帝人×富士通~SXの実現に必要なポイントとは

地球のためのパートナーシップ 帝人×富士通

昨今の企業経営にとって重要な課題となっているサステナビリティ。帝人株式会社(以下、帝人)と当社富士通は、リサイクル素材の環境価値化プラットフォームの実現を目指した共同プロジェクトを2022年7月より開始しました。サステナビリティトランスフォーメーション(以下、SX)には一般的に、自社の強み・競争優位性・ビジネスモデルなどの稼ぐ力の強化が必要と言われていますが、本プロジェクトではそれらをどのように捉え、進めようとしているのでしょうか。代表取締役副社長の古田英範が、帝人代表取締役社長執行役員 CEOの内川哲茂氏に伺いました。(「Fujitsu ActivateNow 2022」オープニングキーノートより)

目次
  1. 帝人が考える未来社会
  2. SXを実現する上で見えてきた課題
  3. SXで目指す「見える化」とは
  4. あらゆる産業が使いたくなるプラットフォーム
  5. 一度決めたら成功するまでやり遂げる、それがSX企業

帝人が考える未来社会

古田: SXの観点から、帝人が考える未来の社会とはどのようなものかを教えてください。また、その社会を目指すにあたって、帝人は現状の世界課題をどのように捉え、取り組まれていますか。

内川: 当社はケミカル企業としてはおそらく珍しいと思うのですが、企業は人間の幸せのために存在するという考えのもと、人の暮らしをよくするための「クオリティー・オブ・ライフ(生きていることの価値)の向上」をブランドステートメントに掲げています。その観点から解決すべき世界課題が2つあると考えます。1つ目は、人が住むための美しい地球環境の実現です。そして2つ目は、その美しい地球に住む人々が生涯、健康に暮らせることです。この2つが両立した世界を私たちが実現したい未来社会と考え、SXとして主に気候変動等に対する環境価値ソリューションや、少子高齢化・健康志向ソリューション等に取り組んでいます。

帝人株式会社 代表取締役社長執行役員 CEO
内川 哲茂氏
この章のポイント
  • 帝人は、人の暮らしを良くするための「クオリティー・オブ・ライフの向上」をミッションに掲げ、人が住むための美しい地球環境を実現し、人々が健康に暮らせることを目指している。

SXを実現する上で見えてきた課題

古田: その2つが両立する未来社会に向けてSXを実現していこうとされる中で、具体的に見えてきた課題はございましたか。

内川: 実はあまり知られていないかもしれませんが、当社はケミカルリサイクル※1では草分け的な存在で、約20年前から二度、中国で大規模なプラントを稼働させたりしましたがいずれも失敗に終わりました。これらの経験を経て感じたことは、サーキュラーエコノミーのエコシステム※2は、当社1社ではつくれないということでした。

  • ※1
    ケミカルリサイクル:廃棄物を化学合成により他の物質に変え、その物質を原料にして新たな製品を作るリサイクル方法
  • ※2
    サーキュラ―エコノミーのエコシステム:持続可能な状態で循環させる経済の仕組み。複数の企業や事業、製品、サービスなどが相互に依存しあい、分業や協業により共存共栄し、ビジネス環境を構成する。

もともと当社は動くものの軽量化を得意とし、リサイクル性に優れる熱可塑性のコンポジットを自動車や飛行機などの部材に組み入れ、エネルギー効率を上げることで環境に貢献してまいりました。しかし、その部材のリサイクル時に、本当にそれが正しいルートで再生され、CO2排出量をどのくらい削減しているのかトレースできていませんでした。リサイクルは手段ですからそれだけではだめで、いかに環境負荷を減らしているかということをエンドユーザである製品メーカー、あるいは消費者の皆さんに目に見える形でお届けできなければなりません。これまでお客様から「温室効果ガスの排出は本当に減ってるの?」「リサイクル原料の集め方によっては、その効果もきっと数字が変わってきますよね?」などのお声を頂いてもお答えできませんでした。それでは消費者の皆さんに訴求できませんし、賛同いただける方も集まりません。ものの氏素性をトレースし見える化することが、お客様にとって非常に価値になると考えます。廃棄物を集め、リサイクル再製品化し、その製品の価値を認めてくれる人に提供するという一連の流れが大切で、そのエコシステムをつくるには、我々1社ではできない。そこを大きな課題と捉えています。

この章のポイント
  • ケミカルリサイクルでは草分け的存在の帝人だが、サーキュラ―エコノミー(循環経済)の構築に20年前からトライするも、失敗が続いていた。1社だけでつくるには限界があると分かった。

SXで目指す「見える化」とは

古田: モノの氏素性をトレースし、お客様やステークホルダーの皆様に見えるかたちでお届けすることは非常に重要だと思いますが、例えばどのようなかたちで見える化すればよいとお考えですか。

内川: 食料品はパッケージを裏返すとカロリー等の情報が表示されていますよね。あれと同じで例えば衣料品の場合、タグにリサイクルの履歴や、CO2排出量をどのくらい削減したかを示すことが必要と考えます。実際に、そのようなニーズはBtoCである小売やアパレルメーカーに多く、環境にやさしい衣服を選ぶお客様は今後増えていくと感じています。

