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Fujitsu

Japan

コラム「グローバル経営と管理会計」
第2回 「グローバル型」組織と管理会計

2014年12月10日公開

管理会計を考えるにあたって最も大切なことは「目的適合性」、言い換えれば「マネジメントの目的に沿った会計情報を作成し、活用すること」です。一見当たり前のことのようですが、この基本を見失って管理会計がうまく運用できないという事例は少なくなくありません。マネジメントの目的という観点からは、3つのマネジメントの階層と2つの役割から次の2×3マトリックスの領域に分けることができ、またそれぞれの領域はそのマネジメントの目的のための管理会計の領域も同時に示しているものでもあります。

グローバル企業の組織形態の設計は、マトリックスの中のマネジメントの各領域を本社と現地法人でどのように分担するかということの設計でもあります。例えば、グローバル本社に権限を集中させるグローバル型では、マトリックス上のA-1、A2、B-1、B-2の領域のマネジメントはグローバル本社に集中することとなり、A-3の領域はグローバル本社が主となって意思決定したものを現地法人で具体化するという形で協働し、B-3の領域のコミュニケーションはグローバル本社と現地法人及び現地法人内のコミュニケーションという形でマネジメントの課題をそれぞれ担うこととなります。

これらを各組織形態と管理会計上のポイントをまとめると次のようなものとなります。

  • グローバル型:本社による海外事業の業務マネジメントがポイント
  • インターナショナル型:本社による海外事業の事業マネジメントがポイント
  • マルチナショナル型:本社による戦略プランニングとモニタリングがポイント
  • トランスナショナル型:会計情報の共有の仕組みがポイント

今回から、それぞれの組織形態のポイントを順を追って詳説していきます。

グローバル型組織

グローバル型は、本国のグローバル本社に権限、経営資源が集中し、各国現地法人は本社の指示に従って事業を運営する形態の組織です。典型的なグローバル型の組織は、財務・経理などの管理機能、研究開発拠点は本国のグローバル本社やその周辺に集中させ、大規模な製造拠点を本国または製造コストなどに優位性のある国におき、販売子会社を進出先の各国におくという組織形態です。

中央集権的組織であるグローバル型は、下の図のように(1)グローバル本社が海外事業を統合されたグローバル市場に標準化された製品を供給するパイプラインであるとみなす「グローバル型思考」、(2)グローバル本社に戦略的資産、経営資源、責任、意思決定の各機能が集中している「集権化されたハブ」、(3)グローバル本社が各国の現地法人に対して意思決定、資源、情報を厳格に統制する「集権的統制による業務コントロール」という特徴を持っています。

マネジメントの領域との関係でいえば、マネジメントの全ての階層の意思決定を本国でコントロールすることとなりますが、実際の組織運営上は戦略プランニングと事業マネジメントの機能は本社が担い、業務マネジメントはグローバル本社と現地法人が協働して担うという関係になるのが一般的です。

「統合されたグローバル市場」と「統合されたグローバル市場とみなした市場」

前の節の説明の中に「グローバル市場」に標準化された製品を供給という表現がありましたが、この「グローバル市場」には大きくわけると二つの種類があります。

一つは、鉄鋼・非鉄金属・化学・繊維・石油などの素材産業や電子部品のように、製品の物理的なスペックが重要で国や地域ごとの選好の差異などがほとんどない、実態として統合されたグローバル市場です。これらの製品はグローバル市場で世界中の企業と製品開発やコストで激しい競争に巻き込まれるため、この種類の業界に属する企業の海外展開はビジネスプロセスの効率性に強みがあるグローバル型の組織形態を採用することが一般的です。また、各国の事業環境への適応力の要求も小さいことからグローバル型から他の組織形態への組織変革のニーズもほとんど無く、現地法人への権限移譲が進みインターナショナル型に変革するということはあまり起こらず世界のトップレベルの規模であってもグローバル型の組織形態を採用しているケースが一般的です。例えば、インテルのようなCPUメーカーが各国の法人に開発機能を分散し、各国ごとに対応モデルを開発させて地域対応力を向上させようとすることは予想しづらいといえるでしょう。

それに対してもう一つのグローバル市場は、消費者向けの製品やサービス業など、国や地域によって好みやニーズに差異がある市場で、実態としてはグローバルに統合された市場というよりはローカル市場の集合体というべきマーケットです。このようなマーケットで海外展開を行う場合には、国や地域の事業環境への適応のニーズが比較的高いためグローバル型は適していない面もあります。しかし、実際には前回のコラムでも触れたように、海外展開の初期段階では国内で成功した事業のロジックを海外で展開をするためにグローバル型を採用する例は少なくありません。このケースでは、進出した国や地域の市場の中からグローバル型で展開できる市場を選んで事業展開をすることとなり、いわば「統合されたグローバル市場とみなした市場」で事業を展開するものといえます。

