4,000以上も乱立する社内ITシステムの呪縛から解放せよ!富士通が進めるIT業務改革とは

4,000もの社内ITシステムの呪縛から解放せよ!

社内業務及び社内ITシステムの個別最適化は、データ連携の困難さやITの二重投資などの弊害をもたらしますが、グローバル規模の社内業務及びシステム統合となると足踏みをする企業も少なくありません。
富士通も例外ではなく、各リージョン/グループ企業で個別最適を進めてきた結果、社内ITシステムが4,000以上にも達していました。しかし、今後、不確実な時代に対応していくためには、迅速な意思決定のためのデ-タドリブン経営が必要不可欠です。そのためには、ITシステムの集約は避けて通れない課題でした。とはいっても単にシステムを集約すればよいのではありません。そこには個別に最適化された業務プロセスが存在します。そこで富士通が最初に取り組んだのは、業務の戦略・方針と連動し、ITシステムの最適化を進めるための仕組み作りです。4,000以上のシステム統合に向け、どのようにIT業務改革を進めていったのか。プロジェクトリーダーである青木克憲、システムサービス責任者である阿部功一に迫ります。

目次
  1. 4,000以上もの社内ITシステムがもたらす弊害
  2. 目指したのは、グローバルなIT業務改革
  3. Fit to standardとチェンジマネジメント
  4. ユーザと向き合い、アジャイルで重ねる改善
  5. さらに経営の競争力を高めるために

4,000以上もの社内ITシステムがもたらす弊害

――社内業務ITシステムでこれまで富士通が抱えていた課題と、今回のプロジェクトで目指したことを教えてください。

青木: 富士通は日本を含めヨーロッパ、アメリカ、アジアパシフィックの4リージョンで編成し事業を推進していますが、それぞれの業務システムはリージョン/グループ企業ごとに構築・運用し個別最適化してきており、その数はグループ全体で4,000以上にも達していました。
この変化の激しい時代、データドリブン経営の重要性は一層高まってきています。富士通もグローバルに経営判断の速度を上げていくには、これまで個別最適化されてきた業務プロセスや社内ITシステムをグループ全体で最適化し、OneFujitsuプログラムのもと、データドリブンマネジメントとオペレーショナルエクセレンス(※1)を実現することが急務となっていました。それぞれに個別最適化したシステムが乱立したままでは、データを連携し横串に見るにも膨大な作業が必要となり、データドリブン経営も失敗に終わるリスクが高まります。

  • ※1
    オペレーショナルエクセレンス:企業がその価値創造のための事業活動の効果・効率を高めることで競争上の優位性を構築し、徹底的に磨き上げること

また、4,000以上もある社内ITシステムは、企業にとって二重のIT投資という弊害も生んでいました。それら重複したシステムをシンプル化し、IT投資を中央集権化することで不要なIT投資やシステムの運用費用を削減し、新規投資に回すという目的もありました。

富士通株式会社
デジタルシステムプラットフォーム本部 グローバルヘッドオフィス
シニアマネージャー 青木 克憲

目指したのは、グローバルなIT業務改革

――DX企業として競争力を高めるには、グローバルで社内ITシステムの統合・標準化が必要だったということですね。

青木: 単に社内ITシステムを統合・標準化するだけではありません。私たちは「エンタープライズアーキテクチャ(EA)&ITガバナンス(※2)」に基づき、業務部門の戦略や方針に寄り添った社内システム群の最適化に取り組んでいます。いわば社内IT投資管理の改革です。改革は業務部門と連携しグローバルに進めていますが、今後はもっとIT部門からも提案していけるようにし、業務部門のバリューパートナーとして一体となって進めていきたいと考えています。また、これを実現できないと富士通としての競争力が失われてしまうという危機感も持って推進しています。

  • ※2
    エンタープライズアーキテクチャ(Enterprise Architecture)&ITガバナンス:組織全体の業務とシステムをモデル化し、全体最適化によって社会課題に柔軟かつスピーディに対応するためのフレームワークおよび、組織のIT活用を監視・規律する仕組み

Fit to standardとチェンジマネジメント

――業務とITシステムを連動させながら、グローバルなIT業務改革を行うのはとても大変なことだと思います。どのような工夫をして進めてこられたのでしょうか。

青木: まず始めに「Fit to standard(※3)」をコンセプトに掲げました。そしてそれを実現することができるツールとしてServiceNow(※4)を導入しましたが、ツールが持つ標準プロセスをベースに業務の標準化を進めてきた点は良かったと思います。これまでのIT業務プロセスは日本と海外を比較しても異なる点が多く、標準化していくことは大変な作業でした。そのため、それを実施するにあたり、日本のプロセスを海外に押しつけるのではなく、今あるスタンダードな部分をベースに進めることができたため、共通的な考え方を形成しやすくなりました。特に日本ではこれまでの業務プロセスと異なる点が多かったのですが、業務をシステムにどうやって合わせるのかについてFit&Gapをしていきながら分析できたことは非常に有益でした。

