トレンド&デジタルテクノロジー解説【キャッシュレス社会】

第7回 自治体の旗振りで広がるキャッシュレス決済

2018年11月、日本がキャッシュレス社会に向かうことを象徴するような出来事がありました。神奈川県の黒岩祐治知事が、神奈川県をキャッシュレス社会にする「キャッシュレス都市(シティ)KANAGAWA宣言」を発表したことです。キャッシュレスを推進する狙いは、市民の利便性向上と事業者の人手不足対策および生産性向上です。

KANAGAWA宣言のロゴ(出所:神奈川県)

KANAGAWA宣言ではいくつかの具体策も示されました。象徴的なのは税金支払いのキャッシュレス化です。2019年1月から自動車税、個人事業税、不動産取得税の支払いに、スマホアプリを用いたキャッシュレス決済サービスの「LINE Pay」を導入したのです。このほか、キャッシュレスサービス提供者と商店街などの導入希望事業者とを橋渡す「事業者マッチング」、消費者・事業者のキャッシュレスに対する不安や悩みを解決するための「普及啓発」、事業者が最新技術を実験するための場所を提供する「実証フィールドの提供」などを展開する予定です。

キャッシュレスにはセキュリティ面での不安がつきまとうので、行政機関が責任を持って推進することは、キャッシュレスが安全で信頼できるという社会受容性を高める意味でも、とても意義深いと言えます。

キャッシュレス社会を実現するには、市民の多くがキャッシュレスを導入することによる身近なメリットを感じる必要があります。税金支払いは多くの市民にとって身近なことなので、手続きが簡単になるなどのメリットがあれば、キャッシュレスの利便性を実感できることでしょう。実際、キャッシュレス先進国として有名な韓国は、キャッシュレスの推進に当たって税金面での優遇制度が実施されました。また、ここ数年キャッシュレス化を推進しているタイでは、税金の還付金受け取りを手軽に実行できる施策を実施したことが、多くの市民に導入を促しました。

キャッシュレスに意欲的なのは神奈川県だけではありません。例えば福岡市は2018年6月に複数のキャッシュレス実証実験プロジェクトを採択し、多面的にキャッシュレスの浸透を後押ししています。

福岡市は観光産業が盛んで、これまでも中国や韓国からのインバウンドで訪問した顧客が買い物や食事の場面でキャッシュレス決済を望んでいるというニーズがありました。実験プロジェクトは福岡市の施設だけでなく、複数の民間施設も対象になっていて、キャッシュレス決済サービス事業者も複数が参加しています。

福岡市が採択した実証実験プロジェクトの一覧(出所:福岡市)

これらの実証実験プロジェクトの対象商店は多岐にわたっています。タクシー、駐輪場、商店街のお店に加えて、20店舗以上の屋台でもキャッシュレスでの支払ができるようになっています。

キャッシュレスを推進する自治体は、まだそれほど多くはありません。ただし、今後多くの自治体がキャッシュレス推進を本格化することが予想されます。というのは、経済産業省が2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、大阪・関西万博(2025 年)にキャッシュレス決済比率40%を達成する目標を掲げ、将来的に世界最高水準のキャッシュレス決済比率80%を目指すと宣言したからです。キャッシュレス・ビジョンによると、日本のキャッシュレス決済比率は18.4%(2015年時点)だそうです。

神奈川県や福岡市でキャッシュレス化の有用性と運用上の課題が確認されれば、それをフィードバックすることで自治体のキャッシュレス化がさらに加速されることになるでしょう。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

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