2022年11月14日

宿泊業におけるITとの付き合い方

C&RM株式会社
代表取締役社長
小林 武嗣 氏

ITを理解する必要はない。

まず読者層を50歳以上という想定で書きます。
ITの導入に関しての決定権を持つ方はこの年齢以上と想定されるからです。
50歳以上の方というのはITに触れた時期が会社に入ってからだと思います。
現在の40歳くらいの方々だともう子供の頃からITに触れているのですが、50歳以上となると成人してからになってしまいます。
そしてホテル・旅館業に携わる人達はITに明るくない方が多いです。
なので、筆者からするとITを理解しようとすることが高い壁だと思います。
もしかしたら本を読んだり営業に言われて「自分はITの多くを理解している」とお考えかも知れません。ですが残念ながらそうではないかもしれず、グーグルやアマゾンなどの米IT企業が定期的に出すAIやDXの情報に飛びつくわけです。
こうした企業から見て手強いのは「分かってないことが分かっている」人たちでしょう。
なぜこのようなことを筆者が言えるのかというと、筆者自身が文系でITと距離が遠かったからです。
文系からNECソフトに入社してプログラマーとなりIT企業を設立し今でも現役のプログラマーでもあります。
理系の会社に入れば当然周囲は理系ばかりです。
そこで理系のメンタリティを初めて知ります。
我々文系というのは「理解するのが楽しい」のですが理系の人たちは「問題を解くのが楽しい」のです。
例えば数学の問題集を思い出してください。
我々文系はその数式を解くために理解しようとします。
ところがなかなか理解できない。そうして一問も解かずに放り出したことはありませか?
これに対して理系は問題を解くのが楽しいので理解する前に公式に則ってどんどん解いていく。解いていくうちに「ああ、この公式はこういう意図なんだな」と理解するのです。
ITを理解するのはまさにこの方法です。分からないけどどんどん触ってみてその結果「ああITってこうなんだな」と理解するのです。
ところが文系はまず「よく分かるIT入門」などの本から入り、ITを理解してからITに触れようとします。そうして本の三分の一くらいのところで放り出して「IT分かんない」となるわけです。
筆者はそれが分かったので若い頃は一日12時間くらい毎日ITに触れプログラムを書いているうちに「ああこういうもんなんだ」と理解できたわけです。
今の子供を見てもわかりますがiPhoneやパソコンをいじり倒しています。理屈を分かっていなくても触れていることで潜在的な理解が進みます。
ところが50歳以上はその経験がない。その上筆者のように強制的に学ぶ機会もない。
なのに世の中はITが分からないといけないという風潮です。
そこで焦って色々な文献や人の話を聞いて中途半端な知識を身に付け夢見がちな人になってしまうというわけです。

ITは道具にすぎない

逆に筆者が不思議に思うのはなぜITだけは理解せねばならないと思うのかです。
筆者はIT企業の経営者ですからITが分からないと仕事になりません。
でも、これを読んでいる方にはホテルや旅館の経営者や役員の方も多くいらっしゃると思います。
例えばレストランをホテルに入れる時に料理を理解するのでしょうか。温泉施設を入れる時にボイラー技術を身につけるのでしょうか。
そんな必要は全くありません。
ただ「うちの会社はこういうホテルでこうしたサービスが満たされ、経営するために必要なデータはこうだ」と要求を提示すればいいのです。
それに対してプロたるITベンダーが様々な提案をしていきます。
もちろん全てが満たされることはないでしょう。ですが「譲れない線」もあるはずです。そこの優先順位を上げてITを選択すればいいのです。
ところが、多くの人たちは難解なカタカナを連発して必要もない機能にお金を掛けます。
よくあるのが、何が出来るのかという質問です。
何が出来るのかではなく重要なのは「自分のホテルにはこれが必要だ」という理念と信念でしょう。
そこにこれっぽっちもITの知識は必要ありません。
ITに合わせてホテル運用や経営を変えるなどは本末転倒です。
AI、DX、IoTなどのバズワードはこれからも出てきます。もちろん、これまで出来なかったことが出来ることもあります。
それは道具が進化したのであり、それによってホテルのサービスや会社経営が効率良くはなれども変わることはないはずです。
自分達のホテルはどうあるべきなのか。それに向かってどのような「道具」を活用していくのか。
そういう意味において、ITは部屋にある眠りが深くなるベッドや快適なエアコン、フロントを彩る絵画や花、センスのあるインテリアなどとなんら変わらないのです。

著者プロフィール

C&RM株式会社
代表取締役社長
小林 武嗣 氏

  • 文系ながらも1991年現NECソリューションイノベーターへ入社しシステムエンジニアとなる。
  • ホテル業に携わり1996年現サイグナス社設立。
  • 1997年NEHOPS-EE(NEHOPS-SaaSの前身)を開発。
  • 2002年日本初のレベニューマネジメントシステム発売。
  • 2003年マイクロス・フィデリオ(現オラクル社OPERA)と協業しホテル業向けCRMシステムを開発。
  • 2004年日本初のホテルWB価格比較システム開発。
  • 2012年にC&RM社を設立。現在は大手チェーンホテルを中心にAWS上やAZURE上でのWEB会員マイページとPMS、CRMシステムの密な連動を実現するプロジェクトを開発している。難解のマー ケティング統計・分析、ITを文系の言葉に翻訳して伝えるセミナーは高い評価を受けている。

小林 武嗣 氏

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