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Fujitsu

Japan

コラム「グローバル経営と管理会計」
第3回 「インターナショナル型」と管理会計

2015年3月2日公開

インターナショナル型組織

インターナショナル型は本国のグローバル本社が戦略や方針の決定を行い、各国現地法人に現地の事情に応じた運営などの権限をある程度与える形態の組織です。

第2回で解説したグローバル型は海外事業をグローバル市場への供給パイプランとしてみなし、意思決定、資源、情報がグローバル本社によって厳格に統制されている形態でしたが、インターナショナル型は(1)海外事業を本社の付属とみなす「インターナショナル型思考」、(2)多くの資産、経営資源、責任、意思決定が各国に分散されているが本社からのコントロールも受けるという「調整された連合体」、(3)公式な経営計画と統制システムによってグローバル本社と海外事業をになう現地法人が密接に結びついている「管理型コントロール」、という3つの特徴を持っています。

具体的には、インターナショナル型では現地法人がグローバル本社のもつ製品やノウハウなどを各国の事業環境に適応するための移転、現地化などのイノベーションを担い、新製品の開発や現地での事業展開の方針などをグローバル本社のコントロールの下で現地法人が立案・実行することとなります。

インターナショナル型は米国の企業で多く採用されているといわれていますが、歴史的に見てみると米国企業が海外進出の当初からインターナショナル型を採用していたというよりも、グローバル型で海外進出していた後に各国の事業環境への適応力を高める過程でインターナショナル型への変革が進んできているという例が見られます。

例えば、米国企業の日本子会社の中でも最も広く知られる会社の一つである日本コカ・コーラの歴史を振り返ると、日本コカ・コーラの設立当初は「コカ・コーラ」「スプライト」「ファンタ」といった親会社のザ・コカ・コーラ・カンパニーのグローバル製品を日本市場に供給するという役割を担っていたものから、1970年代以降は日本市場の嗜好に適応すべく「ジョージア」「アクエリアス」という製品を開発し、販売するという役割も担うように変革してきています。

日本企業の海外進出における組織モデル

このように、日本企業はグローバル型が多く、米国企業にはインターナショナル型が多いと言われていることは、一つには日本企業と米国企業の海外進出の歴史の長さの差にも原因があるように思われます。19世紀末から海外進出してきた米国企業と比較すると、現在活躍している日本企業の海外進出が本格的に始まったのは20世紀の後半と大きな差があります。実際、日本企業の中でも海外進出に長い歴史を持つ企業の中には、グローバル型からインターナショナル型やトランスナショナル型へ変革しているという例も少なからず見受けられます。

ただ、その一方で日本企業の中には各国の事業環境への適応力のニーズを感じながらも、現地法人への権限移譲がうまく進められずグローバル型からインターナショナル型などへの組織変革に苦労している例もあるようです。その原因の一つには海外事業マネジメントを担う人材の教育や登用などの人事面などがボトルネックとなっているという面もあるようですが、もう一方で日本企業はグローバル型の「業務コントロール」は比較的得意であってもインターナショナル型の「管理型コントロール」が得意でない傾向があり、企業の事業マネジメントの能力そのものがボトルネックとなっている例も見られます。

インターナショナル型の管理会計のポイント

前の節で解説したインターナショナル型の特徴の中でマネジメントと管理会計の観点から特に重要なものは、グローバル型が厳格な集権的統制によって海外事業のマネジメントを行うものに対して、インターナショナル型は『公式な経営計画と統制システム』によって現地法人のマネジメントを行うというものだという点です。

従って、インターナショナル型の管理会計のポイントを一言でいえば、「海外事業をマネジメントするための『公式な経営計画と統制システム』を構築し、運用するということ」となります。

このインターナショナル型のマネジメントと管理会計のポイントを、前回のコラムで解説した「マネジメントの領域:2×3マトリックス」との関連で言うと、マネジメントの領域の分担はA-3・B-3の業務マネジメントに関わる領域は主として現地法人で担い、A-1・B-1の戦略プランニングに関わる領域はグローバル本社で担うこととなります。そして、戦略プランニングと業務マネジメントをつなぐ事業マネジメントを本社と現地法人で協働して行うこととなるため、各国に分散している事業マネジャーと本社との間で事業マネジメントを有効に機能させていくということがインターナショナル型の管理会計において重要なポイントとなります。

言い換えるなら、インターナショナル型では海外事業のマネジメントを個別の「業務」マネジメントとして捉えるのではなく、海外事業を販売や製造などの業務活動や経営資源を一体化した「事業」と捉えてマネジメントするといえます。そのため、インターナショナル型ではグローバル本社による事業マネジメントが重要なポイントとなります。