  • ※3
    Fit to standard:システムのアドオン開発を行わずに、業務をシステムに合わせることを目的とする導入方法
  • ※4
    ServiceNow:ここでは次の2つのツールを指す。ServiceNow Application Portfolio Management(APM)、ServiceNow Strategic Portfolio Management(SPM)
富士通株式会社
デジタルシステムプラットフォーム本部 クラウドサービス統括部
シニアディレクター 阿部 功一

阿部: ただし、このプロジェクトの目的はIT業務プロセスの改革であり、それはツールを導入したからすぐできるというものではありません。皆が理解し納得した上で利用してもらうルール作りなどのチェンジマネジメント(※5)が重要と考え、プロジェクトを推進しています。たとえば新しい予算申請システムでは申請方法も承認フローも従来から変更しています。関係部門が納得せずに進めると、誤った情報があげられ、受け取り側も決断に致命的な誤りを起こす可能性もあるわけです。
チェンジマネジメントの一つとしては、関係者向けの説明会をきめ細かく実施し、うまく変革が進むよう試行錯誤を繰り返しています。富士通では2022年7月に新しいツールを稼働させ、現在はその定着を進めていますが、約半年で国内だけでも既に10回、海外も含めるとその倍にもおよぶ説明会を実施してきました。説明会ではなぜIT投資管理の改革が必要なのかという大きなテーマから、徐々にシステム操作/オペレーションに及ぶ内容までを繰り返し説明しますが、その後の業務遂行の状況を見ながら理解が不足している部分を把握し、次の説明会でフォローしています。
また説明会の後は、ツールの仕組みを使って参加者から必ず疑問やクレーム等のフィードバックを受け、次の施策に生かせるように体制を整えています。説明会はこのように工夫しながら一回一回丁寧に進めています。

  • ※5
    チェンジマネジメント(Change Management):組織の成功や成果を導くための変革を、社員・個人が上手く受け入れられるようにするための手法

ユーザと向き合い、アジャイルで重ねる改善

――システム開発の観点では、どのように工夫し進めてこられましたか。

阿部: 新しいIT業務プロセスやルールは試行錯誤を繰り返しながら常に成長して変わり続けます。システム開発の観点では、それに追従していくためにアジャイル開発でフェーズごとに改善を重ねられた点は良かったと思います。追加開発部分は後々技術負債にならないよう、開発の必要性や持続可能性については事前にユーザグループと慎重に討議し、機能を厳選した上で取り組んできました。
ユーザ部門からは様々な要望があがってきますが、私たちが目指しているのはグローバルスタンダードです。ユーザ部門からの特定の要望をその都度受けることはしませんが、かといってそれを実現できる施策は提案すべきと考えています。例えばツールが標準で持っているレポート開発機能等を有効活用し、その開発方法をユーザ部門にレクチャすることで、情報システム部門では開発はせずに、ユーザ部門に作り込んでもらうようにしました。

アジャイル開発を開始した初期のフェーズでは、ウォーターフォール開発との比較で「要件が曖昧でもとりあえず開発し、後で仕様変更するもの」だと履き違えており、検討不十分な要件のまま開発することもありました。しかし、その結果として効果の乏しい機能ができてしまったり、仕様変更が多発してスケジュールを管理しきれないこともしばしばありました。しかし本来はその時点での最適な要件をきちんと考え抜いた上で開発し、必要な時期にリリースできるよう管理し、かつ実際の運用からしっかりフィードバックを得て価値を高める、ということがアジャイルの要諦なのだと気づきました。そのため、今ではフェーズごとにまずしっかりと要件を検討し、作業計画を立て、フェーズ終了後は関係者による振り返りを行い、次フェーズに改善を施しています。

さらに経営の競争力を高めるために

――さいごに今後の抱負をお聞かせください。

青木: 私たちの変革はまだ半ばです。新システムは実はまだグループ全体には展開できていません。今後はどうやってグループ全体に展開し、データドリブン経営を実現していくかに注力していきたいと考えています。たとえばツールのもつ機能のうち、プロジェクトマネジメント機能等、まだ使用していない機能も幾つかあります。まずはこのツールを使い倒し、経営の競争力を高めていきたいと思っています。

阿部: 私も同じです。今後はツールが持つ周辺機能と組み合せ、より経営にバリューを提供できればと思います。また、新たにインシデント管理や分析の機能も活用し、その結果を業務にどう展開していけばよいのか、ユーザグループにコンサルティングし指南したいと考えています。

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