トレンド&デジタルテクノロジー解説【MaaS】

第2回 シェアリングの浸透が新車販売にブレーキをかける

日本の製造業の中核を担ってきた自動車産業は、MaaSという大きな産業トレンドの影響を最も受ける業種です。なぜなら、MaaSが普及することは自動車産業の基盤となっていた新車販売売上の激減をもたらしかねないからです。

これまで自動車産業は、新車販売で獲得する巨大な売上を前提に巨大なサプライチェーンを構築してきました。一般利用者が購入する自家用車は、大半の時間を車庫で過ごしています。それでも多くの利用者は「いつでも好きなときに乗れる」という所有することの価値に重きを置いていたので、稼働率が低いことはあまり問題にされませんでした。

ここに登場したのが、所有より利用を優先する「シェアリング」の考え方です。MaaS事業の先駆けとなったオンデマンド配車サービスは、「車庫で遊んでいる自家用車と隙間時間を活用して、ライドシェアビジネスで稼ぎませんか」というコンセプトで、自家用車のドライバーをライドシェアビジネスの担い手に誘うところから始まりました。

この新規事業が大きな成功を収めたポイントは何でしょうか。それは、乗りたい人と乗せたい人を、瞬時に見つけて組み合わせる「配車プラットフォーム」が登場したことです。配車プラットフォームが登場し、乗りたい人と乗せたい人を素早く、手軽に、そして効率よく実行する環境が整備されたことで、この新しいシェアリングビジネスは多くの利用者の支持を獲得し、爆発的に普及しました。

効率的な配車を実現する配車プラットフォームをクラウド上に構築できた背景には、位置測定機能とアプリの実行環境を備えるスマホの普及と、効率的な組み合わせを瞬時に実行するAI技術の進化があります。

MaaSの基盤となる配車プラットフォームの役割 スマホアプリと連動し、クラウド上で移動ニーズと配車リソースの最適割り当てを実行する

多くの自家用車がタクシーの役割を果たすようになれば、世の中で稼働するクルマの総数とドライバーの数は少なくて済みます。そしてサービスの利用者と、そこで稼働するクルマの数が増えれば増えるほど、クルマの稼働率は高まります。なぜなら、配車プラットフォームは利用者の位置と空車状態のクルマの位置をリアルタイムで収集しているので、利用者と空車の収集数が多くなれば、移動ニーズを持つ利用者の近くにいる空車を効率的に配車できるようになるので、クルマの実車率が高まるからです。

このように、MaaSが普及すればクルマをはじめとする個々の移動手段の稼働率が高まります。その結果、稼働率の低い移動手段=クルマの絶対数は大きく減っていくでしょう。その変化に伴って、クルマは消費者が購入する最終商品としてではなく、サービスを提供するための道具として開発される比率が高まることでしょう。最終的に自動車産業は、モビリティサービス産業の一つに組み込まれてしまうかもしれません。この産業構造が変わりつつあることの危機感が、自動車産業のプレイヤーにモビリティ産業への取り組みを急がせているのです。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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