてきた感もあるので、そのうちにこちらの表現のほうがスタンダードになるのかもしれませんね。

私が考えている「最強のビジネスパーソン」というのは、「こういう環境や条件を揃えてくれないと自分の能力は発揮できません」という人ではなく、どのような条件や環境下に突然なっても、「わかりました。とりあえずちょっと取り組んでみますね」と試行錯誤し、それなりに結果を出す人だと思っています。昨今のような劇的な環境の変化も、「またこれで新しいスキルを積める」というポジティブ思考で受け入れ、仕事に取り組んでみるのも良いのではないかと思います。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

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