2020年9月24日更新

在宅ワークで必要になる経理社員のマインドセット第02回 先手必勝!他部署に先んじて在宅ワーク向けの業務フロー提案を行う積極性

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

職場のコミュニケーションにおいて、コロナ以前とそれ以降では大きく変わっていく点があると私は思います。それは、「あ、うん」の呼吸、あるいは「暗黙の了解」といった慣習が、通用しにくくなっていくということです。これまでは、一つの同じ空間に皆が集まって仕事をしていましたので、言葉を交わさなくても気配や雰囲気でお互いの存在、考えていることなどを理解、認識できていたものが、在宅ワークになるとそれが全くできなくなるからです。

積極的に声を上げる

それは何を意味するかというと、「自分が黙っていると、誰からも気にかけてもらえない」労働環境になっていくこともあるということです。経理の皆さんは控えめな方が多いので、「それならそれで、むしろ落ち着いて仕事ができるのでありがたい」と思う方もいるかもしれません。ただ、私がフリーランスのテレワーカーとして長年働いてきた経験から申し上げますと、やはりテレワークの環境というのは「言ったもの勝ち」「早いもの勝ち」の側面があります。経理の皆さんが、自分の在宅ワークの労働環境をよりよくしたいのであれば、積極的に声を上げていくことを私はお薦めします。

現場の都合で出社を余儀なくされた

先日、ある会社の経理部に研修で訪問した際に、「コロナ以降、久しぶりですね」という互いの挨拶の後に、私が「外出自粛期間中、在宅ワークで困ったことなどありましたか」と伺いました。すると、「いえ、結局、外出自粛期間も経理部だけはほぼ毎日出社していました」と言われ、てっきり在宅ワークをしていると思っていたので驚いてしまいました。その会社の方針としては、外出自粛期間は、在宅ワークにできる人は原則そうしてください、という指示を出していたそうですが、他部署は週に1日だけ出社などという形にできたのが、結局経理部はできなかったということでした。

私はその話を伺って、経理部としてコロナ禍での業務処理方法に関する提案の「初動」が遅かったり、提案内容が弱かったりすると、「他部署の在宅ワーク提案」が優先、採用されてしまい、経理部が在宅ではコントロールできない業務フローが会社として出来上がってしまうということだなと思いました。

たとえば営業部や製造部が「自分達の実務」に関しての在宅ワークでの業務フローを経営陣に提案して了承されてしまうと、経理部は、現場から発生するだろう緊急の請求書の処理や振込処理などに関しても、「経理部の都合」ではなく、「営業部や製造部の都合」にそれぞれ合わせなければいけなくなってしまいます。それも加味してくれたフローを作ってくれていたらいいですが、そういうことはあまりありません。多くのケースでは、現場部門でイレギュラーなお金に関することが発生した場合に、経理社員はその都度誰かが出社をして対応しなければいけなくなります。そのイレギュラーが、1か月に1回程度ならいいですが、どの会社でも1日か2日に1つは発生する会社が多いでしょう。その1つだけのために、経理が出社をする、という非生産的なことが起きるのです。

在宅ワークを実現するためには

まず経理社員が在宅ワークを実現するためには、他のどの部署よりも先んじて、「経理の都合」を正確に会社に伝えることが大切です。「都合」というのは、「自分勝手な都合」ということではなく、「会社の業務をまわしていくために必要最低限な都合」です。それをはっきり伝えないと、経営陣や現場の管理職はプロ並みに経理実務に詳しいわけではないので、悪気なく、「現場には都合が良いけれど経理にとっては都合の悪い在宅ワークのルール」を提案、採用してしまうことがあるからです。在宅ワークの労働環境の場合、「自分から手を上げた人」から優先して意見を言える、聞いてもらえる、ということが起こりがちなことを常に意識してください。逆にその傾向を活かして、経理部からの提案を積極的に行っていくと良いと思います。