具体的には、インターナショナル型の管理会計のポイントは次のようなものが挙げられます。

  • (1)権限と責任のバランス
  • (2)トップダウン予算とボトムアップ予算
  • (3)国際タックスプランニングと管理会計の調整
  • (4)管理会計上の多通貨の取り扱い
  • (5)インターナショナル型の管理連結

(1)権限と責任のバランス

現地法人に権限の委譲を行うインターナショナル型であっても、すべての現地法人に均等に権限を委譲することとはなりません。規模が大きく、事業マネジメントを担える人材がいる現地法人には大きな権限を委譲しているが、規模が小さい現地法人はグローバル型のような本社によって直接的コントロールをされているというように、現地法人の実情に応じて委譲している権限の範囲に差異を設けていることが一般的です。

無論、国内事業のみを行っている場合でも子会社へ委譲する権限の範囲に差をつけることは良くありますが、海外事業を行っている場合は国によって市場の特殊性や重要度などの性質に差が大きくなるため、現地法人への権限の委譲範囲についてもより複雑になる傾向があります。

現地法人に委譲した権限の範囲に差があるのであれば、それに対応する現地法人と現地法人マネジャーの責任の範囲にも差があることとなります。インターナショナル型の管理会計、特に業績評価のための会計を構築、運用するにあたっては、現地法人マネジャーの組織上の権限と責任と会計上の責任との整合を考慮する必要があり、複雑な権限移譲に即したマネジャーの業績評価を行う必要があります。

例えば、現地法人マネジャーに設備投資の権限を全く与えていないのにも関わらず、設備投資によって実際に発生した減価償却費を控除した後の当期純損益の責任があるとするような業績評価会計はマネジメント上の様々な問題を引き起こす原因となります。

(2)トップダウン予算とボトムアップ予算

インターナショナル型の特徴にも挙げられている『公式の経営計画と統制システム』の柱となるものに、年次利益計画である予算制度があります。予算制度は事業マネジメントのための管理会計の中核となるものでもあり、予算制度をどのように構築、運用できるかということはインターナショナル型の管理会計としても重要なポイントとなります。

予算の策定についてはトップダウン予算とボトムアップ予算のどちらが望ましいかという議論がされますが、実際の予算策定では単純なトップダウン予算でもボトムアップ予算でもなく、トップからの方針の下達、ボトムからの行動計画の積み上げ、部門間の調整、上位マネジャーとの調整などのプロセスの中で編成される、いわばトップダウン予算とボトムアップ予算のすり合わせによって編成されるものが一般的です。

海外事業を行っている企業の予算編成は、国内で事業を行っている企業と比較すると本社と現地法人の間の調整などに時間と手間がかかることなどにより、トップダウンによるものとなりやすい傾向があるようです。

ただし、本社から現地法人へのトップダウン型の計画策定が常に悪いことというわけではなく、グローバル型の組織形態で海外事業を行っている場合は基本的には本社からトップダウンで計画が下達されることは合理的です。しかし、インターナショナル型の組織により各国の事業環境への適応力をより高めるためには、計画策定のプロセスの中にも現地法人が作成する行動計画をできるだけ反映させていく必要があります。

インターナショナル型の管理会計では、効率性の観点によって安易なトップダウン予算によるのでなく、グローバル本社から下達する事項、現地法人からの積み上げによってまとめる事項の組み合わせが適当か、また本社と現地法人との間とのすり合わせが十分に機能しているかについて注意を払う必要があります。

(3)国際タックスプランニングと管理会計の調整

グローバルに事業展開をしている企業にとっては各国の税制を活用しながらグループ全体の租税負担を軽くすることは重要な経営課題の一つでもあるため、国際タックスプランニングの観点からグループ内の取引のルール、形態などを決定することがしばしば起こります。

租税負担を軽減するために国際タックスプランニングを考慮することは重要なことでありますが、その結果として会計上の収益の帰属や利益の帰属が現地法人の活動と整合しなくなる可能性がある場合は管理会計への悪影響が生じないように注意する必要があります。

例えば、A国にある現地法人が販売しているXという商品について、税率の低いB国からユーザーへ直接商品供給することによって租税負担を軽減することができるという場合、管理会計上も商品Xの売上がA国の現地法人の収益として認識されないとすれば現地法人のマネジャーは積極的に商品Xの販売を行うことはあり得ないでしょう。

財務会計上、税務会計上の収益、利益の帰属だけでなく、現地法人の権限と責任の範囲を考慮して管理会計上の収益、利益の帰属範囲を検討する必要があります。

(4)管理会計上の多通貨の取り扱い

海外で事業展開を行うと、現地法人の会計処理を行う通貨とグローバル本社の報告通貨が異なるということが起こります。現地法人が使用している通貨とグローバル本社の報告通貨との為替リスは現地法人のマネジメントの範囲に含まれていないことが一般的なので、現地法人のマネジメントを行うための会計情報は現地法人の会計処理を行う通貨で行うことが一般的です。

