トレンドテクノロジー解説【5G】

第6回 AI・IoT・5Gで企業活動を見える化し、融資業務をより迅速・柔軟に

銀行から融資を受ける際の与信が、IoTや人工知能(AI)、さらには5Gの活用によって大きく変わる可能性が出てきています。企業が銀行から融資を受ける際には、どのくらいの金額をどのような条件で借りられるのか、まず査定してもらうことになります。これが与信です。融資を受ける側が提出する申告書類、多くは過去の業績やその結果である保有資産を基に、銀行が返済能力、返済資質、返済担保を見て融資枠や金利、条件などが決まります。

しかし、「将来の事業拡大に向けて資金調達したいのだから、もっと現状の事業の好調さや現場の活気を見て考えてほしい」。こう思っている経営者は多いものです。しかし、与信する銀行の担当者は、必ずしも融資先企業を熟知しているわけでも、専門的知識があるわけでもないため、過去の実績などを基にした型通りの判断しかできないのが現状なのです。

企業活動のありのままを見える化

IoTやAI、さらには5Gを活用することで、与信の課題が解決できるようになりました。例えば、IoTを活用すれば、工場の生産設備の稼働状況のデータをつぶさに解析し、そこから得られる情報を融資審査に利用できます。現場のリアルなデータですから、これほど信頼できる情報はありません。また、現在の工場がいかに価値を生み出しているのか、AIを活用して誰の眼にも分かる指標や傾向を導き出せば、融資先企業の業種についての専門的知識がなくても、机上の状況が判断できるようになります。

さらに、現場で吸い上げたデータをクラウドに送るネットワークとして、超高速で超多数接続が可能な5Gを導入すれば、審査の精度が向上することでしょう。企業活動を行う様々な場所から高精度なデータを収集できるようになるからです。

銀行が、確かな情報を基にして的確に与信できるようになることで、審査時間の短縮、金利の引き下げ、担保の不要化が実現する可能性さえでてきます。この手法は製造業のみならず、店舗の活況を知ることによる小売業への与信、荷物の出入りを正確に把握することによる流通業への与信にも適用できます。

延滞の抑止効果と融資対象の増加を可能に

実際に、IoTを活用した新しい与信の仕組みの確立に向けた動きが出てきています。なかには、これまで融資できなかった相手にも、融資できるようにするアイデアもあります。

西京銀行とGlobal Mobility Service(GMS)は、2018年2月、車載センサーのデータを自動車ローンの与信審査に活用する仕組みを開発しました(図1)。エンジンの起動の遠隔制御や、GPSでの位置情報の特定ができるGMS製の車載IoTデバイスを融資対象となるクルマに搭載。これによって、返済が滞っている融資先のクルマのエンジンを、遠隔操作で起動できないようにします。これによって、延滞の抑止効果を生み出し、さらに従来ならば与信審査を通過できない人にもローンを提供できるようになります。同様の方法は、様々な融資案件に適用できる可能性があります。より多くのIoTデバイスをリアルタイムで接続できる5Gを使えば、融資対象を増やしたり、迅速な対応が実現したりする可能性があります。

GMSと西京銀行の間で、お客様の返済や入金状況を共有。万一遅延等が発生した場合はGMSが遠隔でエンジン起動を停止させる。
図1 西京銀行とGMSが開発したIoTデバイスを使った自動車ローンの与信の仕組み 出典:西京銀行のニュースリリース

著者情報

林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

伊藤元昭
エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社 日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年 副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。

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