経理部が在宅ワークを実現するためには、在宅ワーク向けのソフトウエアを揃えないと絶対にダメと思っている方も多いと思いますが、厳密に言えば、それがなくても対応は可能です。なぜなら私は10年近く前からテレワークで経理を実際にやってきましたし、自宅で会計ソフトを見られない環境でも、月10営業日の出社で、経理部長の代行を3年間実際にやってきたこともありました。旧来型の会計ソフト、Excel書式の経費精算申請などでも、必要最低限の出社日数で、月次決算までやろうと思えばできると思います。肝心なのは、「最低限の出社日に、完璧な全員分の資料さえその場で頂ければ」あとは、家であろうが、どこであろうが、チェックや仕訳データの生成などの「下処理」までは対応できます。そして次回出社した時に、それらのデータを会計ソフトに流し込んでしまい、最終チェックをその日のうちにしてしまえば、月次決算も確定できてしまいます。ただ、若手社員はそこまでのスキルを積むのははまだ難しいと思いますし、現状は、状況によっては1か月のうち全く出社できなくなる可能性も0ではありませんので、コロナ禍の状況でしたら、経理社員が自宅でも作業ができるソフトウエアの導入など、良いものはどんどん取り入れたほうが良いと私は思います。

ただ残念ながら、会社には予算というものがあり、他部署の人達も、在宅ワークになるにあたり、経理部と同様に「こういうソフトウエアを入れて欲しい」「こういう備品が必要です」というものを会社に希望を出しているはずです。すると、経営者としては、景気の良い時であればいいですが、今のような「1円でも経費を使わないで済むのであればそうして欲しい」という状況下では、全てのリクエストを叶えられるかどうかは、資金繰りなども見てからでないと判断できません。だから経営陣への提案が、他部署より遅ければ遅いほど、「お金が必要な提案」というのはその内容の如何を問わず採用される確率が低くなっていきます。今後も、会社に対して提案できる機会があれば、特にお金がかかる提案に関しては他部署より先んじて一番に名乗りをあげる積極性を持ってください。

先手必勝!業務フロー提案を行う積極性

おさらいになりますが、どの会社でも、在宅ワークを導入するとしたら、まずは会社の売上に直結する製造や営業などが「止まらないこと」を優先して、新しい「在宅ワークも加味した業務フロー」の作り直しをすることと思います。ただ、そこまでの発想だと、たとえば緊急の振込や仮払いといったイレギュラーな事象が現場で発生した場合、コロナ前と同様「毎日経理社員が出社している前提」になったフローや対応になっているはずですので、結局、現場のアクシデントや緊急事態なのに、「現場は在宅で経理は出社」といういびつな構造が生まれます。そうなってしまうと経理の在宅ワークはまず不可能です。そのため、たとえば

  1. 緊急の外部振込の申請は、金額を問わず全て取締役以上の決裁を要する
  2. 社員への仮払いで緊急かつ〇万円以下の場合は、直属の取締役に一旦立て替えてもらう

というような、在宅ワーク用の経理ルールをすぐ経営陣に提案、採用してもらい、それを加味した上で、現場の業務フローを作ってもらえば、全員が、在宅ワークが可能になる会社全体の業務フローが出来上がるはずです。前述した緊急の支払いに関しても、本当の緊急もありますが、実際は社員が申請し忘れていたのを思い出して結果的に緊急になった、というケースも非常に多いです。在宅になると、各社員が「自律、自立」をしてくれないと生産性が確実に下がりますので、こうした「やや緊張感のあるルール」を作ることで、実際に申請の件数も減り、経理社員も不要な出社を減らすことができます。

今までは、「黙って縁の下で支える」というのが、経理のイメージだったかもしれませんが、これからは「真っ先に声を上げて、皆を支える」というイメージを持つと良いと思います。そうしたイメージを持って業務に取り組むだけでも、「いつも経理は皆をリードして積極的に動いてくれているな」という印象を、直接お互いに会えない環境でも、周囲は持ってくれると思います。

特に今後数年間は、どの会社においても資金繰りを含めて経理は重要な役割を担う局面になりますので、旅行の添乗員のように、時には先頭に立って先導し、また時には最後尾にまわってフォローをする、という働き方のイメージ、意識を持って仕事に取り組むと良いと思います。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

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