この場合、グローバル本社で多通貨での管理会計の構築、運用が必要になると同時に、現地法人で管理できない各国通貨と報告通貨との為替リスクをグローバル本社でマネジメントするための情報が必要となります。

(5)インターナショナル型の管理連結

インターナショナル型は子会社を通じて海外事業を展開していくこととなるため、管理会計上も連結決算をどのように取り扱うかということも課題となります。

管理連結を考える場合であっても「目的適合性」の重要性は変わりませんが、特にインターナショナル型の管理連結では現地法人マネジャーの業績評価のための連結、現地法人マネジャーの意思決定のための連結、グローバル本社の意思決定のための連結に求められるものが違ってくるため注意が必要です。

マネジメント領域 情報利用者 集計範囲 必要な情報
現地法人マネジャーの業績評価 本社・現地法人マネジャー 現地法人など
(注)管理可能収益・費用
現地法人マネジャーが責任を負う収益・費用の集計
現地法人マネジャーの意思決定 主に現地法人マネジャー 現地法人など
(注)管理不能収益・費用を含む
差額原価収益分析・CVP分析などのための会計情報
グローバル本社の意思決定 本社 全社の収益・費用 グローバル全体最適のための会計情報
  • 現地法人マネジャーの業績評価

    現地法人マネジャーの業績評価のための会計情報にとって重要なことは、マネジャーが権限と責任を有している管理可能な収益と費用を集計したものであることです。
    連結決算という観点から見ると、現地法人マネジャーが責任を負う範囲は現地法人の個別会計の数値、或いは現地法人とその子会社・関連会社を連結した連結会計の数値ということとなります。
    また、為替リスクはグローバル本社でマネジメントすることとなるため、会計情報は現地法人で用いている通貨によって表示されるか、または社内固定レートなどを用いて為替レート変動の影響を排除したものとする必要があります。

  • 現地法人マネジャーの意思決定

    現地法人マネジャーの意思決定のための会計情報にとって重要なことは、マネジャーの意思決定による事業に与える影響(BS・PL・キャッシュフローに与える影響)がどのようなものであるかを予測するためのものであることです。
    影響の予測をするためのものであるので、過去の会計情報のみでなく将来の予測情報を含むということになりますが、信頼性がある精度の高い予測を行うためには過去と現状の正確な把握ということが大前提となります。従って、マネジャーが責任を負う収益・費用だけでなく、現地法人が担っている海外事業に関連して発生している収益・費用を洩れなく把握できることが必要となります。

  • グローバル本社の意思決定

    戦略プランニングを含むグローバル本社の意思決定は、特定の国や地域の観点でなく、グローバル企業集団の全体最適の観点から行われる必要があります。従って、国や地域の事業を評価するにあたっては、為替レートの変動による事業への影響なども含めて、関連するすべての収益・費用などの情報を集計する必要があります。
    また、グローバル本社は国や地域を跨った製品や事業についての意思決定を行う必要もあるため、子会社や部門を跨いで会計情報を集計することも必要となります。

インターナショナル型の管理連結にとっては、この三つのマネジメント領域はいずれも欠かすことができないものです。それぞれの目的に適合した会計情報をどこで、どのようにして作成し、活用するかについて、グループ全体の情報の整合性も確保しつつ設計する必要があります。

第2回ではビジネスプロセスの効率性に強みがあるグローバル型、第3回ではビジネスプロセスの効率性と地域適応力のバランスのとれたインターナショナル型の組織と管理会計について見てきました。この二つは比較的日本企業にもなじみがある組織形態であるのに対して、地域適応力に強みがあるマルチナショナル型は採用している日本企業が少ないと言われていました。

しかし近年では、M&Aによる海外進出などによって現地法人に大幅な権限を与えるマルチナショナル型の組織運営やマネジメント手法を求められるという事例も多くみられます。

マルチナショナル型の管理会計については、次回で詳しく解説します。

講師紹介

公認会計士 森川智之氏

公認会計士 森川智之氏の写真

監査法人トーマツに勤務後、独立。 IPO支援、管理会計、ファイナンス等のコンサルティング業務から税務業務などを幅広く行う。
公認会計士、森川アンドパートナーズ会計事務所代表、有限会社フォレストリバー代表取締役。
著書として「決断力を高めるビジネス会計」(中央経済社)、「スタンフォード・ビジネススクールが教える「財務諸表の読み方」」監訳(日本経営合理化協会)がある。

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