この章では日揮情報システム(現:富士通エンジニアリングテクノロジーズ)で実施したRAM分析を紹介する。日揮情報システム(現:富士通エンジニアリングテクノロジーズ)が提供する設備保全管理システムPLANTIAのユーザが蓄積した保全履歴データをベースとして、RAM分析を実施した事例である。前出の図4.1 における「CMMS(設備保全管理システム)」→「故障分析」→「信頼性ブロックフロー図」→「保全手法最適化」の手順に従うRAM分析事例である。ただし、「信頼性ブロックフロー図」は作成せず、「CMMS(設備保全管理システム)」→「故障分析」→「保全手法再確認」を実施した。さらに、この事例は、機器構成や保全コスト情報を取り込まず、機器の保全履歴に注目して行ったRAM分析であり、分析結果は「最適化」ではなく、機器のワイブル分布による「保全手法再確認」を目的としている。
RAM分析対象機器は次の3機器である。
日揮情報システム(現:富士通エンジニアリングテクノロジーズ)のCMMSであるPLANTIAに蓄積されている上記の機器の保全履歴記録をベースに、日揮情報システム(現:富士通エンジニアリングテクノロジーズ)と英国Process Asset Integration Management社(ProAIM社)がRAM分析を行い、レポートを作成した。
「保全手法再確認」を目的とする場合のRAM分析に使用する保全履歴データ例を表6.1に示す。
表6.1は、PLANTIAの保全履歴の標準入力フォームであり、このフォームに従って保全履歴データが入力してあれば、ワイブル分布を利用した分析が可能であり、平均の機器・プラント停止時間も算出できる。ワイブル分布から得られる諸値(パラメータβ、η)は、保全手法の最適化のためのベースとなる。
保全履歴データで特に重要なデータは、機器がいつ停止したか、どの部分がどのような理由で停止の原因となったのか、である。表6.1では、「機番」、保全の「着工日」と「開始時間」、「修理時間」、「現象または状況」、「原因」に相当する。「現象または状況」と「原因」は、保全担当者によって入力内容が異なることを防ぐために、例えばコード表を予め決めておいて、保全担当者がコード表に基づいて保全履歴を入力するなどの手順が望ましい。
なお、表6.1において、「停止原因」の欄は、機器の停止が故障によるものか、点検のために意図的に停止したのかを入力する欄である。
表6.1保全手法再確認に必要なデータ例
表6.1の形式でPLANITAユーザから入手したポンプに関する実データから、表6.2のような分析結果(表記したのは一部)が得られた。
表6.2 RAM分析結果(ポンプに関する一部)
表6.2 は、故障モードとしては「リーク」、故障原因として「摩耗」、故障箇所として「メカシール」が、それぞれ一番起こりやすいことを示している。また、諸要因による故障を含むポンプ全体としてのMTBF(Mean Time Between Failure,平均故障間隔)とワイブル・ベータ(形状)パラメータも示している。これらの結果は、ユーザの保全履歴データの「現象または状況」、「原因」に基づいた分析によって求められたものである。
表6.2から、ポンプ全体、故障モード、故障原因、故障箇所のそれぞれのMTBFとワイブル・ベータ(形状)パラメータがわかるので、保全周期の一つの目安として利用できる。また、MTBFが161.2日のメカシールの故障に備えて、必要な保全用部品を用意することも考えられる。ただし、MTBFによる保全周期ではなく、最小コスト、最大稼働率などの観点からの保全周期の最適化を図るには、コスト情報などのデータも必要となる。
また、ワイブル・ベータパラメータからは、初期故障モード、偶発故障モード、摩耗故障モードに関する情報が得られる。図6.3に示すように、ワイブル・パラメータを「1」と比較することにより、その機器や部位が初期故障、偶発故障、摩耗故障のどのモードにあるのかが推測できる。一方で、故障モードに有効な保全方式が下記のように推奨されており、故障モードを確認した上で、機器や部位の保全方式の見直しにも利用できる。
初期故障モード:状態監視保全、事後保全
偶発故障モード:状態監視保全、事後保全
摩耗故障モード:予防保全、状態監視保全、事後保全
図6.3 バスタブ曲線と故障モード
上記のように、CMMSなどの保全履歴をベースに、機器や部位の故障傾向を分析し、保全方式や保全周期などの見直しを行うことができる。ここで重要なことは、実運転の履歴データによる定量的な分析結果に基づいて、保全方式や周期を見直すことである。つまり、保全方式・周期、さらには保全コストの見直しに関し、確固たるベースによるPDCAサイクルを確立できるということである。変更した保全方式や周期による新しい保全履歴が蓄積できれば、また新たなRAM分析を実施し、保全方式・周期の再見直しを行うというサイクルが続く。
また、以前に解説したRCM(Reliability-Centered Maintenance、信頼性中心保全)と組み合わせて、RAM分析の定量分析結果に基づくRCM手法を実施することも可能となる。
次回からは、RBI(Risk-Based Inspectionリスク基準型検査)について解説する。