個別に乱立するサービスデスクを改革
ES向上を目指し、富士通社内で取り組むDXとは

500以上のサービスデスクの変革に挑む

企業としてグローバルにデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、お客様に新たな価値を提案し続けるには、それに併せて社内システムも変革が必要です。多方面にわたってDXを推進し自社の変革に取り組み続ける富士通は、従業員が業務に専念できるようにするため、日々進化する社内ITに関する問い合わせやトラブルに迅速に対処できる仕組みの整備に取り組みました。500以上のシステムにおけるサービスデスクの集約と業務標準化に向けたチャレンジについて、プロジェクトマネージャーの今敏夫とシステム構築を主導する柳友紀に話を聞きました。

目次
  1. ユーザーの利便性向上とナレッジ共有を目指し社内ITサポート業務の改革に着手
  2. ITサポートのベストプラクティスをServiceNow ITSMの導入で実装
  3. 導入メリットを訴求しながらITサポートの変革を推進
  4. 問題解決の時間が40%も削減今後もインシデント対応の削減を追及

ユーザーの利便性向上とナレッジ共有を目指し
社内ITサポート業務の改革に着手

富士通は自らを変革するために、様々なDXプロジェクトに取り組んでいます。その一環として行われたのが、富士通社内のITシステムに関する社員からの問い合わせやトラブル対応を行う、ITサポート業務の改革でした。
長年、富士通では社員が利用する業務システムや共通サービス、インフラについて、システム各部門が個別に企画・構築・運用・保守を行っており、ユーザーからの問い合わせやトラブル対応も各部門のサポートチームが受け付けてきました。対象となるシステム数も、自部門だけで500以上に達していました。
しかし、部門別にサイロ化された社内システムの運営、およびITサポート業務を続けてきたことにより、数々の課題が浮上していました。1つが、社員の利便性の向上です。クラウドサービス統括部 シニアディレクターの今敏夫は「これまでは社員からの問い合わせを一元的に受け付ける総合的なポータルサイトがなく、システムやサービスごとに問い合わせを受け付けていたため、『どの窓口に問い合わせしたらよいか分からない』『サポートを依頼したものの該当する窓口ではなく、再度、別の窓口に連絡しなければならなかった』といった不満の声が社員から寄せられていました」と当時の状況を話します。

富士通株式会社
デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部
シニアディレクター 今 敏夫

加えて、サポートやトラブル対応の依頼は主にメールで行われていたため、問い合わせから解決までに数度のやり取りが必要となり時間を要していたことや、時にはメール受信の確認漏れなども起きていたといいます。
一方、サポート側でもメールで受け付けた依頼をExcelや個別構築したインシデント管理システム(オンプレミス)に転記して管理する、といったマニュアルによる運用が行われており、業務効率化が急務となっていました。
また、インシデントに関する「ナレッジの共有化」も課題として挙げられていました。各システムで発生したトラブルやサポート対応のデータは蓄積されていたものの、サイロ化されていたため、貴重なデータやナレッジが部門間で共有されていなかったのです。「システムが異なっても、共通したインフラやミドルウェアが使われていれば同じような原因でインシデントが発生し、同じような手立てを講じることで解決できるケースがあります。しかし、そうした情報も部門間で共有化されていませんでした」(今)
このほかにも、ITサポートのノウハウが属人化していたことや熟練社員の定年退職に伴う技能継承の断絶、そして各部門でサービスデスクが複数構築されていたことによる運用保守費の増大も課題視されていたといいます。
「今後、社内ITサポート業務がさらに複雑化することが予想される中、これらの課題を解決するためにもITサービスマネジメント(IT Service Management:ITSM)に基づいた業務改革が急務と考えていました」(今)

ITサポートのベストプラクティスを
ServiceNow ITSMの導入で実装

ITサポート業務の改革を後押ししたのが、2020年、「OneFujitsu プログラム」によって掲げられた富士通社内のDX化です。これはグローバル/グループ全体の業務プロセスやデータ、ITを標準化・最適化し、データドリブン経営やオペレーショナルエクセレンス(※1)の実現を目指すもので、同プログラムに基づき、クラウドサービス統括部も「利用者視点の考慮」「運用負荷の抑制」「保守・運用要員の技能継承」「トラブル複雑化の抑制」の4つを目標に掲げ、デジタルを活用した社内ITサポート業務の改革に踏み出します。

  • ※1
    オペレーショナルエクセレンス:企業がその価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げること

また、システム化の基本方針として、「経営グループ/グローバルで1業務1システム」「アプリケーションもグループグローバルで1システム1インスタンス」「クラウドファースト」「運用サポートの集約化によるオペレーションの標準化・効率化」を策定し、複数のツールを比較検討しました。
その結果、富士通は「ServiceNow ITSM」を採用したシステムへ刷新することを決断します。これにより、クラウドファーストの推進、そして、国内外で共通利用できるシステムを構築できると判断したからです。「加えて、ITSMのベストプラクティスであるITIL(Information Technology Infrastructure Library)に準じたServiceNow ITSM のフローや機能を活用することで、ITILに習熟していなくても、おのずとグローバルで標準化された最先端のITサポートも実現できると考えました」と、今は説明します。
また、クラウドサービス統括部 マネージャーの柳友紀も「国内の一部の部門や、複数の海外リージョンで既にServiceNow ITSMを利用していたことも、新システムへの採用の後押しとなりました」と語ります。

