2020年05月19日更新

集患・増患の考え方と仕掛けづくり 第01回 顧客満足度について

GUTS株式会社 代表取締役 清水 仁 氏

患者満足度調査が生まれた背景

いわゆる「患者満足度調査」は1980年代ころに始まったと言われていますが、これは戦後一貫して病院数・病床数が増え続けてきた「医療基盤の整備と量的拡充の時代」(平成19年版厚生労働白書)が1980年代に終わりを迎えたことと関連していると言えるでしょう。すなわち、戦後から医療需要と医療サービスの提供とのバランスが常に需要過多だったところ、1985年を境にして医療需要と医療サービスの提供とが均衡してきたことで、地域によっては医療圏内での「患者の取り合い」が生じるようになり、病院側が「患者に選ばれるにはどうすればいいのか」を考え始める転換点であったと考えられます。

現在の患者満足度調査の実態

そのような背景で目を向けられたのが「患者満足度調査」ですが、現在では、8割を超える病院において一定の頻度で入院患者あるいは外来患者向けにアンケートによる調査を行っているようです。

患者満足度調査を実施している 88.8%
患者満足度調査を実施したことがない 11.3%
(表1) 当社メルマガアンケート結果

この結果から患者満足度調査そのものは病院業界において根付いていると理解すべきですが、肝心の満足度調査をした結果の活用方法については未開発の分野であるようで、同じく弊社が実施したアンケートでは次のような結果となりました。

満足度調査対応の専門委員会を設置 29.4%
施設内の全職員への調査結果の周知 76.5%
院内掲示・HP等のWEB上での一般公開 35.3%
調査をしただけで改善につながっていない 23.5%
調査結果をどう活用したらよいかわからない 5.9%
調査後、特になにもしていない 17.6%
(表2) 当社メルマガアンケート結果 「満足度調査を実施するにあたり、その後の対応としておこなっていることや課題としていることはありますか。」

「施設内の全職員への調査結果の周知」は8割近くの病院が実施しているものの、「満足度調査対応の専門委員会を設置」しているのは3割にとどまるなど、調査結果を持て余している病院の多いことが伺えます。

満足度(satisfaction)とロイヤルティ(loyalty)

なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか。
私の結論は、「満足度(satisfaction)を問う」ことがこの調査の目的となってしまっているからだと推測しています。

満足度を測ることを目的として調査しているので、当然のことながら個別の得点(接遇・医療サービス・設備など)や病院全体の満足度の年次推移を追ってしまい、「今年は去年より高い(もしくは低い)」といった観点で結果を見ることになり、低い得点になってしまった部署は吊るし上げられ、逆に高い得点だった部署は鼻高々になっておしまい、という結論になってしまうのだと考えています。

しかし、本来の患者満足度調査は満足度そのものを測ることが目的ではなかったはずです。冒頭お話しさせていただいたとおり、この調査が始まったきっかけは病院間の競争が生じたことによって患者に選ばれる病院を目指すための一つの指標を得るためだったのですから、満足度の得点そのものよりも、「どうすれば患者の満足度を高められるのか」または「どうすれば患者がリピーターになってくれるのか」、そして「どうすれば患者が家族や友人を紹介してくれるのか」といったロイヤルティ(loyalty≒愛着・信頼・忠誠)を示唆するための調査でなくてはいけないのです。

NPS(ネット・プロモーター・スコア) (注1)

このロイヤルティを測るための指標として他業界を含めて近年注目されているのが、NPS(ネット・プロモーター・スコア: 推奨者の正味比率)です。

このNPSは次のような極めて単純な質問で測ることができます。

質問1 「0点~10点で表すとして、当院を友人や家族・同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」

この回答結果によって、推奨者(プロモーター): 9~10点、中立者(パッシプ): 7~8点、批判者(デトラクター): 6点以下、の3種類に分類します。
そして、この推奨者の割合から批判者の割合を引き算した結果がNPSとなります。
NPS=(推奨者の割合)-(批判者の割合)

