AIの社会実装を加速。生成AI等の先端AI技術試行環境の拡充による富士通の挑戦

「多くのお客様が業務へのAI導入が必要だと思っているのに導入できていない」―そんな課題を解決するために、富士通は2023年4月にFujitsu Kozuchi (code name)- Fujitsu AI Platformをリリースしました。この取り組みは富士通が自社で研究した技術をお客様にいかに早く届けられるかという挑戦でもあります。本記事では4月のリリース後に新しく追加された新機能も交えながら、お客様における活用ポイントと富士通の取り組みをご紹介します。

目次
  1. AI導入を成功させるポイントはPoC実施までのスピード
  2. お客様ニーズを迅速に反映、進化し続けるFujitsu Kozuchi
  3. リリースに向けた富士通の挑戦

AI導入を成功させるポイントは
PoC実施までのスピード

私たちの社会を取り巻く環境は目まぐるしく変化し複雑化しています。企業が生き残るためには、この適応していくための新しいビジネスモデル、組織体制、顧客対応力などを身に着ける必要があります。環境の変化の中には、顧客の購買志向・方法の変化、製造・流通工程での異物混入等、対応を間違うと企業の存続にもかかわるものもあります。しかし人力での対応では網羅性に限界があり、労働力不足のため対応が難しいという課題を抱えている場合も多く見受けられます。

そのような状況に救いの手を差し伸べるのがAI (人工知能)です。近年のAIの精度はディープラーニングによるアルゴリズムの改善、計算を高速に行うことができるクラウドプラットフォームの普及などにより、人類の集合知から学習し、前述のような課題の状況を適切に認識、分析、対処できるソリューションが利用できるようになってきています。対話型生成AIのChatGPTはその一例です。

しかし、実際に企業のお客様に話を聞いてみると、多くの企業はAIの導入に興味があるものの、具体的な検討、検証、導入にまで至っている企業は2割にも届きません。一方、導入のための具体的な検証(PoC)までこぎつけた企業は、その後約7割が本導入にまで至っています。

この状況を打開するために、富士通では最新のAI技術をお客様に迅速に検証していただき本導入に少しでも早くたどり着いていただくために、2023年4月に「Fujitsu Kozuchi (code name)- Fujitsu AI Platform」 (以下、Fujitsu Kozuchi)をリリースしました。Fujitsu Kozuchiを導入することで、検討、検証段階で環境準備にかかる工数や費用をできる限り無料に抑えて、PoCにたどり着くまでの障壁を抑えることが可能になります。

お客様ニーズを迅速に反映
進化し続けるFujitsu Kozuchi

富士通は、いままで30年以上に渡りAIの研究で培ってきた経験を活かし、業種毎、機能毎にお客様の課題に響くソリューションを提供しています。2019年からの4年間だけでも6,000件以上、日本やアメリカ、ヨーロッパ、アジアを含む世界中のお客様に提供してきました。2014年~2022年10月までの日本におけるAI関連発明においては特許数No. 1の970件を保有しています。Fujitsu Kozuchiもこれらに裏打ちされたAIコンポーネントを業種シナリオ単位、汎用機能単位にまとめて、それぞれ「AIイノベーションコンポーネント」「AIコアエンジン」としてリリースしています。

実は、Fujitsu Kozuchiの取り組みは着想からリリースまで約4か月という短期間で実現したプロジェクトでした。また、リリース後もお客様のニーズをアジャイルに汲み取るために四半期に一度、機能の更新をしていく予定となっています。具体的には4月中旬にリリースされてから7月末までに、以下のような機能が追加、更新されています。

AIイノベーションコンポーネント

  • レジ不正監視:セルフレジ導入店舗をお持ちのお客様を対象に、セルフレジ上部のカメラ映像をもとに不正行為を自動検知し通知することで、店舗の利益保護や監視人員の不足解消に貢献します。第一弾として、スキャン漏れ検知機能をリリースしました。 (7月リリース)
  • 不良要因分析:発生頻度が少ない不良品のデータから、製造過程においてどのような条件で不良品が発生するかを分析し、不良要因を改善することで品質向上を実現します。熟練者のノウハウに依存しがちな要因分析をAIが行うことで、要因特定と施策決定の工数を約半分にすることができます。Wide Learningの技術が使われています。(7月リリース)
  • 作業者分析製造現場において作業者の一連の動作を撮影した映像から、作業に対して各要素作業に要した時間を自動分割する、要素作業自動分割機能を拡張しました。ブロードリーフ社の作業分析ソフトウェアOTRSとの組み合わせで動作します。 (7月に更新)

