2023年8月更新

企業が行うべき攻めのカーボンニュートラル戦略とポイント(1)  

カーボンニュートラルはただのCSR、ただのコスト削減の手段ではなく現在社会で注目されている環境問題への明確なアクションとして企業が取り組むべき課題です。

2026年にEUが導入する予定の国境炭素税に続き、国内でも炭素税導入のための法改正が見えてきている中、カーボンニュートラルに対して受動的な取り組みに留めることなくより能動的なアクションを実践することは企業価値を高めることができる手段でもあります。

今回はカーボンニュートラルを行うべき背景から注意すべきポイント、そして富士通Japan株式会社がカーボンニュートラル戦略策定においてみなさまをご支援できるサービスをご紹介いたします。

カーボンニュートラルのすゝめ ~実現に向けて、次の一手とは~
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1. なぜカーボンニュートラルを行うべきなのか?

そもそもの話としてなぜカーボンニュートラルを行うべきなのでしょうか?
この点について、次のように整理することができます。

政治的観点

  • 2050年の世界的な目標であるカーボンニュートラルに向けた先駆者としてのプロモーション
  • 2026年からEUが「国境炭素税」を開始する予定、そして日本も炭素税の導入が議論されており決定からの対応は困難なため早期対応が必要
  • (導入が確実視される)炭素税への余裕を持った対応

全世界的な環境対策の方針が定まっており、かつ2050年という具体的な期限が定まっています。 そのため各国各企業としてもロードマップを提示し実現に対する姿勢を積極的に行う必要が発生しているのが現状です。

経済的観点

  • 東証プライム市場の約30%が環境問題へ取り組んでいることを重視するポイントとしており市場からの資金調達を考える際に企業としてアピールが必要
  • カーボンニュートラルの推進にはサプライチェーンも含まれるため、調達先選定時にカーボンニュートラルへの取り組みがポイントとなるケースが想定される

SDGsやESG(環境、社会、ガバナンス)に対する投資家の目が厳しくなる中、多くの企業が取り組みをアピールして来ています。
上場企業の取り組みを見ても、「やっていることが当たり前」の時代がもう見えてきています。

社会的観点

SDGsは近年の大きなトピックスとなっておりほとんどの企業が何らかの形で自社の企業活動とSDGsを関連させ持続可能な社会への貢献をアピールしています。
カーボンニュートラルは中でも気候変動に直接的に働きかける活動としてのみならず、関連する形で気象災害抑制による14「海の豊かさを守ろう」や15「陸の豊かさも守ろう」、そして付随する形で2「飢饉をゼロに」や3「すべての人に健康と福祉を」といった数多くの目標にアプローチすることが可能になっています。

技術的観点

  • 政府の「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」策定による税制優遇などによりカーボンニュートラル関連市場の技術開発促進

政府としても方針を定めたことにより成長戦略を策定し、新たな技術革新に向けた環境整備を進めています。
国の支援で投資が加速することで新たなソリューションが生まれるため企業としても本格的に取り組む環境が出来上がりつつあります。

国際社会全体としてカーボンニュートラル推進の方針が定められ、進まなければならない状況になっているというのが現在の状況です。
「ようやく取り組んだ」という評価が下される前に「もう取り組んでいる」という姿勢を見せることが企業価値を毀損しないために必要なアクションとなっているのです。

2. 企業として取り組むカーボンニュートラル施策

カーボンニュートラルの対象となる企業活動には大きくスコープが3つあります。

ここで重要なのは、自社の活動のみが対象となるのではなくサプライチェーン全体での排出量が対象になる点です。
そのため各スコープでの網羅的な算出と対策が求められることになります。

Scope1やScope2についてはすでに取り組んでいる企業が多く、工場の電気を再生可能エネルギーでの発電に切り替えたり、電灯をLED化し節電したりするなど、コスト削減努力と並行しているケースが多々あります。
企業によっては測定器も設置して二酸化炭素排出量の測定も進めているかもしれません。

そしてこれまであまり意識されてこなかったのが「Scope3」です。

Scope3については上流、下流に大きく2分割されています。
上流はいわゆるサプライヤー(調達先)を指し、納入商品における各活動(原材料調達、製造、ロジスティクスなど)が入ります。
対して下流は生産工程の後工程での活動になり、製品の仕様や廃棄、輸送・配送などが挙げられます。

カーボンニュートラルに対する取り組みはこのサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量抑制を行う必要があるため社内だけではなく社外も巻き込んだ取り組みを行わなければなりません。

3. 攻めの姿勢でのカーボンニュートラル

カーボンニュートラルをただのCSRの一環ではなく企業として攻めの姿勢にするために必要なのは今までの体制の「カーボンニュートラル」という軸での再評価と取り組みに対するプロモーションです。
SDGsに対する注目度やESG投資が盛り上がる中で自社の価値を高めることは企業の新たな投資を呼び込むことにつながります。

ただのCSRやコストカットに留まるか投資として捉えられるかは担当者のカーボンニュートラルアクションに対する取り組み、そしてプロモーション力にかかっているとも言えるのです。

