National Supercomputing Centre (NSCC) Singapore 様

シンガポール初の国家スパコンセンターを構築
高い稼働率で国・大学・民間企業の研究に拍車

シンガポール国立スーパーコンピューティングセンター(NSCC)は、国内初となるペタフロップス級スーパーコンピュータ「ASPIRE 1」を運営管理する国家機関だ。「ASPIRE 1」は現在、精密医療、海洋工学、AIシミュレーションをはじめ国内外の大学や企業の先端技術研究に新たな道を拓いている。そのシステムと運用を担っているのが富士通だ。温水冷却の技術による高い電力効率、遠隔地をつなぐ高速通信インフラ、公平性と利用効率を両立させるリソースアロケーションなど、要所で大きな力を発揮している。

課題
効果
課題成長産業の研究開発を加速させる環境を整備したい
効果高い稼働率が続いており様々な分野で研究開発が加速
課題温帯地域かつ高層ビルに設置するため消費電力の低減が必要
効果独自の温水冷却技術等でPUE(電力使用効率)1.35を実現
課題国内には大規模HPCを運用した経験のある人材に限りがある
効果機能別に経験豊かな人材を派遣しユーザーの高い満足度を達成

背景

先端科学研究開発の基盤強化を進めるシンガポール
産業振興とR&Dハブを目指し、スーパーコンピュータセンターを設立

経済発展を優先的国家目標に据え、工業経済から知識集約型経済への移行を加速させているシンガポール。2014年には「スマートネーション」構想を立ち上げ、そのためのインフラ整備や実証プロジェクトが多数進行している。

海外投資を呼び込みアジアのグローバルハブとしての地位を固めつつあり、政府主導でさまざまな施策が実施されているが、とくに目を惹くのは科学技術分野での環境整備だ。精密医療や情報通信など、成長産業の研究開発能力を高め経済成長を後押しするとともに、東南アジアや欧米からR&Dの旺盛なニーズを取り込もうと計画を進めている。

そうした背景を受け、シンガポール科学技術研究庁(以下、A*STAR)は2015年、南洋工科大学、シンガポール国立大学、シンガポール工科デザイン大学と協力してシンガポール国立スーパーコンピューティングセンター(NSCC)を設立した。

同センターは、シンガポール国内初となるペタフロップス級スーパーコンピュータを運営管理し、政府機関や大学、企業にHPC(高性能コンピューティング)サービスを提供する。NSCCの立ち上げにあたり、システム基盤構築と日々の運用業務を強力に支援しているのが富士通だ。

Prof. Tan Tin Wee
Chief Executive
National Supercomputing Centre
(NSCC) Singapore
Mr. Vincent Lim
Senior Facilities Manager
National Supercomputing Centre
(NSCC) Singapore

経緯

高く評価されたスパコン構築のノウハウと運用実績
独自技術と緊密なコラボレーションでプロジェクト完遂

2015年11月のNSCCの公募に力のある海外HPCベンダーが競って応札したが、最終的に選ばれたのは富士通だった。

「選択の一番の理由は、投資価値です」と話すのはNSCCの初代チーフエクゼクティブを務めるタン・ティン・ウィー博士。「富士通の提案は、限られた予算で最大のベネフィットが得られるものでした」。また、経験と実績も評価した。富士通は日本で世界トップクラスのスーパーコンピュータを構築・運営しているだけでなく、シンガポールではA*STARと共同でHPCシステムやCoE(研究拠点)の構築プロジェクトを手がけているからだ。

ただし、NSCCの構築には特有の難しい要件をクリアする必要があった。システムを設置するデータセンターの入居予定スペースが都心の複合オフィスビルだったのだ。高速処理がもたらす発熱、オフィスビルの限られた電力、未整備の通信インフラ、加えて現地にHPC運営の経験者が少なく、人材確保も難しかった。

富士通は、国内外で培ったHPCの独自技術とデータセンターの構築ノウハウでこれらの課題を解決。運営部門に自社の人的リソースを投入することで安定稼働の体制を整えた。2016年3月、シンガポール国内初のペタフロップス級スーパーコンピュータ「ASPIRE 1」は稼働を開始する。

「導入プロセスは、初回受け渡しから試運転までとても円滑に進みました」とNSCCの設備担当上級マネージャー、ヴィンセント・リム氏は話す。「当初の計画通りにプロジェクトを完遂してくれた富士通のエンジニアたちに感謝しています」。

