トレンドテクノロジー解説【ブロックチェーン】

第5回 ブロックチェーンが食の安全を守る

近年、食の安全に対する意識が高まってきました。スーパーなどで売っている加工食品のパッケージに書かれている原料や添加物の表示を参考にして、食品を購入している人もいるのではないでしょうか。しかし、レトルトのパスタソースの原料に「トマト」と書いてあったとしても、それがいつ、どこで、誰が、どのようにして栽培した何という品種のトマトであるかまでは分かりません。野菜や果物、肉、魚など生鮮食料品であれば、大まかな産地は記されていますが、どのような管理を経て、いま手元にあるのかは全く分からない状態です(図1)。異常に安い特売品の食品がなぜその価格なのか、その根拠を知ることができないのが現状です。こうした状況は、安全な状態といえるのでしょうか。

図1 私たちは、食品がどのように手元に届いているのか、驚くほど知らない 出典:AdobeStock

ところが、生産から加工、物流まで食品が消費者に届くプロセスをすべて記録しようとする動きが世界中で活発化してきています。いま厳密で信頼性の高い食品管理を実現するためのキーテクノロジーとみなされているのが、信頼性の高いデータを確実に蓄積できるブロックチェーンです。

食の安全の確保には、確かな情報の蓄積・提供が必須

意外に感じる人もいるかもしれませんが、市場で流通している数ある商品の中で、食料品は使われている原料やその由来が最もはっきりしていない商品なのです。例えば、自動車は約4000種類、合計約3万個の部品を組み合わせています。しかし、それらの部品は、種類だけではなく、その1つ1つが、いつ、どの装置で作られたものなのか、生産条件が詳細に記録されています。市場で不具合が発生した場合には、同じ不具合が起きる可能性がある製品をすぐに特定できます。これに対し食品の管理体制は、これとはほど遠い状況にあります。

2018年9月、米国のスーパーマーケットチェーンであるWalmart社は、レタスを供給する業者に、生産段階から店舗に届くまでのあらゆる情報をブロックチェーン上に記録するように求めました。これは、米国でロメインレタスに付着した大腸菌による健康被害が発生したことで問題が顕在化し、その防止措置として取られたものです。ブロックチェーンを採用することで、感染者が出た際には、汚染された農場を迅速に特定できるといいます。また中国のネット通販大手のAlibaba社も、食品偽装を防ぐために流通経路の透明化を目指して、ブロックチェーンを活用した情報プラットフォームの試験運用を2018年4月から開始しました。

これまで不透明な部分が多かった食品流通にブロックチェーンを導入する効果は極めて大きいとされています。野菜などの生産段階では、IoTの活用によって、産地や品種はもとより、どのくらいの農薬や肥料を使い、どのような天候の中で育てられたのかまで記録できるようになるでしょう。また、物流の段階では、どのくらいの時間を掛けて、どのような温度管理をしながら運ばれたのかまで分かります。しかも、こうした履歴をブロックチェーンで記録することで、情報の改ざんのない安全・安心な食料を入手できるようになります。同様の方法を発展させれば、アレルゲンの有無やハラル食品の証明など、より付加価値の高い情報も提供できることでしょう。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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