2018年11月13日更新

物流危機への処方箋 第03回 バブルで何があったか~物流危機を振り返る

山田経営コンサルティング事務所代表 中小企業診断士 山田 健 氏

1. バブルで起きたこと

いまの物流危機に似たような事態はバブル期にも起きている。いまや直接体験した人も少なくなってきたバブル期とは、おおむね1986年から1991年ころを指す。私事で恐縮であるが、筆者はこの時期東北のある地方都市で物流会社に勤務していた。
バブルとは、いうなれば金融と建設のバブルである。地方都市にも、それまで目にしなかったような高層ビルが次々と建設されていく。バブル景気による急激な物量増と、建設作業員へと流れるドライバー。主にこの2つの要因によってバブル期の物流危機は引き起こされたと考えてよい。
特徴は、著しい人手不足とそれにともなう急激な運賃上昇である。とにかく明日の車が足りない。人が集まらない。筆者は営業を担当していたが、仕事をとるのではなく断るのが仕事であった。「運悪く」仕事をとっても「人がいない」「そんなの誰がやるんだ」と現場に怒られてしまう始末。最近も似たような状況かもしれないが、荷主には車と人が確保できないことをお詫びする毎日であった。
バブル期の運賃上昇は急激であった。10%、20%といった上げ幅でほぼすべての運賃、料金が上がっていく。最近の運賃上昇も一部では顕著なようだが、宅配便や路線便(小口の混載輸送)など大手の「インフラ事業」に偏った値上げであるように思われる。いわば、物流会社としてのパワーのある分野での値上げである。
バブル期に広範囲で値上げが起きたのは単純な理由だ。荷主もバブルで儲かっていたからである。ケタは違うが交際費が青天井だったことを考えれば、物流費の上昇にもそれほどの抵抗がなかったのかもしれない。最近の値上げは荷主が採算悪化を覚悟でやむを得ず受け入れるか、泣く泣く販売価格に転嫁せざるを得ないか、のどちらかである。当時との大きな違いであろう。

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2. 貸し切り貨物が路線便へ

もうひとつ現場で起きていた現象として、貸切り貨物が路線便(小口貨物のトラック輸送便)へ流れたことがあげられる。ドライバー不足で貸切りトラックを確保できない荷主が、集荷に来た路線便トラックに中ロット貨物(2トンから4トン)を「とりあえず積んでしまう」。本来路線便は2トン以下の小口貨物を混載輸送する手段であるが、中ロット貨物が大量に流れ込んだことにより現場は大きく混乱した。
集荷した貨物を方面別に仕分ける路線ターミナルが貨物であふれたのである。仕分け作業を行うホーム上に大量の貨物が流入することによって、仕分け機能が停止し、貨物が滞留してしまう。こうなると奥の荷物は取り出せず、手前の荷物だけしか幹線車に積み込めない「後入れ先出し」状態となるので、当然、物は届かない。

3. 軽トラで聞いた「クリスマス・イブ」

バブル期は宅配便の急成長期でもあった。再度私事であるが、筆者の勤務する物流会社の扱う宅配便も毎年30%、40%という勢いで伸びていく。バブルの人手不足のなか、当然のことのように配達ドライバーが足りない。昨今と同じである。
配達拠点へは全国から宅配荷物が集まり、あっという間に拠点がパンクする。ネットなどない時代、事務所では問い合わせの電話が鳴りやまない。
社員総出で拠点の荷物仕分けと軽トラックに乗っての配達応援に携わることになる。12月に入るとお歳暮にクリスマス・プレゼントが加わって混乱はピークに達する。とにかく一刻も早く滞留した荷物を届けなくてはいけない。
クリスマスが近くなるとその地方都市の中心街を走る並木通りでは、街路樹に豆電球を灯す「光のページェント」が開催される。いまでこそ「丸の内イルミネーション」などこうした催しは珍しくないが、その先駆けとなったイベントであろう。
筆者の運転する軽トラックが、華やかに彩られた光のページェントの中を走る。東北の冬の日の入りは早く、すでに周辺は闇に包まれている。並木道はイルミネーションを楽しむ人々であふれ活気に満ちている。軽トラックの荷台にはまだいつ配達が終わるともしれない荷物が満載である。つけっぱなしのラジオから山下達郎の「クリスマス・イブ」が流れてくる。いまでもこの曲を聴くたび、配っても配っても減らないあの宅配荷物の山を思い出す。筆者にとって物流危機とは、光のページェントと軽トラックで聞いた「クリスマス・イブ」なのである。

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4. 長い低迷の時代へ

少々生々しい話になってしまったが、バブルが文字通りあっという間にはじけるとともに物流危機も収束した。歯車は急速に逆回転をはじめ、物流業界は物量の減少による人余りと底なしの運賃・料金下落という長い長い低迷の時代へと突入していく。

著者プロフィール

山田経営コンサルティング事務所
代表

山田 健(やまだ たけし)氏

Webサイト:http://www.yamada-consul.com/
流通経済大学非常勤講師

1979年 横浜市立大学 商学部卒業、日本通運株式会社 入社 。総合商社、酒類・飲料、繊維、アパレルメーカーなどへの提案営業、国際・国内物流システム構築に携わった後、 株式会社日通総合研究所 経営コンサルティング部勤務。同社取締役を経て2014年、山田経営コンサルティング事務所を設立し、中小企業の経営顧問や沖縄県物流アドバイザー、研修講師などを務めている。
主な著書に「すらすら物流管理」(中央経済社)、「物流コスト削減の実務」(中央経済社)「物流戦略策定シナリオ」(かんき出版)などがある。

山田 健 氏

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