2020年11月6日

在宅ワークで必要になる経理社員のマインドセット第04回 遠隔で社員教育を行う3つのコツ

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

在宅ワークで一番困ることの一つが「社員教育」でしょう。
在宅ワークというのは、「ある程度、業務経験やスキルがある人」、「ある程度、一人でも自律、自立して行動ができる人」、この二つがセットにならないと、生産性はまず下がります。

多くの職場では、前者はあるけれど、後者はある人とない人がいて……という感じではないでしょうか。皆さんご自身は、自己管理をして会社と同じペースで、そして同じモチベーションで在宅ワークをできているでしょうか。

自己管理やモチベーション、生産性などの課題はあるにせよ、自分のやるべきことがわかっている人に関しては、在宅ワークは多少の不便さはあっても、作業をこなすこと自体は多くの人ができると思います。

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遠隔だけで社員教育や業務指導ができるのだろうか

ところが今年度の新入社員や、ちょうどこのタイミングで業界未経験・職種未経験で転職した中途入社した方達は違います。いわゆる先程申し上げた、前者の「ある程度、業務経験やスキルがある人」に該当しないからです。この環境はとても負担になっているはずです。多くの会社では、こうした方達へのフォローとして、部署の先輩や人事部、そして経営陣などから「何かわからないことがあったら、何でも聞いてね」と言っていることでしょう。しかし、わかっている人から見るとさほど気にならないかもしれませんが、何も知識がない状態の人からすると、「その場で聞く」よりも「遠隔で聞く」ほうが何倍も精神的負担がかかります。

たとえば、オフィスで机を並べて直に手取り足取り業務を教える場合は、わからないことがあればその場で瞬間的に聞くことができますし、また、「他愛のないことかな」と思うようなことでも、一緒にランチをしに行く道すがらや、廊下ですれ違ったりしたときなど、些細なところで雑談的にわからないところや業務のコツを聞くこともできます。

しかし在宅ワークになってしまうと、そうした「些細なタイミング」がありません。遠隔の場合、一般的な業務指導や引継ぎですら、教えるほうも聞く方もこれまでよりも時間がかかることも多いでしょう。また、相手がこちらから常時目視できる環境であれば、相手の手が空いたタイミングで質問できることも、遠隔の場合、相手が見えません。「もし今作業で集中していたら連絡すると悪いかな」と、聞かないまま終わってしまうということもあるかもしれません。また、新入社員の人達などは、そもそも「どこまでは聞いて良くて、どこまでは自分で調べるべきなのか」という範囲がわかりません。私もこれまでいろいろな会社に訪問してきましたが、会社によって「自分達に聞いてくれたほうが早いから、わからないところはどんどん直接上司に聞いて」という方針の会社もあれば、「基本的にネットで調べられるものは自分で調べて、それでもわからないところを聞いてくれる?」という方針の会社もあります。「会社の方針」というのは、オフィスの「雰囲気」で推し量れることが多く、周囲の先輩達の仕事の様子や会話などから、なんとなく「こんな感じで仕事を進めればいいのかな」と皆さんも会得してきているはずです。それができない今の環境の人達には、今までとはまた違ったフォローアップが必要になります。そのコツを少しお伝えできたらと思います。

私はフリーランスのテレワーカーとしていろいろな会社の社員の方達と仕事をしてきたのですが、私自身も、これまで多くの社員教育や業務指導をしてきました。会社員時代の業務指導と、フリーランスの立場での業務指導の違いは、会社員であれば、毎日指導する相手と直接顔を合わせることができますので純粋に時間的に余裕があります。しかしフリーランスの場合、私もいくつかの会社をかけもちしているので、週に1回、月に1回しか訪問できない会社もあり、訪問した1回だけ、あるいは遠隔だけで業務指導をしなければならない場合も数多くあります。そのため、私も「どうしたら1回の訪問だけで、あるいは遠隔だけで社員教育や業務指導ができるのだろうか」と試行錯誤を今もしています。
その中で有効だなと思える次の3つの方法をおすすめします。

