トレンド&デジタルテクノロジー解説【5G】

第7回 5Gで発展する富山の置き薬商法

富山の置き薬という日本伝統のビジネスモデルをご存知でしょうか。各家庭に一通りの薬を一まとめにした薬箱を配っておき、定期的に訪問してくる外商さんが、使った分の料金だけをもらい受けるというものです。利用者は必要なときに使いたい薬がすぐ使えるため便利ですし、薬屋にとっても確実に自分の店から買ってくれるためメリットがあります。「用を先に利を後に(先用後利)」という江戸時代の富山藩のお殿様の教えに沿った商売法だと言われていますが、頭の良い人がいるものです。今でも、オフィスに小腹を満たすお菓子を置いた小箱を置く同様の商売があります。

5Gの活用で、ますます高度化する富山の置き薬モデル

富山の置き薬モデルの商売は、ICTを活用することでますます発展しています。例えば、コカ・コーラボトラーズジャパンは、2018年11月に、小規模オフィス向けの飲料販売サービス「Coke mini」を開始しました(図1)。ペットボトルを格納できる小型冷蔵庫をオフィスに設置し、QRコードを記載した商品リストも置きます。利用者は自分のスマートフォンで購入する商品のQRコードを読み取り、「LINE Pay」もしくは「楽天ペイ」で支払う仕組みです。この方法では、単に事業機会を逃さないだけではなく、補充品を運ぶときに必要な数だけ納入できる、売れ行きをリアルタイムで把握できるといったメリットもあります。

図1 ICTで進化した富山の置き薬商法を展開する「Coke mini」 (左)Coke mini向けの小型冷蔵庫、(左)運用の仕組み
出典:コカ・コーラ ボトラーズジャパンのニュースリリース

ここに超多数接続という特長を持つ5Gを活用したIoTを応用すれば、より多くの商品を対象にした、より細かくタイムリーな対応ができるようになることでしょう。商品を入れた箱や棚にセンサーを取り付けたり、一つひとつの商品にRFIDタグを付けておいたりして商品の消費状況を把握すれば、地域の各家庭やオフィスでの利用状況を一括把握できます。

こうした方法は、小売店舗や工場での在庫管理にも活用できます。例えば、コンビニエンスストアで売っているアイスクリームは、売り場の保冷庫にしか在庫がありません。余分な設備を設置しなくてもよくするためです。IoTを活用した富山の置き薬モデルでの在庫補充をすれば、より効率的な在庫補充ができるようになります。工場でも製品の原料や部品を一定量だけみなし納入し、5Gで倉庫や棚の高精細な画像を送り、そこから分かる消費状況に応じてジャスト・イン・タイムで納入すれば、最小限の在庫に抑えることができます。こうした部品の流通手法は、市場動向に応じて生産品目が頻繁に変わる多品種生産ラインで特に効果を発揮することでしょう。

さらに、消費する商品だけでなく、耐久消費財を配っておいて、使った分だけ料金を課金するといったこともできるかもしれません。例えば、オフィスのコピー機の利用状況をIoTで検知して、課金や消耗品の補充、点検・保守を効率的に実施するサービスが出てきています。これを、一般家庭を対象にした商品に展開して、家電製品や家具などを配っておき、それらの利用状況を検知するセンサーのデータを伝送し、使った分だけ課金するようなサービスができるかもしれません。

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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