トレンドテクノロジー解説【ブロックチェーン】

第10回 ブロックチェーンで不動産の不透明な所有権と取引を明瞭に

不動産の取引や登記などにブロックチェーンを活用しようとする動きが、世界中で広がっています。不動産は価値の高い資産であり、その取引の動向は地域経済にも大きな影響を及ぼします。ところが、その取引や所有権の所在は、思いのほか不透明なのが現状です。ブロックチェーンを活用することで、不動産に関わる情報の透明性と正確さが高まると期待されています。特に日本において大きな効果が見込めそうです。

少子高齢化が進むことで、近未来の日本では社会環境の様々な側面が急激に変化していくことが予想されています。不動産業界もまた、少子高齢化による大きな影響が及ぶ業界です。新たに造成された土地に建てる新築物件の販売は縮小し、高度経済成長期に購入された高齢者が保有する不動産をいかに有効活用するか、個人の生活にとっても地域振興にとっても重要になりそうです。その際、ブロックチェーンの活用は、不動産取引を円滑かつ迅速、明快にするための強力なツールになることでしょう。

スマートコントラクトを遺言に活用し、不動産相続時の登記を自動化

不動産の権利の所在を証明する登記簿が古い記録文書である場合が多々あり、土地の所有者の把握が困難なことがあります。売買時にはきっちりと登記されたとしても、相続時に名義の書き換えを怠り、相続を繰り返すうちに所有者が特定できなくなる物件が多いようです。2016年度の地籍調査によると、約2割の土地は登記簿だけでは所有者を特定できない状態だったといいます。しかも、その割合は年々増加しています。

文書による登記は、記録ミスや所有権の不明確さを悪用した詐欺が入り込む余地をつくり、不動産の扱いを難しくしています。このため海外では、ブロックチェーンを活用して土地や財産の登記に透明で改ざんできない仕組みを導入するところが出てきています。既に、スウェーデンやブラジル、米国の一部などで実際の運用が始まっており、この動きを支援する企業も登場しています。米Ubitquityは、ブロックチェーンを活用して不動産の権利を記録・保管する仕組みを提供。土地や建物の登記作業、それらの移転や土地の分筆・統合、抵当権の設定など、不動産を扱う作業全般に利用範囲を拡大していく予定だそうです。法的な問題をクリアすれば、遺言代わりにスマートコントラクトのプログラムを残しておき、自分が亡くなった後に、所有する不動産を相続し登記まで済ませてしまうこともできます(図1)。

図1 遺言をプログラム化し、不動産相続時に登記まで自動的に済ませることが可能に 出典:AdobeStock

不透明で無駄が多かった賃貸情報を一元管理

賃貸住宅の取引を円滑に進めるためにブロックチェーンを活用する取り組みも始まっています。ネットなどで情報提供されている賃貸物件が、問い合わせてみると既に契約済みだった。同じ物件の情報がいくつも表示され、しかも内容が微妙に違う。このような経験がある人は多いかもしれません。これは、不動産業界では、同じ物件に関する情報が、関連する業者ごとに分散管理されているため起きているのです。

この問題を解消すべく、不動産情報を業界横断的に共有することを目指したコンソーシアム「Aggregate Data Ledger for Real Estate(ADRE)」が、2018年11月に設立されました。不動産ポータルサイトを運営するLIFULL、システム構築を支援するNTTデータ経営研究所、家賃債務保証事業を行う全保連、地図情報を扱うゼンリン、与信取引サービスを提供するネットプロテクションズ、不動産取引に関わる手続きをワンストップ化するエスクロー・エージェント・ジャパン、マンション管理組合向け設備を提供する三菱UFJリース、法的な裏付けを検証する鈴木康之法律事務所と、不動産の取引に関連する多様な企業が業界横断的に参加しています。

ADREでは、ブロックチェーンの特長を生かして情報共有データベースを構築し、物件ごとにIDを付与して情報を一元化。そこに各社がデータを追記していくことができる情報共有プラットフォームの構築を目指しています。異なる視点を持つ異業種が物件情報を追記し、一元管理することで、情報の精度が高まり貸し主も借り主も大きなメリットを得ることができると期待されています。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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