トレンドテクノロジー解説【ブロックチェーン】

第6回 ブロックチェーンで無形資産や美術品などの商習慣が変わる

現代社会では、無形の資産を取引する機会が増えています。例えば、技術の特許権や音楽や映像の著作権、さらにはゴルフ場やスポーツクラブの会員権などが無形資産に当たります。これらはモノとしての形がないため、その価値は取引する人それぞれの主観によって大きく左右されがちです。しかも、一過性のサービスとは異なり、継続的な価値を持つ資産でもあるため、その評価の妥当性は論争の種になることが多々あります。完全な無形資産とは言えませんが、絵画や彫刻といった美術品や骨董品なども同様の性質を持っています(図1)。

図1 無形資産や美術品などの取引にブロックチェーンを活用 出典:AdobeStock

こうした無形資産や美術品などを取引する際には、かかわる人や企業の間でその価値について合意を形成する必要があります。その時、単にそれぞれの主観を主張して取引条件を決めようとしても、なかなか合意には至らないでしょう。このため、扱う無形資産の価値や世間相場などに詳しい、客観的な視点を持つ第三者を仲立ちとして取引が進むことがほとんどです。ただし、いつの世も、貴重な品だと言って高価な壺を売る人はいるものです。第三者を通したとしても、コストや付加的作業が新たに生じたり、さらに第三者が提示する取引条件も今ひとつ不透明だったりと、課題が出てきます。こうした無形資産や美術品などの取引を円滑かつ活発に行うための手段として、ブロックチェーンの活用が積極的に検討されるようになりました。

時間が経つほど価値が高まる美術品の流通に革新を

日本音楽著作権協会(JASRAC)は、2019年2月、音楽著作権使用料の管理システムにブロックチェーンを導入する方針を明らかにしました。楽曲の利用から著作権使用料の徴収、分配までの履歴をブロックチェーンに記録するシステムを、2020年から一部業務で活用する計画です。これによって、徴収・分配したお金の流れの透明性を高めると言います。JASRACが扱う著作権使用料は年間約1100億円に達しますが、1件当たりは1円に満たないケースも多くあります。このため、厳密な透明性の確保にはICTの活用が不可欠でした。こうした手法を発展させれば、ミュージシャンが曲の利用権を利用期間や利用料に応じて配信会社へ割り当てる、といったきめ細かな管理もできるようになるでしょう。

美術品の取引では、ブロックチェーンの活用による商習慣の抜本的な転換を目指す動きが出てきています。家電製品や情報機器など多くの商品は、新品の時に最も価値が高く、使えば使うほど価値が失われていきます。ところが美術品は、時間が立つほど作品の価値が高まっていくことが多くあります。ところが、オークションで数億円で落札されたとしても、その評価に見合った報酬がアーティストに還元されることはありません。考えてみれば、これは理不尽なことです。既存の商習慣が、美術品の取引に適していないとも言えるかもしれません。

ドイツのAscribe社は、ブロックチェーン上で芸術作品などを管理するサービスを提供しています。アーティストが自分の作品を登録し、同社が発行した作品証明書によって所有権の移転や貸出、売買などの履歴を管理して、アーティストの意図に合った作品の提供手段を取れる仕組みです。スマートコントラクトを活用することで、音楽やイラスト、写真、文章などの所有権を主張しながら、使用料を効率よく回収できます。同様の動きは日本でも出てきています。ベンチャー企業のスタートバーンは2018年10月、ブロックチェーンを活用して美術品の来歴を記録して管理・共有するサービス「Startbahn」の提供を開始しました。作品を誰が買ったのかを追跡し、2次販売、3次販売と転売されるごとに、取引額の一部を作者に還元する仕組みを備えています。こうした新しい流通システムの実現によって、アーティストの活動がより活発化することが期待されています。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

この記事に関するお問い合わせ

ページの先頭へ