遠隔で社員教育を行う3つのコツ

1. 業務マニュアル・引継書の作成の徹底

これは「経理あるある」の一つですが、経理の方たちは、計算は得意ですが、文章作成が苦手、面倒と考えている人が他の職種に比べて非常に多いです。ですので、経理の業務規程はあっても各個人が担当する業務マニュアルレベルの言語化されたものがない会社が多いのです。そもそも今の時代はコロナに関係なく、正社員、派遣社員、アルバイト、業務委託などさまざまな人達が入れ替わり立ち代わり仕事をする職場環境です。どのような労働条件、業務知識経験のレベルであっても「そのマニュアルや引継書を見ながらやれば、初日から一通りの処理はできる」資料は職場に必須です。そうした体制が以前からできている会社はコロナ禍においても特に問題なく業務ができていたはずです。新入社員や中途社員にそれらの資料をデータで送れば、当人たちも「書面を見ればわかる」ので在宅ワークでも十分対応が可能ですし、「質問をしなければいけない」というストレス機会が激減します。今回を機に、まだ業務マニュアルや引継書を作成していない会社は「いい加減に」作成したほうが良いと思います。

2. 例外事例をたくさん「書き出して」おく

私がクライアント先の仕事の全体像をいち早く理解するためのコツとして、社員の方達に各業務の「過去にあった例外処理の事例」を数多く挙げてもらいます。それによって、その業務全体の「イメージ」「ボリューム」が把握しやすくなり、仕事も進めやすくなります。私は自分が担当した業務の業務マニュアルや引継書を作成する時も、まず一通りの手順書を書いたその下に、<例外事例>という見出しを作り、今まで実際に発生したり、自分の前の担当者が経験したりした例外対応の事例を具体的に10個でも20個でも書き出しておき、それを次の担当者に引き継ぐようにしています。そうすることで、次の担当者は通常の場合は手順書の通りの対応や処理をすればよいけれど、「それが全てではない」ということがまず理解することができます。そして、実際の例外対応の事例を「事前に」読んで理解しておくことで、既存の例外対応の案件、パターンは、通常処理と同様のスピード感でスムーズに対応することができます。そして例外ケースにも記載がない特殊な案件「だけ」、どう対応したらよいか周囲に質問をする、という形にすれば、新任の担当者の負担は圧倒的に減ります。そしてマネジメントするほうも最小限の指導時間で済みます。遠隔同士での作業は「どれだけお互いへの業務上の質問事項を減らせるか」がキーワードの一つになると思います。

3. 遠隔だからこその読書会

今の時代は、たとえば経理で仕訳処理がわからないものなどがあればインターネットで検索すればすぐ答えが出てきます。しかし、インターネットで検索しても簡単に答えが出てこないものもあります。それは「経理社員とはどうあるべきか」といった、「マインドセット」についてです。経理の集計のように「答えが一つしかないもの」ではなく、「答えがいくつもあるもの」に関しては、日頃から社員教育をしたり、意見交換をしたりして認識を合わせていかないと「それは部長の考えですよね。私は私流でやりますので」といった齟齬が生まれやすくなり、遠隔の場合はさらにそうした確認機会が物理的に減ります。そのような場合は、通勤時間が減った分、読書ができる時間がとれたと考えて、毎月1冊、各社員が持ち回りで「自分の感銘を受けたビジネス書」を紹介し合って、それらを会社の経費で研修費として人数分買い、翌月までに各自読んだ上で、定例のリモートでの経理ミーティングの中で感想を言い合う、といったことで「仕事に対するマインドセット」をすり合わせていく、ということも良いと思います。それぞれが大切にしているポリシーや、仕事以外の顔や考え方も見られ、直接的な接触回数が少ない中でもコミュニケーションを補完することができると思います。

在宅ワークという環境の中でも工夫をしながら、実務とマインドセット、両面からフォローをして社員教育や業務指導を行っていくと良いと思います。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

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