国立大学法人京都大学様(以下、京都大学)は、学内の研究用途などに使われる汎用コンピュータシステムの事業継続性の強化とICT投資の最適化に向け、サーバ128台を仮想化して学内にプライベートクラウドを構築し、2012年12月28日に本格運用を開始しました。京都大学では従来も仮想化環境を導入していましたが、今回のプライベートクラウド構築により400台以上の仮想サーバ設定が可能となり、学内の多様なサーバを随時集約し、信頼性と運用効率の向上を図ります。さらに富士通の東日本地区データセンター内に本システムのBCP(事業継続)のためのバックアップサイトを構築・運用し、万一の災害時でも基幹サービスを継続できる環境を目指します。
[ 2013年12月10日掲載 ]
ハードウェア | FUJITSU Server PRIMERGY CX400 |
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ソフトウェア | Red Hat Enterprise Linux KVM , FUJITSU Software ServerView Resource Orchestrator |
1 | より多くの物理サーバを集約したい | Red Hat Enterprise Linux KVMでプライベートクラウド環境を構築し、サーバ運用管理を効率化 | |
2 | 重要なデータを低コストかつ自動的にバックアップしておき、災害時にもシステムの運用を止めることなく事業継続したい | 富士通の東日本地区データセンター内にバックアップサイトを設置し、万一の災害時のシステム運用を可能に | |
3 | ミッションクリティカルなメールシステムを安定的に運用したい | メールシステムを学外で運用することにより、保守体制や信頼性を向上 |
京都大学の汎用コンピュータシステムは、多様なアプリケーションが必要とされるため、WindowsからLinux、バージョン違いを含めて多数のOSが混在しています。そのため2008年から仮想化環境を導入していましたが、サーバの老朽化にともない全面的にシステムをリプレースすることになりました。その背景について、京都大学 情報部 情報基盤課 情報環境支援グループ 学術情報基盤担当 技術専門員(グループ長) 赤坂浩一氏は、次のように語ります。
河原 達也氏
京都大学 学術情報
メディアセンター
教授
「我々は教職員の求めに応じてサーバの構築を行い、教育や研究の分野にICTを役立ててもらう立場です。現場の要求に応じて速やかに必要な環境を構築できるよう、2008年から仮想化環境を構築していたのですが、リプレースのタイミングで最新の仮想化ソリューションを導入することになりました」。
また学術情報メディアセンター教授で、今回のシステムの仕様策定に関わった河原達也氏は次のように続けます。
「本学では、ほぼ4年に一度のサイクルでシステムの更新を行っています。前回(2008年)は物理サーバから仮想サーバへと移行したのですが、仮想化ソリューションも成熟してきたので単純なアップデートではなく将来を見据えて 刷新することにしました。また近年、大学においても災害対策などの重要性がクローズアップされてきたので、総合的にシステムを見直すことにしたのです」。
京都大学では、学内の多様な物理サーバの仮想化と集約、災害対策という視点から主に以下の要件を設定し、新システムの仕様策定を進めました。
京都大学では2008年に仮想化環境を導入したものの、学内の多様なニーズに応えられているわけではありませんでした。そこでプライベートクラウドを構築することで学内のサーバの仮想化集約を進め、サーバ運用・管理の信頼性と効率の向上と消費電力の削減を目指しました。
仮想サーバで運用している一部の重要な情報を保護するために、京都大学内に設置されたプライベートクラウドだけでなく遠隔地にBCP(事業継続)サイトの設置を計画。データを共有することにより、万一の被災時や学内停電時でもBCPサイトの代替サーバへ運用を切り替えて重要サーバの運用を継続できる環境を仕様に加えました。河原教授は、その必要性について次のように語ります。
「2011年の震災の際、他の大学で壊滅的な被害を受けた事例があったので、災害対策は必須でした。サーバを集約すると管理は容易になるのですが、同時に重要なデータも1つのシステムに集約されます。その状況でシステムが壊れると全てを失うリスクがあるため、バックアップ環境は不可欠なのです」。
