トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第8回 保険商品に求められるセキュリティ対策とオンデマンド対応

損害保険商品は、大きな損害のリスクがあるところに生まれる商品です。MaaSが本格普及したときに生まれる最大のリスクは何でしょうか。それはサイバー攻撃です。これまでのクルマは通信機能を備えていないのが当たり前でした。しかしMaaS車両は違います。配車プラットフォームとのやり取りを前提にビジネスが作られるので、通信できなければ仕事になりません。どこに行けばいいのかという指示を受け取ったり、自分の位置を伝えたりするほか、決済処理を実行する場面でも通信は欠かせません。そして通信する機器はすべてサイバー攻撃にさらされる危険があります。

MaaS車両が自動運転機能を備えている場合は、サイバー攻撃で受ける被害はさらに大きくなります。クルマの制御を乗っ取られる危険が出てくるからです。サイバー攻撃によってドアをロックされたり、運転操作に割り込まれたりする危険があるのです。

こうしたトラブルを回避するために、MaaS車両にはサイバーセキュリティ対策が欠かせません。そして、万一のトラブルに備えて、サイバーセキュリティ保険のニーズが高まる可能性は十分にあります。現時点でも一般企業を対象としたサイバーセキュリティ保険は登場しています。今後、サイバー攻撃によって生じた被害の補償に関する法律が制定されるわけですが、その内容によっては、自動運転車向けのサイバーセキュリティ保険の開発が急がれるかもしれません。

富士通研究所が開発中の車載ネットワークにおけるサイバー攻撃の検知技術の構成図

MaaS向けの保険は他にもあります。一つは、使いたいときにその場で加入することのできる「オンデマンド保険」です。オンデマンド保険は、あらゆるものを対象に、適用期間を限定するタイプの損害保険商品として登場しました。これまでは“モノ”を対象とするのが一般的でしたが、MaaS時代には移動するという“コト”を対象にする商品が出てくるかもしれません。例えばウェイモは、自動運転車に対する不安を緩和することを目的に、オンデマンド保険を提供する米トロブと提携しています。オンデマンド配車サービスの乗客が乗車中にトラブルを被った場合に、保険を適用して乗客に補償するのが目的です。

コトに対する保険としては、海外旅行時のトラブルに対応するための商品である「海外旅行保険」があります。これは一種のオンデマンド保険とも言えますが、現在主流となっているオンデマンド保険の特徴は、対象物や対象サービスの指定や保険内容の選択をスマホアプリで実施し、即座に保険に加入できることです。

実際の運用に当たっては、利用者が利用のたびに保険加入するのは煩雑なので現実的ではないことから、オンデマンド配車サービスと保険会社の間で包括契約するという形になるでしょう。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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