2022年11月14日

ホテルシステム(PMS)の役割と比較・選び方

C&RM株式会社
代表取締役社長
小林 武嗣 氏

先に断っておきますと、このコラムの依頼を受けたときに「富士通さんの提灯記事を書くつもりはないですよ」と言ったら「それで構いません」という回答だったので、そのつもりで読んで下さい。
コンピュータ普及期における日本のPMSといえば大型ホテルシステムはNEC/富士通/日立/東芝でした。ところがいち早くPC対応したNECが日本のPMSのスタンダードとなっていきます。その遠因が1996年にNECホテル業出身ながら独立し製造業分野でPC技術を磨いていた筆者が設立した現サイグナス社の存在でした。PMSのPC化で主導的な役割を果たしました。
その後それ以外の大手ベンダーはホテル業から撤退するか、後に日本を席巻する宿泊特化型ホテルシステムへと変化していくことになります。

PMSの役割

PMSという言葉はProperty Management Systemの略です。
直訳すると「施設管理システム」です。
日本の場合1960年代から2000年くらいまではホテル=大型シティホテルでした。
1995年頃からスーパーホテルが有名になりますが、まだまだ亜流だったのでしょう。
2000年までは大型シティホテルが主体であり、ホテルシステムと言えば大型シティホテル向けでした。
この時代のホテルは「一つの会社」とも言えるものでした。
ですから、プロパティ(施設)は一つの会社の機能を持つ必要があったのです。
これを勘違いして「世界的なシステムであるフィデリオならもっと凄い」と導入したらコンセプトがまるで違うので驚いた、というのが2004年前後でしょう。

上図が世界的なプロパティ(施設)の考え方です。
見ての通り施設は宿泊部門だけです。レストランはテナント、宴会はありません。海外ではホテルで結婚式を挙げる習慣はないからです。
2005年にIHGが前述の全日空ホテルズを買収した時の会議で開口一番リージョナルオフィスの外国人が言ったのは「なんでこんなに料飲と宴会の売上が高いんだ?」という疑問でした。
ここに大きな齟齬があります。PMSというのは施設を管理しますが、それまでの日本のホテルは会社管理だったのです。
これに対して世界は「宿泊予約管理システム」なのです。それ以外の部分は本部に集約されているのです。
ところがその感覚が抜けきれず、PMSベンダーに「全社管理機能」を要求します。このためPMSが肥大化し硬直化していくことになりました。
よくPMSは「値段が高い」と言われますが、それはPMSベンダーの問題ではなく余計な機能ばかりを要求してきたホテル側の責任も大きいと思います。

PMSは予約・アサインが出来る会計機

この点世界的なシェアを持つ「OPERA」は割り切っています。
「ここまでしか出来ません。でもそこまでの機能はしっかりしているし拡張性も高いです」
だからこそ世界的なシェアがあるのでしょう。
機能を限定する代わりにOPERAはインターフェースを強化しています。
インターフェースがあれば別の仕組みとの連動が可能になります。
ただOPERAの場合はライセンス制度のため、このインターフェースライセンスを持つ企業は限られてしまうのです。そのため、せっかくのPMSのインターフェースがホテル側の希望にならず活用しきれないこともあるでしょう。
逆に日本のPMSベンダーはとにかくインターフェースがプアです。
筆者は現役プログラマでもあり、かつてNECのシステムをやっていた頃こうしたインターフェースを構築していましたが「これならテストを入れて3日かな」という程度のインターフェースがなんと1年以上掛かっても数字が合わないポンコツぶりです。ここがダメなPMSベンダーを選ぶと本当に後々痛い目を見ます。
このインターフェースに関して多少不満はあるでしょうが(高い、遅いなど)メーカー系というのはしっかりしています。多少不満はありますが(しつこい)、忖度なしで富士通のPMSは大丈夫です。
PMSはあくまでも予約やプリアサイン、チェックインが出来る「会計機」です。POSと同じです。POSに本部機能を入れようとしないはずです。
きちんと宿泊予約業務が出来て、必要なリストが出て、外部インターフェースができていれば十分です。これに対して本部機能や外部機能を足していくことが出来ればPMSの役割は果たしているといえます。
今後のIT化戦略においては、様々なIT製品と接続し活用していく必要があります。
特にデータの入り口であるPMSの役割は大きいのですが、その活用するIT製品は別になります。PMSベンダーが「おまけ」で付けたCRM機能やレベニューマネジメント機能では売上・収益につながるデータ活用には至りません。専門ベンダーに任せるべきです。
こうした役割を持つIT製品同士が有機的に結合できるインターフェースの重要性は間違いなく大きなものとなるでしょう。

著者プロフィール

C&RM株式会社
代表取締役社長
小林 武嗣 氏

  • 文系ながらも1991年現NECソリューションイノベーターへ入社しシステムエンジニアとなる。
  • ホテル業に携わり1996年現サイグナス社設立。
  • 1997年NEHOPS-EE(NEHOPS-SaaSの前身)を開発。
  • 2002年日本初のレベニューマネジメントシステム発売。
  • 2003年マイクロス・フィデリオ(現オラクル社OPERA)と協業しホテル業向けCRMシステムを開発。
  • 2004年日本初のホテルWB価格比較システム開発。
  • 2012年にC&RM社を設立。現在は大手チェーンホテルを中心にAWS上やAZURE上でのWEB会員マイページとPMS、CRMシステムの密な連動を実現するプロジェクトを開発している。難解のマー ケティング統計・分析、ITを文系の言葉に翻訳して伝えるセミナーは高い評価を受けている。

小林 武嗣 氏

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