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Fujitsu

Japan

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注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

テクニカルコンピューティング


雑誌FUJITSU 2016-11

2016-11月号 (Vol.67, No.6)

富士通は,スーパーコンピュータシステムなどの提供を通じて,宇宙・天文・気候・環境など様々な分野における最先端の科学技術研究を支援することで,より豊かな社会の実現を目指しております。本特集では,ノーベル賞受賞研究などの最先端研究や,富士通のテクニカルコンピューティングのソリューション,先進事例をご紹介します。



巻頭言

テクニカルコンピューティング特集に寄せて (531 KB)
執行役員専務 小野 弘之, p.1-2

特別寄稿

スーパーカミオカンデにおけるニュートリノ観測 (1.36 MB )
早戸 良成, p.3-8
暗黒宇宙の謎に挑むアルマ望遠鏡とその観測成果 (959 KB)
平松 正顕, p.9-13
数値風洞:これまでの軌跡とスーパーコンピューティングの進化 (1.12 MB )
松尾 裕一, p.14-21

最先端科学を支えるソリューション

富士通の軌道決定・軌道予報・軌道解析ソリューション (889 KB)
片桐 征治, 青島 千晶, 大西 隆史, 山本 洋介, p.22-28
宇宙開発の進展によって,人工衛星のミッションとその運用も利用範囲が広がっている。人工衛星の運用では,軌道力学計算技術を用いて軌道の決定・予報・解析を正確に行うことが重要であるが,これらの技術への要求も複雑化・高度化・多様化している。富士通は,日本の宇宙開発において,人工衛星の軌道力学計算システムなどの開発に携わってきている。そして現在も,人工衛星を確実に捕捉・追尾するための軌道決定・予報システム,4億km遠方の探査機の軌道を精度良く決めるシステムなどを開発している。
本稿では,人工衛星・探査機の軌道決定・軌道予報・軌道解析の技術を基に提供しているシステムを紹介し,更に関連技術の活用事例と最新動向を紹介する。
機械学習を活用した映像解析技術による社会課題解決ソリューション (1.29 MB )
長部 大, 飯塚 祐介, 東 明浩, p.29-35
Deep Learningに代表される機械学習を映像解析に応用することが注目されている。筆者らは,交通・セキュリティ分野における都市が抱える社会問題を解決することを目的に,駐車場における満空検知ソリューションFUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Parking Analysis(以下,パーキングアナリシス),および人物・車両を認識するソリューションFUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance(以下,シティワイドサーベイランス)を開発した。パーキングアナリシスでは,リアルタイムに駐車場の満空状況を検知することで,利用者は目的地周辺における駐車場の空き状況を把握することができ,駐車場運営側もデータ解析に基づいた駐車場の有効活用が可能になる。一方,シティワイドサーベイランスでは,リアルタイムに監視映像中の異常事象を自動検知することに加えて,大量なアーカイブ映像データから捜索したい条件に関連する映像を精度良く抽出することが可能になる。これにより,監視や捜索といった業務負荷の軽減を価値として提供する。
本稿では,提供するソリューションに適用した技術,インフラからサービスまで垂直統合したソリューション構成,および活用シーンについて述べる。
「京」の運用のノウハウを活かした大規模HPCシステム向けソリューション (738 KB)
末安 史親, 井上 俊介, 関澤 龍一, p.36-41
スーパーコンピュータやPCクラスタといったHPC(High Performance Computing)システムの運用では,単位時間あたりにより多くの計算を実行できることが重要である。従来のHPCシステムでは利用者数がある程度限られていたため,運用者はシステム上で実行されるアプリケーションの種類や性能を把握することが可能であった。しかし,近年のシステムの大規模化に伴い,利用者数や実行されるアプリケーションの数や種類が増加し,運用者はシステムが効率的に利用されているかを把握することが難しくなってきた。スーパーコンピュータ「京」の運用においても,システム全体での資源(CPU,メモリ,I/O,通信,消費電力)の効率的な利用が課題となっている。この課題に対し,「京」を運用している理化学研究所計算科学研究機構(AICS)は,アプリケーションによる各資源の利用状況の採取と,消費電力の利用効率化への取り組みを開始した。富士通はAICSの取り組みを支援し,アプリケーション情報の自動採取環境,および消費電力予測システムを構築した。
本稿では,「京」の資源利用効率化を支援する大規模HPCシステム向けソリューションについて紹介する。