例えば、食品は国や地域によってニーズが異なる「嗜好の壁」があるといわれる市場であり実態的には統合されたグローバル市場とは言い難いにも関わらず、ヤクルトのように国内と同じ製品を30以上の国と地域で販売しているという事例もありますが、これは世界各国に散らばっている乳酸菌飲料市場を「統合されたグローバル市場とみなした市場」としてグローバル型の組織形態により海外展開をしているものです。

ただ、このような「統合されたグローバル市場とみなした市場」でグローバル型の組織形態を採用している場合、現実には国や地域によって市場のニーズが異なるため、国や地域の事業環境への適応力という課題を潜在的に抱え続けることとなり、中長期的にはインターナショナル型などの適応力により強みのある組織形態への変革という力が働くこととなります。食品市場の例を見てみると、味の素のように海外進出当初は製品が売れるところに進出するというグローバル型によって海外展開をスタートし、その後の海外事業拡大のプロセスの中で各国の事業環境への適応力を高めるために開発拠点や開発ネットワークを国外に設けるという組織変革を行ったケースなどがあります。

市場の性質 事業領域 国、地域の事業環境の適応のニーズ 組織形態に対するニーズ
実態として統合されたグローバル市場 素材産業、電子部品など ほとんど無し グローバル型でビジネスプロセスの効率性を追求
ローカル市場の集合体を統合されたグローバル市場とみなしたもの 消費者向けの製品、サービスなど 有り インターナショナル型などへの変革の潜在的ニーズ

グローバル型の組織は製品の供給パイプラインの可視化が必要

製造、開発、マーケティング、物流などのビジネスプロセスの効率性が強みとなるグローバル型ですが、その強みを発揮するためには単にグローバル型の組織形態を採用すれば良いということではなく、強みを発揮するためのマネジメントの仕組みが必要となります。

グローバル型のビジネスプロセスの効率性という強みを発揮するための課題を一言で表せば、「各国に分散されたビジネスプロセスを距離や国境を越えて全体最適化するため、製品の供給パイプラインを可視化する」ということとなります。

グローバル型では、規模のメリット、物流の効率性、現地調達率等の法令・規制などの条件を考慮して各国に製造拠点、物流拠点を設けるため、ビジネスプロセスが国境を越えるということは珍しくありません。いわば製品の供給パイプラインが世界中に張り巡らされている状態です。その一方、海外拠点は地理的に離れているだけでなく、時差もあり、日常業務で使用する言語も異なるため、ビジネスプロセスの一部がブラックボックス化してしまい、本国のグローバル本社がタイムリーに各国の業務遂行の状況を把握できず、供給パイプライン上のボトルネックを発見できないという状況に陥る危険があります。

情報システムの制約などでグローバル本社でタイムリーな状況把握が難しいために現地法人にビジネスプロセスのマネジメントを委ねてしまうということも見受けられますが、情報や意思決定がグローバル本社に集まる形態であるグローバル型の組織では、グローバル本社で把握できないビジネスプロセスがあるということは、仮に現地法人の部分最適は実現できたとしてもグループの全体最適を実現することは難しいといえるでしょう。

グローバル型組織では、本社と各国の現地法人の取引の状況、生産の状況、物流状況などビジネスプロセスが可視化され、製品の供給パイプラインが可視化されることが強みを発揮するための必要条件となります。

グローバル型にフィットした管理会計のポイント

グローバル型の管理会計を考えるにあたっては、グローバル本社と各国の現地法人で協働して担う業務マネジメントの領域に関わる会計情報(原価管理のための情報など)をどのように作成・活用するかということがポイントとなりますが、そのためには前節で解説したように供給パイプライン(=ビジネスプロセス)を可視化するということが最も重要なポイントとなります。

その一方、事業マネジメントや戦略プランニングといった狭い意味での管理会計については、マネジメントの機能がグローバル本社に集中しているためグローバル対応ならではの課題は大きなものとならないことが一般的です。そもそも、グローバル型の組織の現地法人は販売子会社、製造子会社の形であることが一般的で、委譲されているマネジメントの権限も少なく会計責任を負う範囲も狭くなっているため、海外子会社の利益管理はグローバル型以外の組織形態と比較するとシンプルなものとなる傾向にあります。