富士通株式会社
デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部
マネージャー 柳 友紀

導入メリットを訴求しながら
ITサポートの変革を推進

こうして富士通は、2020年から新システムの導入を開始。約8万人の社員を対象に、全社共通のサービスを提供する「グローバルコミュニケーション基盤」と呼ばれるシステムを先行導入しました。このプロジェクトでは、ITSMの対象となる8つの機能を3つのフェーズに分けて段階的に導入。第1フェーズでは「サービスポータル」「インシデント管理」、続く第2フェーズでは「リクエスト管理」「問題管理」「ナレッジ管理」「変更管理(リリース管理)」、最後の第3フェーズでは「構成管理」「イベント管理」を導入、ユーザーに提供しました。
導入で苦労したことの1つが、これまで個別最適化されていたITサポート業務をServiceNow ITSMの標準機能に基づいたやり方に変革していくことでした。柳は「fit to standard(※2)により、ServiceNow ITSMの機能をそのまま利用してもらいたいと考えていたものの、『今の運用を変えたくない』『現状の機能を継続できるようカスタマイズしてほしい』といった意見や要望も多々、寄せられました」と振り返ります。

  • ※2 Fit to standard:
    システムのアドオン開発を行わずに、業務をシステムに合わせることを目的とする導入方法

「そこで、ユーザーの不安を取り除くためにワークショップや説明会を実施してきました。また、週1回のペースで定例会を開催して常に情報共有を行うなど、関係部門との信頼関係を築きながら、合意形成を進めていきました」(柳)
また、ナレッジの共有化についても、各部門が有するインシデントやサポートに関する情報を新システムに集約させるための仕組み作りに注力しました。具体的には、ServiceNow ITSMに既存のナレッジを一括して登録できるようなフォーマット等を作成し、できる限りユーザーに負担のないナレッジ登録が行えるようにしています。

問題解決の時間が40%も削減
今後もインシデント対応の削減を追及

現在、約80のサービスデスクが新システムへ移行されましたが、既に様々な成果を上げています。1つは、ユーザーの利便性向上です。ITサポートの問い合わせ窓口を「Ask IT」と名付けられたサービスポータルに統合したことで、「ユーザーからは『ピンポイントで問い合わせ先窓口が分かるようになった』との評価をもらっています」と柳は話します。
また、異なる問い合わせ先にユーザーからサポート依頼があっても、新システムに備わっている対応グループにアサイン先を変更できる機能を活用することで、ユーザーは一度の問い合わせで要件を満たせるようになりました。

問題解決の迅速化も図られています。「メールの場合、文面を考えて記載するのに時間がどうしてもかかっていました。対して、チャットベースで気軽にやり取りできるServiceNowの機能を利用し、問い合わせに対して必要な項目を選択して数行記載すれば済むようにしました。これにより、ユーザー、運用担当者ともに作業負担が減り、その結果として1件あたりのインシデントの解決時間を以前と比べて40%ほど削減できています」と柳は効果を説明します。
また、インシデント情報やサポートの情報を一元的にレポートやダッシュボードで参照可能な仕組みにしたことで、ITサポート業務の効率化も実現しました。
「例えば、これまでのサポート状況に関する上長への報告は、担当者が数値を集計し、PowerPointにまとめ直して提出していました。それに対して新システムにレポート機能を実装したことで、そのような作業が不要となっています。また、上長もダッシュボードやレポートを通じて、常にサポート状況を把握できるようになりました」(柳)
このような業務効率化により、各部門にて従業員満足度(ES)を向上させるための取り組みに充てられる時間も増えているといいます。
今回のプロジェクトを成功できたポイントについて柳は「影響や規模の大きいシステムを先行導入の対象としたこと」を挙げています。これにより、新システムの導入効果が社内で広く認知され、最近では他部門からも「顧客サポート等の業務でもServiceNowを利用したい」といった相談が寄せられているといいます。
また、今は「全社展開していくうえでは、各業務システムのマネジメント層の協力も不可欠であり、定例会に必ず出席してもらうなど、信頼関係づくりにも取り組んでいます。このように現場での連携によるボトムアップ、マネジメント層の理解によるトップダウンの両面でプロジェクトを進めてきました」と強調しています。

今後は先行導入されているグローバルとの連携を強化するとともに、上位ライセンスの「ServiceNow ITSM Pro」へと移行し、仮想エージェントやAIチャットボットを活用したITサポートの自動化にも着手していく計画です。今は「これらの取り組みを追求していくことで、最終的には『インシデント対応を発生させない』状況を作り上げていきたいと考えています」と意欲を見せます。
新システムの導入により、社内ITサポートのDXに邁進する富士通。そのチャレンジは、これからも続いていきます。

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