2019年06月03日更新

物流危機への処方箋 第09回 AIとロボティクスのゆくえ Ⅰ

山田経営コンサルティング事務所代表 中小企業診断士 山田 健 氏

1. はじまった自動化

ここ数年の物流業界の人手不足を背景に、一部の物流先進企業で物流自動化への取り組みが始まった。もっとも知られた事例は、アマゾン・ドットコムの「アマゾン・ロボティクス」だろう。

2. 棚が動いてくる「アマゾン・ロボティクス」

アマゾン ロボティクス(可動式の商品棚とドライブ) アマゾン ロボティクス(可動式の商品棚とドライブ)
出所:Lnews(https://lnews.jp/2016/12/i120616.html 新しいウィンドウで表示

「アマゾン・ロボティクス」は、「可動式の商品棚」とその商品棚を動かす「ドライブ」から成り立ち、入荷商品の「棚入れ」と顧客の注文商品の「棚出し」の工程を担う。商品を格納したりピッキングしたりする際に、AIで制御されたロボットが商品を保管している棚の下に潜り込み、下から持ち上げて棚ごと作業者の手元まで運んでくる、という仕組みである。

アマゾンのフルフィルメント・センター(物流センター)は、場所によってはワンフロア8,000坪に及ぶこともある。作業者がその広大なセンター内を移動することを考えれば、商品棚が移動してきてくれるわけであるから、一人当たりの生産性は向上する。
自動化というと、格納されている棚からいかに効率よく商品を取り出すか、という視点に傾きがちだが、棚自体が移動してくるという発想は新鮮である。
アマゾンは2012年に7億7千5百万ドルで、この装置を開発した「KIVAシステム」を会社ごと買い取ってしまった。現在、欧米を中心に4万5千台以上のロボットが稼働しているという。日本でも、2016年12月に川崎市、2018年6月大阪府茨木市、そして2019年4月に京都府京田辺市のフルフィルメントセンターに導入された。ニトリの物流センターにも採用された。
同様のモデルには、日立製作所の「Racrew(ラックル)」、ダイワロジテックと資本提携したGroundの「Butler」、アリババグループの採用した中国のGEEK+(ギークプラス)の「EVE」などがある。

3. 上部から出し入れする「Autostore」

もう一つの有名事例は、日本ではオカムラが2014年9月に発売したノルウェー「Jakob Hatteland Computer社」製の「Autostore」である。
Autostore は、専用コンテナを高密度に収納し、ロボットがコンテナの出し入れを行う自動倉庫型ピッキングシステムである。格子状に組まれたグリッド(支柱・梁)、ビン(専用コンテナ)、ロボット(電動台車)、ポート(ピッキングステーション)の各モジュールで構成される。

自動倉庫型ピッキングシステム「Autostore」1

自動倉庫型ピッキングシステム「Autostore」2
自動倉庫型ピッキングシステム「Autostore」
出所:Okamura(http://www.okamura.co.jp/company/topics/butsuryu/2014/autostore_1.php 新しいウィンドウで表示)

アマゾン・ロボティクスと同様、ロボットが商品の格納、取出しを行ってくれるため、作業者の移動は最小限ですむ。商品はグリッドの上部から出し入れされるために、作業用の通路もいらない。グリッドを増やしたり減らしたりすることで、保管キャパシティが柔軟に調整できる。高度な保管効率と高い自由度を実現したシステムである。
下の方に保管された商品を取り出すのが大変と思われるが、入出庫を繰り返すうちにAIが出荷特性を学習し、上段に動きのよい商品が保管されるように制御されているという。
ニトリが通販向け物流センターで採用したことで広く知られるようになった。

4. ハードルが低い「追随ロボット」

ここに紹介したような機器を導入するには莫大な投資負担が発生する。アマゾン・ロボティスクは1台数百万といわれているし、専用の商品棚も必要である。ロボティクスを制御するソフトの開発・メンテナンス・修正費用なども発生する。Autostoreも同様である。これだけの投資負担に耐えられるのは一部の先進的な荷主企業である。投資回収期間が長期にわたるので、荷主との長期契約を結べない物流会社ではまず踏み切れないであろう。レンタル・ビジネスも始まっているが、今のところ先行きは不透明である。
適合する商品も限定される。いまのところネット通販など小ロット多頻度に動く消費財で、動く棚やビン(専用コンテナ)に収まるサイズ、といったところに対象であろう。大量大ロットで動く飲料や食品、サプライチェーンの上流に位置する素材や中間財などは難しい。
もう少し現実的な自動化レベルで期待されるのが、「追随ロボット」である。貨物を積載した台車がセンサーにより前を歩く作業者にカルガモのように追随していく。一人で3台程度まで追随させることができるので、作業者の負担軽減、庫内作業の省力化を図ることができる。価格もそれほど高くはないようなので、物流事業者や中小企業でも十分導入が可能である。まずは、こうしたハードルの低いロボティクスから始めるのが現実的なステップといえよう。

追随型ロボット「THOUZER」
追随型ロボット「THOUZER」
出所:http://tana-x-thouzer.com/ 新しいウィンドウで表示

著者プロフィール

山田経営コンサルティング事務所
代表

山田 健(やまだ たけし)氏

Webサイト:http://www.yamada-consul.com/
流通経済大学非常勤講師

1979年 横浜市立大学 商学部卒業、日本通運株式会社 入社 。総合商社、酒類・飲料、繊維、アパレルメーカーなどへの提案営業、国際・国内物流システム構築に携わった後、 株式会社日通総合研究所 経営コンサルティング部勤務。同社取締役を経て2014年、山田経営コンサルティング事務所を設立し、中小企業の経営顧問や沖縄県物流アドバイザー、研修講師などを務めている。
主な著書に「すらすら物流管理」(中央経済社)、「物流コスト削減の実務」(中央経済社)「物流戦略策定シナリオ」(かんき出版)などがある。

山田 健 氏

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