このNPSを高めていくことが本来の目的である「患者に選ばれる病院になるのか」の近道であり、また王道であると考えていくべきでしょう。

また、このNPSを高めていくための方法はどう探ればいいのでしょうか。
それも簡単で、次の質問を加えてください。

質問2 「この点数をつけた主な理由は何ですか?」

この2問だけならば外来患者、入院患者、健診受診者らの負担になることはほとんどありませんし、集計も簡単、対策も簡単、といいことずくめだと言えるでしょう。

  • (注1)
    フレッド・ライクヘルド,ロブ・マーキー(森光・大越監訳)『ネット・プロモーター経営-顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』2013,プレジデント社

これからの患者満足度調査

しかしながら、私たち日本人はあまりこういったアンケート調査が得意ではないようで、残念ながらこのような0~10点の質問をすると中心(5点)よりの結果が集まってしまう傾向にあります。

そして質問2のようなフリーコメント欄を設けたとしても露骨に個人を攻撃するようなコメントは書かず、ましてや「権威」である医療職を貶めるようなコメントはしない傾向にあるのは皆様のほうがよくご存じかと思います。

だからこそ、私はこのNPSをぜひ取り入れて欲しいとは思っていますが、従前の満足度調査も継続してもらいたいと考えていますので、NPSと満足度調査をハイブリッドさせた質問項目を以下に記載させていただきます。

質問1 (医療事務の接遇)
質問2 (待ち時間)
質問3 (医師・看護師の対応)
質問4 (コメディカルの対応)
質問5 (設備などについて)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
質問6 (全体の満足度について)
質問7 (NPS)

ここで重要なのは、点線で区切った質問1~5と質問6・7とでは意味合いが異なるということです。実際の質問紙(アンケート)では、質問項目1~5の内容をそれぞれの医療機関によってさらに膨らませていただきたいのですが、質問1~5の得点そのものはここではあまり大きな意味を持たない、ということです。

すなわち、ここでは質問1~5の得点と質問6・7の得点がどう相関しあっているかが最大の論点であるべきだと考えています。

統計学を覚えている方はすんなりと受け入れていただけるかと思いますが、この調査結果を元にして、回帰分析(単回帰分析・重回帰分析)を行っていただき、自院の課題がどこにあるのかを測ることが最も重要であると考えています。

病院によっては、「待ち時間」が最大の課題であると思っていても、質問6・7の病院全体の満足度、あるいはNPSに影響を及ばさないのであれば、そこに経営資源を投入しすぎることはナンセンスですし、医療サービスに対する不満が質問6・7に影響を及ぼしているのであれば抜本的な改善が求められていると認識できます。私たちの経験で言えば、質問6・7との相関関係が強いのは受付周りの接遇や看護師の接遇であることが多いので、そういった結論が導き出された場合は接遇改善に経営資源を投入すべき、と解決策が明確になります。

まとめ

「患者満足度調査」はすべきです。
しかし、単に年次推移を追うような調査であれば集計作業も楽ではありませんから、もしかしたらやめたほうがいいかもしれないと考えています。
でもせっかく行った満足度調査の結果を活用しない手はないと思いますので、その際はNPSの概念も取り入れて、簡単な統計分析の手法を用いて、本質的な経営改善の課題抽出のための手段として位置づけることで本来の目的である「患者に選ばれる病院」になる指標を得られるのだと考えられるでしょう。

著者プロフィール

GUTS株式会社 代表取締役

清水 仁(しみず・じん) 氏

2005年 社会学修士(社会心理学)
東京都内の医療法人に入職し、同法人本部で購買業務および各種契約業務を担当。
2009年から病院経営コンサルタントに転身。2017年4月にGUTS株式会社を設立し、代表取締役に就任。社会心理学や行動経済学を病院経営に応用することでモチベーションアップと組織改革を両立させるコンサルティングスキームを提唱している。

清水 仁(しみず・じん) 氏

執筆

  • 医療タイムス(連載:『心理学で読み解く病院経営』)
  • m3.com(連載:『駆け引きの病院経営心理学』) 他多数

研修講師

  • SSK(新社会システム総合研究所)セミナー 定期開催中
  • NOMA(日本経営協会)セミナー 定期開催中
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