「オムニチャネル」とは、顧客との接点になっている全てのチャネルを融合させることです。セブン&アイ・ホールディングスやメーシーズ、バーバリーなどの企業が取り組んだオムニチャネル事例を、富士通総研 田中 秀樹がご紹介します。
アメリカ流通業におけるキーワードとして「オムニチャネル」を以前紹介しました。当初、バズワード的に見られていたようですが、日本でも小売業各社がオムニチャネルの戦略を発表したことにより重要なキーワードとして定着したようです。企業の本格化したオムニチャネルの取り組みは、今後どのように進化していくのでしょうか。
2013年11月のセブン-イレブン創業40周年式典の中で鈴木会長は、「セブン&アイ・ホールディングスは第2のステージを迎えた」と宣言し、中心となるビジネスモデルにオムニチャネルを据えました。セブン&アイ・ホールディングスのECサイトで注文したロフトやアカチャンホンポなど各社の商品を全国のセブン-イレブンの店舗で受け取るサービスを開始し、サービス対象店舗を徐々に拡大しています。
大丸や松坂屋、パルコなどを展開するJ.フロントリテイリンググループは、中期経営計画の基本方針としてオムニチャネルの推進に取り組んでいます。「クリック&コレクト」と呼ばれるECサイトで注文した商品を店舗で受け取るサービスや、売場に設置した端末を使って店員がECサイトの在庫を確認し、在庫があればその場で注文ができる「エンドレスアイル」に力を入れています。
小売業大手各社は、自社ECサイトと店舗のチャネルを統合するクロスチャネル的な取り組みからオムニチャネル化を進めているようです。では、オムニチャネルは今後どのように進化していくのでしょうか。2011年にオムニチャネル化宣言をしたアメリカの百貨店メーシーズの取り組みの推移からオムニチャネルの今後の姿を見ていきましょう。
メーシーズはオムニチャネルのコンセプトとして、M.O.M.(My Macy’s Omnichannel Magic Selling)を掲げています。これは、それぞれの顧客のメーシーズになることを目指しショッピングの楽しさを経験価値として提供する、という考え方を示したものです。メーシーズは、「百貨店」と呼ばれるのではなく、「オムニチャネル・ストア」と呼ばれることを目指して、インフラ、売場、接客を進化させています。
M.O.M.以前のメーシーズでは、来店した顧客が求めている商品が売場に無かったとき、店員は他店の在庫を探さずに顧客をそのまま帰していました。これでは顧客の期待を裏切り、ショッピングを楽しんでもらうことはできません。そこで、売場に商品が無い場合は、店員が他店やECサイトの在庫を確認して、もし在庫があれば、顧客の希望を聞いて、商品を店舗に取り寄せたり、顧客に直送できるようにしました。
メーシーズ「FACT BOOK、講演資料」他を参考に富士通総研作成
この対応は簡単なことのように思うかもしれませんが、裏では様々な取り組みが必要でした。まず、各店舗の在庫がリアルタイムで把握できるシステムを構築し、その上で、店員が他店のために発送作業をするようにしました。ただ、店員が他店のために自店の商品を発送しても手間が増えるだけで、自分の売上にならないうえに自店にとって機会損失の可能性もあります。
以前のメーシーズでは、各店舗は個別的に運営されていたので、このような他店のために自店から商品を発送することはあり得ませんでした。そこで、顧客に最適なサービスを提供すれば、顧客はショッピングを楽しんでまた買いに来てくれることを全店員に浸透させました。さらに、店舗部署とEC部署を取り持つオムニチャネル推進部門を作り、組織の壁を取り払うようにして、店員の意識改革に成功しました。
2010年から試行が始まった、この売場から配送するという仕組みは、段階的に拡大され、2014年には650店舗で行なわれています。さらに、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取るサービスを追加したり、配送センターも新築して進化しています。このような取り組みに加えて、個々の店舗に相応しい形で商品戦略と合わせてローカライズすることで、顧客とのエンゲージメント(つながり)を強めようとしています。
メーシーズは、「ショッピングの楽しさ」という経験価値を顧客に提供するために、オムニチャネルを活用しています。オムニチャネルは手段でしかありません、自社が顧客にどのような経験価値を提供するかは各社によって異なるので、オムニチャネルの実現方法も異なるはずです。
実際に、ウォルマートは顧客が商品の受け取りを快適にするために「ラスト・ワン・マイル」に力を入れています。アメリカではECサイトが「オンデマンドEC」と呼ばれる即時配送の仕組みを試行しています。これに対抗する形でウォルマートでは注文から配送までのスピードに焦点をあて、店舗に倉庫管理の仕組みを導入し、店舗から店内在庫を直接配送する「シップ・フロム・ストア」のテストを始めました。この仕組みは、全米に4000店舗以上を有し、店周5マイル(約8km)に全米人口の2/3が住んでいるというチェーンストアの強みを活かした取り組みといえます。
また、ラグジュアリーブランドのバーバリーは、ブランドの価値観を広く経験してもらうために、ファッションショーをネット上でライブストリーミングを始めました。ただ、今までのバーバリーでは、6月に開催した春夏コレクションの商品は翌年の1月にならないと販売できませんでした。これではせっかくライブストリーミングを見て、ブランドに共感して商品を欲しいと思った顧客の期待を裏切ることになります。そこで、縫製のプロセスを変更し、製造ラインを再構築するという大転換を行なって、7週間で商品を発送できるようにしました。バーバリーは、このようなオムニチャネルの取り組みで、今までの顧客層とは異なる1990年代以降生まれの世代に独自の価値観を経験価値として提供することができました。
今後、日本の小売業各社も、それぞれが重視する経験価値を顧客に提供するために、様々な方法でオムニチャネルを活用してくるでしょう。一見、各社同じようなチャネル統合から始まったオムニチャネルの取り組みは、今後多様化して、顧客とのエンゲージメントを強める手段として重要なものになるでしょう。
(株式会社富士通総研 田中 秀樹)
株式会社富士通総研(FRI)
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