この不確実な時代、持続可能な社会に向けて、企業はどのように変革を起こすべきでしょうか。ビジネス変革を成功に導く5つのテクノロジーについてご紹介する連載企画。前回のAIに続き、5回目の今回は、データ&セキュリティに焦点をあてご紹介します。
ボーダーレスな世界という概念は、グローバリゼーションの急速な進展に伴い、1990年代にMBAプログラム※を通して生み出されました。デジタルと物理的な世界との境界がますます曖昧になる時代、個人や企業等の組織、政府間ではDXによりシームレスかつ自動的な相互接続が進んでいます。未来学者でなくとも、「ボーダーレスな」デジタルネットワークが身近になっていることを感じ取るようになり、数年先には社会のすべてがデジタルでつながる――そんな可能性も多くの人々が口にするようになりました。このような時代に求められるセキュリティに企業はどのように取り組めばよいのでしょうか。富士通ベルギーで最高デジタル責任者兼最高技術責任者を務め、Fujitsu Global Fujitsu Track and Trust Center長でもあるFrederik De Breuckに話を聞きました。
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※MBAプログラム:高度な知識と高い倫理性を備えた経営のプロフェッショナルを養成することを目的として作られたプログラム
ボーダーレスなデジタル世界におけるセキュリティ
サイバー攻撃、データ流出、フェイクニュース、ID詐欺など、サイバー空間の脅威はボーダーレスに進行しており、もはやデータやオンラインに対する人々の信頼は揺らぎ始めていると言っても過言ではないでしょう。電力網などの物理的な社会インフラもサイバー攻撃の危険にさらされており、さらに信頼を損なう要因となりかねません。近年ではメタバースやデジタルツインの浸透も広がり、人間、モノ、デジタルの境界が曖昧になるにつれて、サイバーセキュリティは国際的に取り組むべき問題として避けては通れなくなっています。
このような視点からサイバーセキュリティは言い換えるなら、デジタル社会の根幹を成すものであると言えます。富士通は、現在および将来の脅威に対するセキュリティソリューションの可能性を見出し、あらゆるものに対する信頼の構築に貢献することを重要な使命の1つと考えています。
ボーダーレスな世界が求めるデジタルアイデンティティ
ビジネスや社会におけるサイバーセキュリティ対策は、従来の中央集権的なオペレーションモデルから変化しつつあると捉えています。新しいモビリティサービス、金融や小売におけるAPIエコノミー、分散型電力網などのオープンな分散ネットワーク構造へ次々と進化しているのです。
富士通は、自己主権型・分散型アイデンティティによるデジタルIDテクノロジーとして、マルチバイオメトリクス認証、プライバシー保護を研究開発してきました。例えば、安心安全で自由なデータ流通を実現するAPI群「Data e-TRUST」とブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティ基盤「Fujitsu Track and Trust」を組み合わせることで、あらゆる業界にわたり安全なデータ交換を実現することができます。透明性の高いトラスト・トランスファー技術では、民間企業および公企業間でやりとりされる業務データの改ざんを防ぎ、真正性を確保できます。また、ゲーム分野では、大手ソフトウェア企業と提携し、デジタルデータの権利を管理する新しいデジタル署名ソリューションを開発しました。メタバースやゲームの世界で発行されたデジタルデータに対し、デジタル署名を発行・検証可能とすることで、安全に配布および販売できるようになります。
同じ情報を共有することで生まれる信頼関係
富士通は共創パートナーと新たな価値を創出するエコシステムの場として、「Fujitsu Accelerator Program for CaaS」を活用しトレーサビリティによる社会課題の早期解決を目指しています。
「Fujitsu Track and Trust」の技術は、生産、供給、流通、販売など種々のネットワークを横断して、信頼できる検証ポイントが設定可能となり、ブロックチェーンのシステム開発を加速することができます。
例えば、買い手、売り手、サービス提供者が、信頼性の高いセキュアな環境下で、異なる地域に存在する新たな取り引き相手を見つける分散型台帳技術(DLT)。また、各項目の全工程と存続期間全体にわたり、透明性が高く、改ざんできない方法で認証情報をトレースします。製造状況をリアルタイムに見える化することにより、水源の証明はもとより精製装置自体を証明することで安定した水取引が可能となりました。詳しくは、ライスエクスチェンジ(Ricex)およびBotanical Water Technologies社のカスタマーストーリーをご覧ください。
ブロックチェーンは、必ずしもセキュリティおよび信頼の課題を解決する万能のソリューションではありませんが、データが一か所に集中する中央管理型から、同じ情報を共有し合う分散化へ変わるテクノロジーが重要になっていくことでしょう。
IDとデータ、そしてその両方の利用権限が、システムに依存しない形で自己主権型アイデンティティによるテクノロジーが提供されることにより、人々は自らコントロールできる方法を手にすることができるようになります。デジタルの世界で信頼を再構築していく自己主権型アイデンティティ技術によって可能となる新しい時代を約束するものです。

富士通ベルギー CDO(最高デジタル責任者)/CTO(最高技術責任者)、Fujitsu Global Fujitsu Track and Trust Center長
Frederik De Breuck(フレデリック・デ・ブルーク)
富士通ベルギーのCDO/CTOとして、従来型ビジネスをデジタル化することで成長と戦略的更新をより促進させる業務の総責任者の役割を果たしています。Fujitsu GlobalのFujitsu Track and Trust Centerの管理・運営も行っており、ブロックチェーン方式の分散型台帳ソリューションの開発と、スピーディーに企業に実装するためのイノベーティブな方法論確立にフォーカスしています。
- ※この記事はFujitsu Blogに掲載された「Can we maintain trust in data and security in a borderless world?」の抄訳です。