従来、京都大学のメールシステムは担当技術職員の勤務時間や設備の法定点検により、システムの停止や保守の遅れといった問題が生じることがありました。そこでメールシステムの運用を学外で行うことを決定。その決断にいたった理由を赤坂氏は次のように語ります。
「メールシステムについては重要な情報を扱うだけあって、学内でもいろいろな意見がありました。パブリッククラウドのサービスを利用する方法、本学内に設置したシステムで全てを運用する方法などの選択肢の中、外部のデータセンターにシステムを構築し、我々が責任を持って管理・運用することに決めたのです」。
赤坂 浩一氏
京都大学 情報部
情報基盤課
情報環境支援グループ
学術情報基盤担当
技術専門員(グループ長)
【新システムの概要】
では、なぜRed Hat Enterprise Linux KVM(以下、RHEL KVM)が導入されたのでしょうか? 河原教授は次のように語ります。
「新しいシステムの導入にあたっては十数社から資料を提供して頂き、事前にヒアリングを行いました。従来はVMwareとCitrix XenServerで仮想サーバを構築していたのですが、さまざまな提案を総合して、今回はRed Hat Enterprise Linuxのカーネルに組み込まれているRHEL KVMをメインするという結論に達しました」。
「VMwareに関しては新システムでもアップデートすることで継続しています。しかし安定性やコストパフォーマンスという視点からCitrix XenServerはRHEL KVMに移行し、今後新たに物理サーバを仮想サーバに移行する場合はRHEL KVMを主に活用する予定です」(赤坂氏)。
「ハードウェアという視点で見ても富士通の提案はCPUのグレードが高く、しかも省電力でした。さらにストレージのディスクパフォーマンスにも優れていました。技術審査において数百のチェック項目があったのですが、レッドハットを含めた富士通の提案が価格面も含めた総合評価で上回りました」(河原氏)。
「今回、システム移行のための期間が限られていたのですが、富士通のRHELテクニカルデスクサービスのおかげもあって、予定通り新しいシステムを稼働させることができました。実際、汎用サーバは日常的に稼働してい るものなので、1日どころか数時間も止めることは困難です。そんな中、利用者に大きな影響のない範囲で手際よくシステムを移行してくれました」(河原氏)。
「現在、RHEL KVMで250台の仮想サーバがプライベートクラウド上で稼働していますが、今後さらに多くのサーバをRHEL KVMで仮想化して収容する予定です。性能的には400台以上の設定が可能なので、今後4年間の学内の ニーズに応えられるでしょう。RHEL KVMはライセンスコストを低減できるので、大規模なサーバの集約に向いていると思います。」(赤坂氏)。
「富士通のデータセンターにも大変満足しています。実際に見学にも行ったのですが、強固なファシリティはもちろん、適切な人員で効率的に管理されていることにも感心しました。そうしたノウハウを我々ユーザーにも享受して もらえるとありがたいです」(河原氏)。
富士通の東日本地区データセンターは、各種自然災害の被災危険度の低い場所に立地しており、安全性・信頼性・効率性を兼ね備えた最新鋭の災害対策設備と、24時間365日体制のシステム運用を提供しています。そのデー タセンターにおいて、ICT投資を最適化しながら、全学の教職員メールシステムの高信頼性と高セキュリティ、高可用性を実現、さらにバックアップ用のBCPサイトの構築も計画。また京都大学のプライベートクラウドとデータセ ンター間の接続に学術情報ネットワークSINET4を利用することで、低コストでネットワークの信頼性と利便性の向上を図ると同時に、ICT資源を有効に活用しています。こうした取組みは全国の大学でも数少なく、先進的な例と言えます。
設立 | 明治2年 [舎密局(せいみきょく)] |
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大学設置 | 明治30年(京都帝国大学) |
設置者 | 国立大学法人 京都大学 |
学生数 | 約23,000名 |
大学概要 | 創立以来、京都大学の中枢部が置かれている吉田キャンパスを始め、宇治キャンパ ス、桂キャンパスの3つのキャンパスに様々な教育・研究施設を配する総合大学で す。歴史と伝統を継承しつつ最先端の研究教育が展開されノーベル賞受賞者を輩出 するなど、民間・研究機関を問わず、あらゆる分野をリードする人材が育っています。 |
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