実践事例

ニュートリノ研究を支えるスーパー神岡実験解析用電子計算機システム (707 KB)
岡田 英之, 大山 幸信, 塚原 知宏, p.42-47
東京大学宇宙線研究所様は,スーパーカミオカンデを利用して超新星ニュートリノ,太陽ニュートリノ,大気ニュートリノの観測,および素粒子の大統一理論の検証研究を行っている。スーパーカミオカンデは,地下1,000 mに建設された5万トンの超純水を蓄えた水タンク(直径39.3 m,高さ41.4 m)と,その壁に設置された11,129本の光電子増倍管(直径50 cm)から成る巨大な観測装置である。スーパーカミオカンデで観測されるデータは1日あたり約45 Tバイトであり,観測データからノイズを除去した約500 Gバイトのデータが保存され,ディスク装置に蓄積されているデータはユーザーデータを含め3 P(ペタ)バイトにも及ぶ。自然現象を対象に観測を行っており再現不可能な事象であるため,24時間365日の確実なデータ取得と長期にわたる観測データの保存が富士通の課題である。富士通ではこの膨大なデータを大容量ディスクに確実に格納,高速にアクセスして解析し,データを安全に長期保存するためのスーパー神岡実験解析用電子計算機システムを2012年2月に導入した。
本稿では,本計算機システムを活用した確実な観測データ取得,高速なデータ処理,長期間のデータ保存のための工夫について紹介する。
スペースデブリ観測の実施成果 (1.39 MB )
足立 学, 大西 隆史, 亀山 雅也, p.48-54
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様のスペースデブリ(宇宙ごみ)観測に関わるデータ処理と軌道の解析において,富士通がシステム開発と運用業務を長年にわたり実施している。スペースデブリは人工衛星への衝突や地上への落下の危険性があることから,光学望遠鏡やレーダー設備から得られるデータを使用して,スペースデブリの軌道の把握を進めてきた。更に,その軌道情報を用いて,スペースデブリの人工衛星への接近監視や,大気圏への再突入に関する予測解析の実施に当たり,技術開発やシステム構築で支援してきた。技術面では,軌道把握,接近監視,再突入予測解析を精度良く実現する軌道計算技術,スペースデブリの観測の確実性を高める技術,少ない観測拠点でも効率良く軌道把握ができるように観測計画を適正化する技術を確立した。一方,システムにおいては,軌道や解析の計算精度の確保と,大量のスペースデブリのデータを短時間に処理可能とするための並列分散処理化や自動化を図ってきた。
本稿では,スペースデブリを管理・解析するシステム構成と機能を紹介する。また,観測の主要業務を挙げ,それらで適用している技術とその成果について述べる。
全球降水観測計画を支えるGPM/DPRミッション運用系システム (712 KB)
堤 純平, 大堤 新吾, 押山 知之, 田島 実香, p.55-60
全球降水観測計画(GPM:Global Precipitation Measurement)は,十数機の人工衛星によって地球全体の降水を高精度・高頻度で観測する国際協力プロジェクトである。観測で得られたデータは,気象予報,防災,農業,水資源管理,教育などにおいて幅広く活用されている。富士通は,GPMの観測データの加工・配信・保管などを担うGPM/DPR(Dual-frequency Precipitation Radar)ミッション運用系システムを構築した。このシステムに対しては,プロダクト(観測データを加工して作成されたデータ)提供の即時性,可用性,加工処理制御の柔軟性の三つの面で高いレベルの要求があった。富士通は,これまで数多くの地球観測衛星の地上システムを構築してきた。これらの経験から得たノウハウを駆使して,システムインフラと業務アプリケーションの両面で施策を講じ,要求を実現した。
本稿では,GPM/DPRミッション運用系システムの特徴について述べる。
JAXA調布FX100スパコンを利用した衛星データ処理 (1.04 MB )
鳥居 雅也, 田中 佑季, 井上 淳一, 坂口 吉生, p.61-68
衛星データ処理の国際共同ミッションにおいて,海外宇宙機関とサービスレベルの比較が行われることから,地球観測衛星のセンサーが観測したデータの迅速な提供の必要性が高まっている。衛星データ処理では,リアルタイム処理に加えて,処理アルゴリズムのバージョンアップ時には再処理が行われている。富士通は,2014 ~ 2015年度にかけて国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様の調布航空宇宙センターにスーパーコンピュータシステム「JAXA Supercomputer System Generation 2(JSS2)」を構築した。JSS2の構築に併せて,複数年にわたる大量のデータを短時間で処理する並列実行可能なアプリケーション「JSS2ワークフロー制御」を開発した。今後JSS2ワークフロー制御は,従来システムとの融合を図り,より汎用的にスーパーコンピュータを活用できるシステムを目指している。
本稿では,JSS2およびJSS2ワークフロー制御の概要と衛星データ処理に適用した技術について紹介する。また,JSS2ワークフロー制御の利用実績と今後の方向性についても紹介する。