AIコアエンジン

  • 対話型生成AI:セキュアな環境で安心・安全に、お客様自身の業務データも活用して対話型生成AIを検証できます。チャット履歴、アップロードしたドキュメントを活用した回答の作成等が可能であることが特徴です(図1参照)。(6月リリース)
  • TDA時系列異常検知:複雑に変化する時系列データから、異常やその予兆を早期に発見できます。富士通独自のTDA(トポロジカル・データ・アナリシス)技術を用いて解析することで、統計情報だけでは検知できない時系列の変化を検知します。(7月リリース)
  • AutoML他社と比べ高精度・高速で説明可能なスクリプトを生成でき、機械学習モデルの設計や構築プロセスを簡単に短時間で自動化できます。(デモサイト) (6月リリース)
  • 説明可能なAI:表データに対して、あらゆる可能性を網羅的に検証し、判断結果の説明や現場改善アクションを提示することが可能です。(デモサイト)(5月リリース)
図1:富士通の対話型生成AIの画面

リリースに向けた富士通の挑戦

富士通で研究開発を行った先端技術について、このような迅速なリリースを重ねる取り組みは、実は今回のFujitsu Kozuchiが初めてとなります。過去は研究所と富士通本体が別会社だったこともあり、研究所で開発した先端技術を富士通のビジネスとしてお客様に提供するまでに長い年月がかかることがよくありました。しかし、Fujitsu Kozuchiがリリースされ状況が変わってきています。

対話型生成AIエンジンの開発立ち上げを担当した、技術戦略本部の岡元 大輔と、レジ不正監視、作業者分析に共通する行動分析技術Actlyzerの開発を担当した富士通研究所の鈴木 源太に話を聞きました。

――今回のFujitsu Kozuchi更新リリースにあたって工夫したこと、苦労したことを教えてください。

岡元:お客様にFujitsu Kozuchiを提案させていただいたときに一番多くお問い合わせをいただいたのが生成AIの検証についてでした。これを受けて、2か月という超短期間で対話型生成AIエンジンをゼロから立ち上げました。既に始まっていた対話型生成AIの社内実践の取り組みも参考にしながら、多くのお客様に必要とされるセキュアな環境で自社データを活用できる仕組みを小さなチームで立ち上げるという難題に取り組みました。チームで日々遅くまで取り組み、正直とても大変でしたが、超短期間でリリースにこぎつけることができたのはとても良い経験でした。今後も機能充実を図っていきたいと思っています。

鈴木:富士通はリアル店舗や、街中における行動検知ソリューションであるFujitsu Cognitive Service GREENAGE、 AI体操採点システムなどで、ヒューマンセンシング技術を実用化していますが、実はその他にも商品化に至っていないヒューマンセンシングの先端技術を数多く持っています。今回のKozuchiの更新リリースでは、業種別に富士通が持っているノウハウをようやくお客様の元に届けられるようになりました。今までのプロセスとは異なるため社内調整やプロジェクトの進め方で初めての点も多く、戸惑いもありました。自分たちが開発した技術をいち早くお客様の元に届けられるようになることにチームメンバーもとても興奮しています。四半期に一度のリリースサイクルを続けていけるよう、研究に励んでいきたいと思っています。

技術戦略本部の岡元 大輔(右)と、富士通研究所の鈴木 源太(左)

このように、富士通の先端技術開発体制も市場やお客様のニーズに合わせて変革しています。まだまだ進化していく今後のFujitsu Kozuchiの動向にご注目ください。

プロフィール

富士通株式会社 技術戦略本部調査分析統括部
マネージャー 岡元 大輔

入社後、運輸業のお客様を担当するフィールドSEとして大規模SIやDX案件を経験。その後はAIを専門に分析案件・構築案件を多数経験した後、全社横断組織やFujitsu Kozuchiの立ち上げなど社内外のAIの普及発展に尽力している。

富士通株式会社 富士通研究所 人工知能研究所
Human Reasoningコアプロジェクト シニアプロジェクトディレクター
鈴木 源太

入社以来、コンピュータビジョンおよびその現場適用の研究開発に携わる。行動分析技術Actlyzerの研究開始時より開発チームをリードし、様々な実証、商品化、現場適用やコンペティション受賞等の実績を上げている。2021年度 人工知能学会現場イノベーション賞銀賞受賞。

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