2020年8月24日更新

医療機関のための"三位一体改革"最新動向第02回 424病院再編統合リストの行方は?

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
よこすか地域包括ケア推進センター長
武藤 正樹 氏

2019年秋、厚生労働省が公表した公立・公的病院再編統合の名指しリスト、いわゆる「424病院リスト」が大きな社会的波紋を広げた。まず名指しされた病院のある自治体の首長が猛反発した。それも無理はない。首長の在任中に地元の公立・公的病院が地域再編で消えてしまっては次の首長選挙が危ない。そうした思いが全国に広がった。

さて424病院リストは地域医療構想の一環として公表された。その意味では本連載テーマ「地域医療構想」「働き方改革」「医師偏在対策」の3つの施策である三位一体改革が広げた最初の波紋といえるだろう。しかし424病院リストは2020年に入って新型コロナ感染の拡大で、その方針の変更を余儀なくされている。この424病院リストの行方を見ていこう。

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1. 424病院リストとは

2019年9月に厚生労働省で開催された「地域医療構想に関するワーキンググループ」(座長:尾形裕也 九州大学名誉教授)で、公立・公的病院を中心とした公立・公的の424病院の再編統合リスト(以下 424病院リスト)が公表された。この424病院リストを巡って各地で反発が広がった。424病院リストで名指しされた病院のある自治体の首長からは「地方の実情が分かっていない」「本当だったらリストを返上してもらいたい」などの批判が相次いだ。このため厚生労働省も全国地方ブロック単位で説明会を開催し、その沈静化に躍起になった。しかし一律の基準で決めたリストで切り捨てるかのような厚生労働省の方針への自治体の反発は収まらなかった。

ちなみに公立病院とは、地方公共団体が経営する医療機関で自治体病院ともいう。地方独立行政法人へ移行した自治体病院や公立大学法人の付属病院なども、慣習上公立病院と呼ばれている。これらの病院には建て替えや運営経費に一般財源からの繰り入れなどの税金が投入されていて、その額は2017年度で8,083億円にも上るという。

一方、公的病院とは日赤、済生会、厚生連、独立行政法人化した旧国立病院などの病院である。公的病院も公立病院とともに運営費交付金や補助金などの財政優遇のほかに、税制優遇として法人税や事業税が非課税措置の対象となっている。こうした財政税制両面の優遇措置は、そうした措置を受けずに公立・公的病院と同じような機能を果たしている民間の医療機関から見れば不公平極まりないと受け取られるのは当然だろう。

では改めてこの424病院リストを見ていこう。424病院は全国1,652の公立・公的病院のうち高度急性期、急性期病床を持つ1,455病院について分析を行ったものだ。なお分析は2017年6月のデータを用いている。図表1に分析イメージを示した。抽出基準は二つあり、(1)診療実績のデータ分析から特に実績の少ないことと、(2)地理的条件の確認から、お互いの機能が類似かつ病院が近接していること。(1)の診療実績については、がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能を挙げており、これらの9つの領域全てにおいて実績が少ない病院をまず抽出した。つぎに(2)の地理的条件では、がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期の6領域について、地域の中に一定数以上の診療実績を有する医療機関が2つ以上あり、かつお互いの所在地が近接している病院を抽出した。

まず(1)の診療実績の少ない病院を抽出、つぎに(2)の地理的に近接している病院を抽出、これらのデータをもとに、それぞれの地域における公立・公的病院の再編・統合の調整を地域医療構想調整会議で行うこととした(図表1)。

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(図表1)出典:厚生労働省「第66回社会保障審議会医療部会」資料(2019年4月24日)

さて、改めて抽出された424病院の内訳について見てみよう。まず424病院のうち(1)診療実績で該当した病院は117病院(27%)、(2)地理的条件に該当した病院は147病院(35%)、(1)および(2)両者に該当した病院が160病院(38%)であった。

次に424病院の都道府県別分布を見てみよう。全国424病院は調査対象病院1,445病院の29.1%に当たり、都道府県別にその病院数をみると、病院数の多い順に北海道54、新潟22、宮城19、長野15、兵庫15となり、地方で地域密着型の医療を提供している小規模病院が多数を占める(図表2)。

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(図表2)

次に424病院の経営主体の内訳を見てみよう。自治体病院など公立病院が257(61%)、日赤、済生会、厚生連、独立行政法人化した旧国立病院など公的病院が167(39%)であった。

2. 424病院リストと地域医療構想

さて今回の公立・公的病院の再編リストは唐突に出てきたわけではない。その起点となったのは2018年3月2日に厚生労働省医政局が各都道府県に向けて発出した通知「地域医療構想の進め方」(以下、「通知」)からである。ここではこの通知の概要を改めて振り返ってみよう。

通知では都道府県に対して、地域医療構想について以下のような取り組みを求めている。

(ア)個別の医療機関ごとの具体的対応方針の決定への対応
(イ)非稼働病棟を有する医療機関への対応
(ウ)新たな医療機関の開設や増床の許可申請への対応

(ア)個別の医療機関ごとの具体的対応方針の決定への対応については、公立・公的病院と民間病院では協議内容が異なるとしている。公立・公的病院については、「新公立病院改革ガイドライン」や「公的医療機関等2025プラン」に沿った病院の地域再編・統合の一層の推進を求めている。