気象災害の防止・軽減を支えるアメダス(地域気象観測システム) (934 KB)
小林 卓人, 白猪 諭, 北舘 智, p.69-76
気象庁様の地域気象観測システム(アメダス)は,全国約1,300か所の観測所から降水量,風向・風速,気温,日照時間,積雪の深さなどの観測データを収集するシステムである。観測データは,品質チェックおよび統計値計算などの処理を行い,気象庁の発表する警報・注意報や天気予報などに活用されているほか,気象情報伝送処理システム(アデス)を経由して国内,および一部の観測所のデータはアジアをはじめとする世界中に配信されている。富士通は,2015年度稼働のアメダスセンターシステム更新商談を獲得し,開発を担当している。
本稿では,更新時に実施した取り組みのうち事業継続性の観点として,台風や地震などの影響から観測業務の早期復旧を可能にする可搬型雨量計への対応と,業務効率化の観点として不自然な観測データを自動的に検知する機能について述べる。また,24時間365日の安定稼働を支えるため,富士通の担当SEや各製品事業部,サポート部門,営業などと一体となった保守体制についても紹介する。
インドネシアにおける低炭素社会実現に向けた社会実証の取り組み (1.45 MB )
内田 賢志, 藤井 実, 芦名 秀一, 牧 誠也, 半谷 敏規, 相澤 研吾, 藤田 壮, p.77-86
新興国では,経済発展に伴う急速な都市化や産業化の進展により化石燃料由来のエネルギー消費が増加し,二酸化炭素などの温室効果ガス排出量も上昇することが見込まれている。富士通は,国立研究開発法人国立環境研究所およびボゴール農科大学,バンドン工科大学との連携研究に参画し,インドネシアの都市・産業地区をモデルとして,省エネルギー対策の効果を継続的に検証・実証する取り組みを進めている。その特徴は,インドネシアでのデータ計測実績,保守体制を持つ富士電機株式会社の技術,経験を活用していること,ビッグデータを用いた解析を行っていること,および高い省エネルギー診断技術を持つ富士通セミコンダクター株式会社の技術を活用していることである。導入メリットは,これらの特徴を通じ,インドネシアの風土に合った省エネルギー対策の選定とICTによるその効果の定量的な検証が行える点にある。本取り組みは,大規模な省エネルギー対策を都市や工業団地など広域エリアで水平展開していく際の実態把握と効果検証の手法として今後の活用が期待され,新興国での低炭素社会実現に向けた貢献が期待されている。
本稿では,本社会実証研究におけるICTの役割について論じる。
東南アジア地域HPCを牽引するNational Supercomputing Centre Singapore (776 KB)
宇津井 峻, 山田 基弘, p.87-93
National Supercomputing Centre Singapore(NSCC)はシンガポールの国家スーパーコンピュータセンターであり,「国家研究開発構想支援」「産業分野での研究協業招聘」「国家研究開発能力の向上」を目標として掲げている。このシンガポール国家の研究を支えるHPC(High Performance Computing)システムの構築において,富士通はシステム基盤提供および運用業務を担った。NSCCに最適なシステムとして,PRIMERGYシリーズで構成された計算ノードをはじめ,ストレージ・高速ネットワークを提供した。システムの運用については,これまで培ってきたHPCのノウハウと富士通シンガポールの既存のシステム運用系サービス(マネージドサービス)を組み合わせて最適なサポート体制を整えた。
本稿では,システム導入から運用にかけて直面した課題と,それらに対する対応策を紹介する。
新しい価値創出に貢献する大規模CAEシミュレーション (1.14 MB )
貞本 将太, 金堂 剣史郎, 永濱 由徳, p.94-100
製造業の製品開発における品質向上,期間短縮,コスト削減などの課題に対して,CAE(Computer Aided Engineering)を活用した数値シミュレーションが広く普及してきている。従来は計算環境やソフトウェアが高精度・高性能な計算に対応しきれていなかったために,シミュレーションできる物理現象が限られていた。しかし,近年の計算機の高並列化による処理能力の向上や扱えるデータ規模の拡大,ソフトウェア自体の高性能化により,複雑な物理現象のシミュレーションが可能になってきた。富士通はこれまでに,種々の製品開発に広く用いられるLS-DYNAをはじめとするCAEソフトウェアの高並列計算への適用支援や性能評価を行ってきた。
本稿では,大規模CAEシミュレーションの活用事例として,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構様のaFJRプロジェクトにおけるLS-DYNAを用いた航空機エンジン部材のバードストライクシミュレーションを紹介する。本事例では,テストモデルを用いた評価によって高並列計算を行う上での知見を得た。また,その知見を活用して実用モデルの大規模CAEシミュレーションを行い,従来に比べて高精度な結果を得ることができた。