例えばカーボンニュートラルに対する取り組みを数値の計測とコストカットだけに位置づけてしまえば各部門は全てコストセンターとしての見え方になってしまいます。

しかし企業戦略の一環として位置づけておけば、投資家に対して宣言した戦略に沿ったアクションとして企業価値を高めるための活動にすることができます。

さらには外部評価を活用することでトランスペアレンシー(情報の透明性)を高めることにもなり、ガバナンスに対する評価も上げることができます。

外部評価としてCDPやDJSI、RE100などを用いてより自社の信頼性を高める行動につなげることを検討してもよいでしょう。

環境省や経産省でも取り組み事例を公開しており、こうしたページへの掲載を通じて企業価値を高めることも考えられます。
参考:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 企業の取組事例|環境省新しいウィンドウで表示

4. 企業のカーボンニュートラルに向けた取り組み事例

省庁が公開しているカーボンニュートラルに対する取り組み事例は多数あり、自社での施策検討の例として参考にすることができます。

アスクル

  • 2030年までに自社の事業所や物流センターで使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替える方針
  • 2020年グループ全体の電力使用量の34%が再生可能エネルギーに
  • 自社配送車両に対する電気自動車(EV)の導入
  • ラストワンマイルの配送拠点である新木場センターで2020年8月に電力を再生可能エネルギーに切り替え。これにより充電から走行時までのCO2排出量ゼロを実現
    参考:サステナビリティ報告(環境・社会活動報告)| ASKUL新しいウィンドウで表示

積水化学工業

  • Scope3の目標達成に向け購入した製品サービス(カテゴリー1)の5割を占める樹脂原料を非化石由来へ転換し再生材料の使用を拡大、販売した製品の廃棄(カテゴリー12)のGHG排出量削減にもつなげる
  • 販売した製品の使用(カテゴリー11)においては、セキスイハイムの省エネ性能と大容量PV・大容量蓄電池によるZEH住宅の拡販がGHG排出量削減に大きく貢献
    参考:2030年温室効果ガス排出量削減の新たな目標を制定|積水化学工業株式会社新しいウィンドウで表示

いずれの企業も自社の取り組みの中でのコアとなる部分をカーボンニュートラル活動に転換することにより企業姿勢としてのカーボンニュートラル推進をメッセージ発信し事業との一体性、一貫性を強く押し出している例となります。

5. 企業がカーボンニュートラル施策を検討するうえでの注意点

自社でカーボンニュートラルに対する取り組みを考えるうえで注意しなければならない点は複数あります。
その中の一例をみてみましょう。

上流工程の温暖化ガス排出量計算方式

Scope3の上流工程においては大きく分かれて2種類の排出量計算方法があります。

  1. 一次データを利用したCFP(カーボンフットプリント)計算
  2. 二次データとしてのデータベースの業界平均値を利用したCFP計算

一次データを利用する場合サプライヤーの削減努力が反映されるものの、一方でサプライヤーとしての負荷増加に対してのインセンティブ設計をどのようにするかを考慮する必要があります。
特にサプライヤー側は複数の取引先に対して商品を提供しているため、自社に対しての提供分のみにデータを絞り込んで計測するなどの手間が発生するとなると非常に大きな負荷がかかることになってしまいます。
対して二次データを利用する場合、データとしては出しやすくなるもののサプライヤーとしての努力が反映されずサプライチェーン全体としての努力が見えづらくなってしまいます。
また、自社が調達しているサプライヤー内での排出量が実態としては企業努力によって二次データの値よりも少なかった場合などはサプライチェーン排出量が実際よりも大きく算定されてしまうため自社として必要な削減量が過大に見積もられてしまう可能性も発生します。

自社が取り組む意義・ステークホルダーへの訴求ポイント

攻めのカーボンニュートラルにするためには「なぜわが社が取り組むべきなのか」をストーリーとして作りこむ必要があります。
さらには上場企業であれば「それがどのように企業価値向上に役立つのか」を投資家に納得してもらう必要があります。
新たにカーボンニュートラルに対する取り組みを企業戦略に盛り込む場合は特に背景としての企業理念からカーボンニュートラルに対するつながりを意識した流れをきちんと立てておかなくてはなりません。

社内ステークホルダーとの調整

カーボンニュートラルの活動を推進するにあたり、ハードルとなるのが各部門においてカーボンニュートラルに対する取り組みはそれぞれの部門目標と異なる可能性が非常に高い点です。
戦略から施策までをいくらきれいに組み立てられたとしても、実際の運用が正しく行われなければ実現は不可能になります。

施策の推進者として重要なのはまず経営層との合意、そしてトップダウンでの方針の説明、そのうえでKPI設定を元に各部門において膝をつき合わせたうえで意義を説き納得して貰うことです。
非常に泥臭い部分ではありますが、最も重要な部分とも言えます。

「企業が行うべき攻めのカーボンニュートラル戦略とポイント(2)」へ続きます。

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著者プロフィール

著者プロフィール

富士通Japan株式会社
ソリューショントランスフォーメーション本部
シニアマネージャー
大串 吉正

1996年入社後、Web系の開発部門を経て、製造業・流通業のお客様のアカウントSEとして様々な基幹系システム・情報系システム構築のプロジェクトマネジネントを担当。
現在は、お客様のカーボンニュートラルの実現に向けて、SE経験を活かし、お客様の環境・状況を考慮して最適なグランドデザインを策定する中期計画立案・実現に向けた具体的な施策立案検討支援サービスを展開中。

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