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Fujitsu

Japan

コラム「グローバル経営と管理会計」
第1回 グローバル企業の組織形態

2014年11月5日公開

一口にグローバル企業といっても、海外販売子会社を通じて輸出中心の海外展開をしている企業、海外子会社が独自の事業展開している企業、複数の国や地域に本社機能を持つ多国籍企業など、その組織形態には様々なものがあります。

グローバル企業の組織の分類として一般的なクリストファー・バートレットとスマントラ・ゴシャールの分類によると、グローバル企業の組織モデルには以下の四つのものがあるとされています。

  • (1)グローバル型
  • (2)インターナショナル型
  • (3)マルチナショナル型
  • (4)トランスナショナル型

(1)グローバル型

グローバル型は、本国のグローバル本社に権限、経営資源が集中し、各国現地法人は本社の指示に従って事業を運営する形態の組織です。歴史的な観点でいえば19世紀後半から20世紀初めの初期の多国籍企業の大半はグローバル型の組織であり、1970年代から1980年代に海外市場に進出した日本企業もグローバル型の組織でした。現在でも企業が海外展開を進めていく初期段階ではグローバル型の組織を採用するのが一般的です。

グローバル型の組織では、戦略の策定や製品開発などのイノベーションは本国の役割であり、現地法人の役割は本国が策定した戦略を海外で実施することや本国で開発した製品の現地での販売などとなります。グローバル型の組織では、本社で開発した製品を、グローバル共通製品として製造し、マーケティング活動を行うというような事業運営を行うこととなるため開発・製造・マーケティングなどのビジネスプロセスの効率性の面では優れており、コスト面での優位性を築きやすいという強みがある反面、中央集権的な組織であるため各国の事業環境への適応力や海外でのイノベーションの創出などの学習力の面に課題がある組織形態です。

(2)インターナショナル型

インターナショナル型は、本国のグローバル本社が戦略や方針の決定を行い、各国現地法人に現地の事情に応じた運営などの権限をある程度与える形態の組織です。グローバル型の現地法人は本国の戦略を実施するための組織であり、本国で開発された製品などを最低限のローカライズをして販売するという役割に徹することとなりますが、インターナショナル型では現地法人も一定の裁量をもって本社の戦略やコア・コンピタンスを現地の事情に合わせて適用する役割を担っています。

グローバル型と比較すると現地法人の裁量が大きくなっているため適応力の面で優れていると同時に、本国でのイノベーションを各国の実態に合わせて適応することができるなど学習力の面で優れた組織形態です。その一方で、グローバル型と比較するとビジネスプロセスの効率性に課題があり、各国現地法人の裁量がより大きいマルチナショナル型と比較すると各国の事業環境への適応力に課題がある組織形態です。見方を変えると、インターナショナル型はグローバル型とマルチナショナル型の中間的な組織形態で、効率性と適応力のバランスをとった組織形態ということもできます。

(3)マルチナショナル型

マルチナショナル型は、各国現地法人が独自の経営方針、経営資源で事業を運営し、独立独歩の経営を行う企業の連合体という形態の組織です。マルチナショナル型では、本国の現地法人への関与は最小限となり、現地法人が独自の戦略やコア・コンピタンスによって国や地域の特性に応じた製品・サービス展開、事業展開を行っていくこととなります。

各国現地法人の独自の事業展開を行うマルチナショナル型は各国の事業環境への適応力の面では優れた組織モデルですが、グループ間での調整の機能がほとんど無いためビジネスプロセスの効率性とイノベーションの横断的展開や知識の共有といった学習力に課題がある組織形態です。

(4)トランスナショナル型

トランスナショナル型は、各国現地法人により現地に合わせた自律的な経営が行われますが、各国現地法人が経営資源の調整などの面で連携しつつ事業運営が行われる形態の組織です。各国の法人は親会社と子会社という階層というより相互依存するネットワーク型の組織となり、それぞれがグループの中で差別化された役割を担い、共同開発されたイノベーションをグループで共有するというナレッジのマネジメントを行うこととなります。

グローバル型、インターナショナル型、マルチナショナル型は、効率性、学習力、適応力にそれぞれの組織の強み、弱みがあるのに対して、トランスナショナル型の組織はビジネスプロセスの効率性、イノベーションの創出や展開などの学習力、各国事業環境への適応力の三つの課題に対してバランスよく対応できる組織形態である一方で、他の組織形態と比較して組織のマネジメントが難しいという課題があります。

各組織形態の強み、弱み

  効率性 学習力 適応力 組織マネジメント
グローバル型
インターナショナル型
マルチナショナル型
トランスナショナル型

上記の四つに分類されたグローバル企業の組織形態は、一つの組織形態を採用するとそれが永遠に続くという性質のものでは無く、海外展開の段階によって組織形態が変化することも少なくありません。

海外展開の当初は現地販売子会社を通じた輸出を中心として事業展開していたものの、現地の特性に適応した事業展開を進めるため海外子会社に生産や製品開発の機能を持たせていくという例や、海外の企業を買収することでグローバル展開をスタートし海外の事業は子会社の独自性に任せていたマルチナショナル型からグループマネジメントを強化した組織形態に変化していくという例もあります。

一般的には、次の図のように (1)グローバル型→インターナショナル型(2)インターナショナル型→トランスナショナル型(3)マルチナショナル型→トランスナショナル型という変革を目指す例が多いようです。

上記のとおり四つのグローバル組織モデルによってグローバル本社と各国現地法人の役割は異なります。それに伴い本社と現地法人で行うべき意思決定も異なり、意思決定に必要な指標や会計情報の作り方や利用の仕方も異なってきます。グローバル企業の管理会計を考えるにあたっては、採用する組織モデルの特性を理解し、その特性にマッチした管理会計の仕組みを構築、運用することが必要です。また、国内で事業展開している企業と比較にならないほど変化の激しい環境に適応し、中長期的な組織形態の変化にも対応できることも必要です。

次回からグローバル企業の組織形態の特性に応じた管理会計の構築のポイントと変化への対応のポイントについて解説します。

講師紹介

公認会計士 森川智之氏

公認会計士 森川智之氏の写真

監査法人トーマツに勤務後、独立。 IPO支援、管理会計、ファイナンス等のコンサルティング業務から税務業務などを幅広く行う。
公認会計士、森川アンドパートナーズ会計事務所代表、有限会社フォレストリバー代表取締役。
著書として「決断力を高めるビジネス会計」(中央経済社)、「スタンフォード・ビジネススクールが教える「財務諸表の読み方」」監訳(日本経営合理化協会)がある。

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