まず2016年に発出された新公立病院改革ガイドラインでは都道府県が策定する地域医療構想の策定状況を踏まえた上で、これまでの公立病院改革ガイドラインの(1)「経営の効率化」、(2)「再編・ネットワーク化」、(3)「経営形態の見直し」に加えて、(4)「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」を2020年度までに策定することを求めている。

また2019年に発出された「公的医療機関等2025プラン」でも、新公立病院改革ガイドラインと歩調を合わせて、以下の事項を記載することを求めている。(1)地域医療構想を踏まえた役割の明確化、(2)地域医療構想を踏まえた当該病院の果たすべき役割。以上について数値目標も含め記載すること。

このように公立病院、公的病院それぞれの改革ガイドラインがすでに策定され、その実施が迫られている。とくに新公立病院改革ガイドラインでは、2020年が策定の目標年となっている。また2020年は地域医療構想と連動している第7次医療計画(2018年~2023年)の中間見直し年に当たる。こうした節目の2020年度を目前にして、今回の424の公立・公的病院の公表がその前年の2019年に断行された経緯がある。決してリストが唐突に出てきたわけではなく、これまでの経緯の上に公表されたものである。

さてこれだけ大騒ぎした424病院リストではあるが、その後の経緯もまたいただけない。なんと2020年1月になって厚生労働省は424病院リスト作成時に入力モレがあったことを公表し謝罪した。たしかにリストそのものにもおかしな点があり問題となっていた。たとえば東京では済生会東京都中央病院が名指しされたが、そのもとになったデータは2017年6月のデータであった。その当時、東京都済生会中央病院は同じ敷地内の新棟への移転中で、データが取られたのは移転前の旧棟のデータだった。この時旧棟は引っ越し直前で病床利用率は20%と極めて低い数字だった。こうした異常値を基にしていることにも不信や異議が事前からあった。

結局、このデータ見直しの結果、済生会東京中央病院を含む以下の7病院が424病院から削除された。7病院は社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院(東京都)、JA静岡厚生連遠州病院(静岡県)、岩国市医療センター医師会病院(山口県)、徳島県鳴門病院(徳島県)、宗像医師会病院(福岡県)、熊本市立熊本市民病院(熊本県)、杵築市立山香病院(大分県)。
同時に20病院が新たに追加されたので、最終的には440病院となった。ただ新たに追加された20病院の病院名は公表されていない。

3. 新型コロナ感染拡大と424病院リストの行方

さて、2020年2月からの新型コロナの感染拡大に伴って、424病院リストも状況も変わった。当初、424病院リストの検証期限について、機能の見直しについては2019年度中に、再編統合については2020年秋までに行うこととしていた。しかし厚生労働省は、2020年3月4日の通知で、「今回の新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から『改めて整理する』」として、事実上の「期限延長」を決めた。この背景には公立・公的病院はコロナ患者の受け入れを求められており、政策の矛盾を指摘する声があがっていたことがある。

これにより新型コロナ感染拡大を受けて、今回の424病院リストでもその感染症病床については再考が必要だろう。というのも、全国の感染症病床の9割は公立・公的病院によって占められ、424病院の内、24病院が感染症指定病院だからだ。今回の新型コロナ感染拡大を契機に、もう一度、公的・公立病院の役割を見直す必要が出てきた。

それにはまず医療計画まで立ち返って見直す必要があるだろう。前述したように今年は第7次医療計画の中間見直しの時期だ。これをとらえて国がまず医療計画の中間見直しガイドラインで「感染症対策」の方向性を緊急的に追記し、それに基づき都道府県が来年度から感染症対策に係る重点医療機関の設定、感染病床計画、専門人材計画、地域感染防止連携体制等をそれぞれの地域事情に合わせて策定することが必要だろう。これに基づき全国的に減少の一途をたどってきた感染病床についての見直しも必要だ。1996年には結核病床、感染病床あわせて4万床もあった病床が、2018年には結核病床4,762床、感染症病床1,882床、あわせて6,642床まで減少している(図表3)。

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(図表3)

「21世紀は感染症との闘い」と言われるように、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、新型コロナなどさまざまな感染症が突然発生する。このためには、地域医療計画の中に「感染症対策」を明記した上で、424病院リストの見直しや感染症病床の見直しに早急に取り組むべきだろう。

著者プロフィール

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
よこすか地域包括ケア推進センター長

武藤 正樹(むとう・まさき) 氏

<略歴>
1974年 新潟大学医学部卒業
1978年 新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務
1986年~1988年 厚生省からニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学
1990年 国立療養所村松病院副院長
1994年 国立医療・病院管理研究所 医療政策研究部長
1995年 国立長野病院副院長
2006年 国際医療福祉大学三田病院副院長・同大学大学院 医療経営福祉専攻教授
2018年 同大学院医学研究科 公衆衛生学分野教授
2020年7月より社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役・よこすか地域包括ケア推進センター長

<政府委員>
・医療計画見直し等検討会座長(厚労省2010年~2011年)
・中医協入院医療等の調査評価分科会会長(厚労省2012年~2018年)
・規制改革推進会議医療・介護ワーキンググループ専門委員(内閣府2019年~2020年)

<著作>
・「2025年へのカウントダウン~地域医療構想と地域包括ケアはこうなる~」(医学通信社 2015年)
・「2040年医療介護のデッドライン」(医学通信社 2019年)
など多数

武藤 正樹(むとう・まさき) 氏

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