ただし、このことはグローバル型では事業マネジメントが重要でないという意味では無く、少なくとも国内市場で事業展開をしている企業と同様のレベルで戦略プランニングや事業マネジメントのために会計情報を活用することは必要です。そして、事業マネジメントの中心となる予算管理について考えてみると、予算の編成 → 実績の把握 → 予算・実績差異分析と対応策の検討、というプロセスの中で、世界中で日々取引が発生しているため実績の把握のプロセスに課題が生じやすいという傾向があります。

また、業務の効率化という面でも、タイムリーに事業マネジメントのための会計情報を活用することが必要です。例えば、海外販売子会社の責任者が販売計画を立案、海外製造子会社の責任者が製造計画を立案し、グローバル本社の事業マネージャーが承認するという組織を例にとって考えると、ビジネスプロセスの可視化ができて製造の状況、販売の状況は現地子会社とグローバル本社で可視化されている状況であっても、事業マネジメントに必要な事業損益などの情報がタイムリーに把握できていなければ事業マネジャーはタイムリーに販売計画、製造計画についての判断をすることはできず、その結果として販売活動、生産活動といった業務に支障をきたすということも起こりかねません。

つまり、グローバル型の強みであるビジネスプロセスの効率性を高めるためにはグローバル本社でタイムリーに各国の会計情報を把握できることが必要となり、法令、税制、会計基準、通貨などが異なる各国の会計業務を集権化されたハブの機能を果たせるようにグローバルに統合することがグローバル型の管理会計のポイントとなります。また、グローバル型の組織形態の性質を考えれば当然のことですが、会計処理の方針、ルールなどはグローバル本社で決定し、現地法人では本社の方針やルールに従って会計処理を行うというという原則は堅持する必要があります。勘定科目や会計処理のルールは開示体制の整備という財務管理上の問題だけでなく、事業マネジメントの観点からは管理会計上でも重要なものであるので、設計に当たっては管理会計のニーズも十分に考慮しなければならないことも意識しておくことが必要です。

グローバル型の特徴である、「集権化されたハブ」としてグローバル本社の機能、現地法人への「集権的統制による業務コントロール」、海外事業を統合されたグローバル市場へのパイプラインとみなす「グローバル型思考」は管理会計の基礎となる会計業務の中でも活かされる必要があり、会計のための資源、責任、意思決定はグローバル本社に集権化し、会計方針・ルールの決定や情報は厳格な集権的統制を行うという必要があります。このようなグローバル型の会計によって、予算管理でも必要なタイムリーな各国の実績の把握が実現でき、事業マネジメントと業務マネジメント(業務の効率化)の目的に沿った管理会計を実現することが可能となります。

インターナショナル型への転換

「統合されたグローバル市場とみなした市場」でグローバル型の組織形態を採用していた企業が、各国の事業環境や顧客の選好への対応を進めるため各国現地法人に事業運営の権限委譲を進めていくことで、グローバル型からインターナショナル型へ組織形態が変革する例があります。

グローバル型ではグローバル共通の製品を効率よく各国に展開するために販売する製品の種類・価格・物流などをグローバル本社でコントロールすることとなりますが、インターナショナル型への移行に伴って国や地域特有の販売体制、開発体制、生産体制、物流体制などを構築することとなり、ビジネスプロセスや会計処理の方針決定やルール作りの一部を現地法人に委ねることとなります。

また、インターナショナル型では事業マネジメントをグローバル本社と現地法人と協働して行うこととなり、グローバル型のようにグローバル本社に機能を集中させる場合と管理会計のために必要な会計情報の作り方や伝達の仕方などが変わってくることとなります。

グローバル型では、会計業務でもグローバル本社に資源や情報を集約し、本社で作成した方針やルールによる集権的統制を行うということが求められますが、将来のインターナショナル型への変革を考慮すると、組織変革にともなう管理会計のための会計情報や会計業務の変化への柔軟性があることも必要ですので、グローバル型に極端に最適化された硬直的なものとならないように意識することもポイントとなります。

インターナショナル型の管理会計については、次回で詳しく解説します。

講師紹介

公認会計士 森川智之氏

公認会計士 森川智之氏の写真

監査法人トーマツに勤務後、独立。 IPO支援、管理会計、ファイナンス等のコンサルティング業務から税務業務などを幅広く行う。
公認会計士、森川アンドパートナーズ会計事務所代表、有限会社フォレストリバー代表取締役。
著書として「決断力を高めるビジネス会計」(中央経済社)、「スタンフォード・ビジネススクールが教える「財務諸表の読み方」」監訳(日本経営合理化協会)がある。

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