古田: 消費者にとって価値になりますね。企業にはどのようなメリットが考えられるでしょうか。

内川: 見える化することでお客さまへの信頼性を高められますから、企業がエコシステムをつくる際のサプライヤー選びで今後重要な指標になると考えます。いまのサプライヤー選定基準は、仮にコスト・性能・供給する地域の3点であるとすれば、近い将来そこに「SXへの取り組み」が第4の選定基準として追加されるんじゃないかと思いますし、そうする企業が市場でも高く評価されていくと思います。

古田: エコシステムを司るそれぞれの企業にとってプロフィタブル(利益獲得)が高ければ、サーキュラ―エコノミーのエコシステムとして成り立ちますね。

内川: はい。先ほどお話しした二度の失敗では、関わった企業も弊社もプロフィタブルできず価値の訴求が不十分でした。今回はリサイクル情報を見える化することが、価値の源泉になると思います。これがなければおそらく、サーキュラーエコノミーは成立しません。

この章のポイント
  • サーキュラ―エコノミーの実現には環境負荷削減効果の見える化が必須であり、それができなければ参加企業の利益も上がらず賛同されない。SXは、サプライヤー選定の基準となるだろう。
富士通株式会社 代表取締役副社長 COO、CDPO
古田 英範

あらゆる産業が使いたくなるプラットフォーム

古田: 今後、帝人がSXの未来を目指す中で、当社はどのように貢献できるとお考えでしょうか?

内川: 実は富士通とのお付き合いは、工場のデジタル化に取り組んだ2015年頃から始まり、定期的に新しいソリューションをご紹介いただいていました。その中で、先ほど申し上げたモノの氏素性のトレースができず課題に感じていた頃、御社のブロックチェーンを活用すれば見える化できることを知ったのです。この技術を活用すれば、我々が最も課題としていたサーキュラーエコノミーを実現するプラットフォームを2社でつくれると感じ、ご相談したのが本プロジェクトの始まりでした。御社は非常に複雑なリサイクルを行うこの一連のプロセスを、ブロックチェーンを使ってきちんと定量化して支えて下さるでしょうし、異なるブロックチェーン技術の組み合わせにも長けていると伺っています。リアルなリサイクルと、プラットフォームによるソリューションが実現すれば、さまざまな産業に活用していただけると期待しています。富士通にはSXのパートナーとしてぜひご支援いただきたいです。グローバルに展開できることが重要だと思いますので、世界に先駆けて、ともに取り組んでいければと思います。

古田: 身に余るお言葉をありがとうございます。ブロックチェーンのグローバル展開は仮想環境の発展で技術的にもハードルが低くなっています。あとはいかにその土地のエコシステムとして、ビジネスモデルを成立させていくかを目指していきたいですね。

この章のポイント
  • 帝人が長年課題としてきたサーキュラ―エコノミーのプラットフォームは、富士通のブロックチェーンで実現できることが分かった。これが実現すれば、様々な産業に活用していただけるだろう。

一度決めたら成功するまでやり遂げる、それがSX企業

古田: 最後に、SXを目指すビジネスリーダーの皆さんにメッセージをお願いします。

内川: COVID-19や国際紛争など、昨今では想定外の問題が毎年のように起こり、不安定な状況が続いています。しかしSXあるいは社会課題の解決というのは、その1つ1つに右往左往しているようではおそらく実現できません。SXの取り組みは、一度決めたら結果が出るまで、あるいは成功するまで初志貫徹しやり遂げる。それが非常に大事だと思います。
また、SXでは、実現すべき未来社会が様々なかたちで示されますが、私はそれらを実現することそのものよりも、それに共感した一人一人が変わっていくことが重要で、私自身も変えるべきところは変え、変革の先頭に立っていきたいと思っています。ぜひ皆さんもそんなふうに一人一人の変革を実現することを考え、進められたらと思います。

この章のポイント
  • SXの取り組みは、一度決めたら成功するまでブレずにやり遂げることが大切。
  • それには一人一人の変革が重要で、それがSX企業に求められる姿勢だ。

古田: ありがとうございます。貴重なお話を伺いました。
今回の対談を通して、業種の垣根を越えた多くの企業プレーヤーが共感し合いSXを実現するには、共通のビジョンを持つことが非常に重要になるのではないかとも改めて感じました。
当社富士通は、お客さまと共にサステナブルの世界を目指すためのビジネスブランド「Fujitsu Uvance」を始動しています。Fujitsu Uvanceを通じ、サステナブルな未来の実現を目指し、社会課題の解決に向けてクロスインダストリーで(業種を越えて)この取り組みを加速させていきます。

帝人株式会社
代表取締役社長執行役員 CEO
内川 哲茂(うちかわ あきもと)

1990年帝人株式会社に入社、繊維研究所、繊維技術開発部門などを経て、2003年にオランダのテイジン・トワロンB.V.に出向。2014年より高機能繊維事業本部生産・研究開発部門長。2021年に取締役常務執行役員マテリアル事業統轄。2022年4月より現職。

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