ポイント

温水冷却技術で電力効率化
高速通信インフラや持続的運用体制も構築

富士通が今回のNSCCプロジェクトで提供したソリューションは大きく三つある。

第1は、省電力システムだ。NSCCはシンガポール科学技術研究庁が入居する都心の複合オフィスビルの17階にある。熱帯地域の高層ビルに設置されたデータセンターは高い電力消費が課題だが、富士通は独自の温水冷却技術の活用で、PUE(電力使用効率)を1.35まで低減させた。標準的データセンターのPUEが2であることを考えると、これは非常に電力効率が高いことがわかる。

第2は、広域ユーザーとデータセンターを高速接続するための通信インフラの構築である。システムを利用するユーザーである大学や企業の中には、NSCCと物理的に離れているところも少なくない。このためシステムを利用する研究者がストレスなくデータ転送やファイルの書き込みを行うためにはリモートユーザーが高速にセンターにアクセスする仕組みが不可欠だった。富士通は通信ネットワークに広域InfiniBandを採用し、ストレージに高性能な階層型システムを導入することで、この要件をクリアした。

第3は、システムの安定運用だ。「ASPIRE 1」は、スパコン運用の典型的な課題といえるユーザー数増加時における高稼働率を維持している。HPCシステムは多くのユーザーに、公平に、計算能力を提供することが求められる。利用開始時は1,000だった同システムのユーザー数は今では3,000を超える。ユーザー数が多くなると、そのぶん公平に計算リソースを割り当てるオーバーヘッドが大きくなるため、稼働率を維持するには高度な運用技術が必要になる。シンガポールでは大規模なHPCを運用した経験のある人材が限られているため、富士通は現地法人のリソースに加えてHPCの運用ノウハウを持つ専門スタッフを派遣して、「HPCシステム」「ストレージシステム」「アプリケーション最適化」「データセンター運用」と機能別に担当者を配置。ユーザー数が増えても公平性を保った上で高稼働率を実現している。

効果と今後の展望

高い稼働率で精密医療、海上工学、環境解析に成果
富士通とともに産業競争力を高めアジア経済を活性化

こうして好調なスタートを切ったNSCCの「ASPIRE 1」は、サービス開始以来、高い稼働率が続いている。「非常に効率的な運用ができています」とタン氏は語る。「海外大手企業の研究開発部門から問い合わせも殺到しており、月間稼働率が90%を超えることもあります」。

具体的な産業プロジェクトも動き出している。南洋工科大学はペタバイトクラスの遺伝子情報処理により「ゲノムアジア100Kプロジェクト」を始動させ精密医療に活かそうとしている。シンガポール国立大学はHPCの演算能力をフル活用して高度なモデリングとシミュレーションを行い、より安価で安全な海上石油タンクの設計を行った。政府関係では、A*STARが「バーチャル・シンガポール」のデータをもとに住環境のダイナミック流体解析を行い、その解析結果を住宅建設プロジェクトに活かした。また、国家プロジェクト「AI.SG」ではASPIRE 1をAIシミュレーションのHPCプラットフォームとして利用している。

「シンガポールのHPC戦略はいまようやく端緒についたところです」とタン氏は話す。「ASPIRE 1と富士通のサービスチームの力で、それが可能になりました。今後、誰もがスーパーコンピューティングリソースを利用できるようになれば、航空宇宙、自動車、バイオメディカル、海洋工学など多様な分野での共同研究に拍車がかかります。わたしたちはこれからも富士通とともに国内のみならずアジア経済の発展に力を尽くしていきたいと思います」。

National Supercomputing Centre (NSCC) Singapore 様

事業分野 政府機関、大学、企業へのHPCサービス提供
設立年度 2015年
ホームページ https://www.nscc.sg/about-nscc/新しいウィンドウで表示
概要 2015年、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、南洋工科大学(NTU)、シンガポール国立大学(NUS)、シンガポール工科デザイン大学(SUTD)の資金協力により設立。毎秒1千兆回の演算処理が可能なペタフロップス級スーパーコンピュータ「ASPIRE 1」を管理運営し、政府機関、大学、企業に高性能コンピューティング(HPC)サービスを提供する。

[2018年4月掲載]

本事例に関するお問い合わせ

Webでのお問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
ページの先頭へ