2020年7月31日更新

在宅ワークで必要になる経理社員のマインドセット第01回 新型コロナウイルス感染症による経理業務への影響を冷静に分析する

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

先日『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』という本を出版しました。外出自粛期間中に、これからの働き方はどうなっていくのかをあれこれ考えながら書きました。

これまで私は会社員として15年、そして独立をしてフリーランスとして9年仕事をしてきました。フリーランスでは、「フリーランスの経理」として、「毎日出社をしない経理」を既に10年近く実践してきています。

イメージ

既にあるさまざまな経理の「働き方」

具体的には、経営再建で携わった会社では月に10営業日「間引き出社」をして経理部長の代行を3年間行い、黒字転換の後に新たに経理責任者を採用し引継ぎを完了しました。またあるベンチャー企業ではスタートアップ初日から経理をはじめ給与計算などバックヤード全般の手配から採用面談の立会いまで、他の仕事の合間を縫って週に1〜2回伺い、仕訳入力などの事務作業は、会計ソフトをインストールしたパソコンを自宅に持ち帰らせてもらい入力作業をしていました。その間に事務員を一人採用していただき徐々に引継ぎをし、2年後、正式な経理責任者を採用して引継ぎを完了しました。どちらのケースも即戦力のバリバリの経理責任者が転職しづらい条件ですので、そこを転職しやすい条件に整えるのが私の役割の一つだと思っています。

「変わるもの」と「変わらないもの」を仕分けする

今回、新型コロナウイルス感染症の影響で、「もう元の生活には戻れない」など、世の中が全て変わってしまうと思われている方もいるかもしれませんが、実際のところはどうでしょうか。

たとえば、この間まではお寿司が好きだった人がこの外出自粛期間の間に嫌いになる人はいるでしょうか。あるいは今まであるアーティストが好きだったのに、外出自粛期間を機にファンを辞めたい気持ちになったということなどあるでしょうか。確かに変わるものは変わりますが、これまでと何ら変わらないもの、つまり新型コロナウイルス感染症の影響を受けないものも冷静に考えれば山のようにあることがわかります。

このように、新型コロナウイルス感染症は確かに私たちの生活に影響を与えはするのですが、「全てに影響するわけではない」ということを、冷静に受け止めなければいけません。何には影響を与え、何には影響を与えないか、それを客観的に仕分けする必要があります。

職種によって受ける影響度は違う

確かに多くの職種においては新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けています。たとえば営業であれば直接営業先に訪問することさえできなくなり、展示会も中止となるなどしています。これまでの営業の仕方の他に、新しい営業スタイルも模索しなければいけないでしょう。また、総務人事なども、人事採用では採用受験者と直接顔を合わせることすらできず、オンラインで対応しなければいかなかった会社、一旦採用活動を中断せざるを得なかった会社も多いことでしょう。これまでは、社員のモチベーションをいかに上げるかということをテーマに社内の福利厚生に力を入れてきた会社も多かったでしょうが、売上が激減した会社では、それどころではなくなり、オフィススペースや組織そのものの見直しなどに既に着手し始めている会社もあることと思います。

経理が受ける影響度

これらに比べて経理はどうでしょうか。もともと経理は「内勤」ですし、各社員や取引先から証憑が遅滞なく提出されれば、セキュリティの部分さえクリアすれば、実際は会社でも、会社でなくてもできる業務が既に数多くあります。入出金処理はWEBで行えますし、全日在宅は無理でも、監査や決算を除く日常業務では、週に1回などの出社でも問題なくこなせる会社も、業種によっては多いのではないかと思います。

しかし今回、実際には多くの職種の中でも特に経理は出社しなければいけなかった、という話をよく聞きました。3月決算の会社が多かったというのも一つでしょうが、そうでない会社でも、緊急の振込や税金などの納付、現金や小切手、手形などの準備ややりとりが必要だった、取引先から郵送で届く紙ベースの支払請求書のとりまとめ、売上請求書や経理精算の集計や入力なども、突然の外的環境の変化に短期間では在宅シフトに対応できず、結局経理が出社してこれまで通りのやり方で対応した、このような理由などから出社せざるを得なかったという方も多かったのではないでしょうか。

つまり経理に関しては、「経理そのもの」は、新型コロナウイルス感染症によって簿記のルールが改訂されるわけではありませんので、業務そのものの根幹は揺らぎません。その点は他の職種よりも新たに対応する項目少ないはずです。しかし一方で経理の仕事の大きな特徴は「他部署の社員や取引先など、周囲の『ヒト』の影響を大きく受ける」という点があります。

他の職種にはない経理特有の事情

いくら自分が折り目正しく仕事をして期日管理をしていても、他部署の社員や取引先が期日に遅れた処理、間違った処理、そして未処理の案件が出てくると、その連鎖を受けます。その点が他の職種に比べて大きく違う点です。

そのため、今回の新型コロナウイルス感染症によって「ニューノーマル」と言われる時代に経理は今後どのような面を強化しなければいけないかというと、営業や総務人事などのように、業務そのもののやり方を根底から見直すということではなく、経理業務が在宅、あるいは週1回の出社などで対応できるように、「経理ルールの理解と厳守」を自分達以外、つまり「経理が専門でない人達、全員」に啓蒙、徹底する、ということが最初のタスクであると思います。各人に「計数的な処理に関しての自律、自立を支援する」ということです。

逆に言えば、この点が守られない限り、いくら最新の会計ソフト、コミュニケーションツールを入れても、経理の在宅ワーク化、月次決算の早期化はまずできません。

経理担当者が「来週月曜日に、紙ベースの支払請求書を回収しに出社しますので、専用のトレーに入れておいてください」とアナウンスしても、それを読んでいない、理解していない、忘れていて全く提出されていない、ということではまずこれまでより月次決算が遅くなるのは目に見えています。そして経理担当者が、在宅ワークで「月次処理が終わった!ゆっくりネット配信のドラマの続きでも見よう!」とくつろぎ始めたときに「すみません…。300万円の支払請求書がPDFで送られてきたんですけど、どうしたらいいですか」という現場社員の問い合わせがメールで来たら、在宅ワークは周囲に愚痴を言える同僚がいない環境ですので非常にストレスもたまります。そして結果的に通勤時間以上の時間を余計な作業にかけることになります。

経理が在宅ワークを可能にする必須条件

在宅ワークや間引き出社で経理業務をするというのは、既に私は随分前からやってきていますので、ニューノーマルでもなんでもなく、ノーマル手法の一つと考えたほうがいいです。既にそこまで経理をとりまく環境は進化していました。むしろ、「週に1日出社した日」に「完璧に資料が揃っている」状態を作り出すことができるかどうか、それにかかっています。私がフリーランスの経理として遅滞なく業務を行ってこられたのも、このことを各クライアント先の社員の方々にお願いして、毎月「100%」守ってもらっていたからです。

そのためには、どのような指導やコミュニケーション、ルールを作ればよいか、次回以降お伝えしていきたいと思います。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

ページの先頭へ