富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスとしています。
その実現に向けて、富士通が研究・開発に注力する最先端テクノロジーについて、2022年6月1日に開催された「Fujitsu ActivateNow Technology Summit Japan 2022」のセッション内容をもとに、詳しくご紹介します。
- 目次
サステナブルな世界の実現に向けた重点注力分野とキーテクノロジー
持続可能な世界を実現するために、私たちは最先端のテクノロジーをどのように活用していけば良いのでしょうか。富士通Senior Executive Vice President, CTOのVivek Mahajanは、「テクノロジーがより良い未来を創る」と題した講演の中で、富士通のテクノロジービジョンを示し、サステナブルな世界に向けた取り組みを紹介しました。
富士通は、サステナブルな世界の実現を目指す新事業ブランドとして「Fujitsu Uvance」を2021年に立ち上げ、以下の7つの重点注力分野を掲げています。
「Fujitsu Uvance」重点注力分野
- 1. Sustainable Manufacturing(環境と人に配慮した循環型でトレーサブルなものづくり)
- 2. Consumer Experience(生活者に多様な体験を届ける決済・小売・流通)
- 3. Healthy Living(あらゆる人々のウェルビーイングな暮らしをサポート)
- 4. Trusted Society(安心・安全でレジリエンスな社会づくり)
- 5. Digital Shifts(データドリブン 働き方改革)
- 6. Business Applications(クラウドインテグレーション アプリケーション)
- 7. Hybrid IT(クラウド セキュリティ)
この7つの分野でサステナブルな社会を実現するためには、「Computing」、「Network」、「AI」、「Data & Security」、「Converging Technologies」といった5つのキーテクノロジーが不可欠であると考えています。
富士通の高度なコンピューティング技術を手軽に活用できるCaaS
ComputingとAIは、研究機関や学術機関だけで利用するのではなく、民間企業を含め誰もが利用できる環境が求められます。富士通では「Fujitsu Computing as a Service」(以下、「CaaS」)として体系化し提供。スーパーコンピュータ「富岳」に採用された世界最高峰のコンピューティング技術を、多くの企業や組織がクラウドで活用できるようにしました。
テクノロジーと人・社会を融合する「Converging Technologies」
一方で、持続可能な世界の実現に向け、解決すべき社会課題は複雑化・多様化しています。先端的なテクノロジーを単独で活用するだけでは解決が難しくなっていることも事実です。富士通では、最先端テクノロジーと人や社会が融合していくことが持続可能な世界の実現につながると考えています。そのための技術が「Converging Technologies」です。
Converging Technologiesにより、危険運転などの検知・通知による事故低減、犯罪の検知・予知、交通量の予測でCO2削減と交通利便性の両立など、「人」や「社会」を理解し予測することが可能になります。
続いて、5つのキーテクノロジーの中から量子コンピューティングとAIについて、富士通の最先端の取り組みを紹介します。
世界最速の36量子ビットを実現した富士通の量子コンピューティング技術
富士通 富士通研究所 量子研究所長 佐藤 信太郎は、「富士通における量子コンピューティングへの取り組み」と題した講演の中で、実用化に向けた具体的な取り組みを紹介しました。
特筆すべき成果として挙げられるのが、世界最速となる36量子ビットの量子シミュレータ開発に成功した事例です。他機関の量子シミュレータと比較し約2倍の性能を実現し、これを活用した量子アプリケーションについても先行開発を進めています。また、2022年9月には39量子ビットのシミュレータも新たにリリースを予定しているほか、2026年以降には1000量子ビットの超電導量子コンピュータの公開を目指しています。
急速に技術開発が進む量子コンピュータですが、その一方で現実の社会課題や実問題の解決にはまだまだ適用されにくいのが実情です。しかし、富士通が提供している量子現象に着想を得たコンピューティング技術「デジタルアニーラ」は、金融や物流など多岐にわたる分野で活用できるという強みがあり、すでに2018年から顧客提供を開始し、国内・海外合わせて186件の提供実績があります。
従来のコンピューティング技術では難しかった課題をデジタルアニーラが解決した事例
金融分野でのデジタルアニーラの活用事例では、資産運用のポートフォリオに合わせたリスクとリターンの分析があります。数百銘柄におよぶ組合せは膨大で、従来のコンピューティング技術では事実上、計算が不可能とされてきましたが、デジタルアニーラではわずか10分程度で計算を終えられます。
また、物流分野では、自動車部品調達の物流ネットワーク最適化で、300万以上におよぶルートの中から最適なルートを高速に探索。輸送ダイヤが適正化され、総物流コストの削減に成功しています。
ユニークな事例としては、海外のサッカー競技場における観客席割当が挙げられます。コロナ禍でソーシャルディスタンスが求められる中、グループごとに席を効率的に割り当てる目的でデジタルアニーラを活用。その結果、観客席割当数が60%増加し、チケット収益の大幅増加に貢献しています。
デジタルアニーラはIT創薬への応用も期待されています。
第四世代デジタルアニーラがリリース
デジタルアニーラはこれまで毎年のように新バージョンを展開してきましたが、2022年5月には第四世代にあたるバージョンがリリースされました。第三世代比で最大約10倍もの高速化を実現しています。富士通は今後も技術開発を進め、デジタルアニーラのさらなる高性能化を目指します。
テクノロジーとの融合によってさらなる真価を発揮するAI
富士通 フェロー 富士通研究所 研究本部長の岡本 青史は、講演「AIのこれからと富士通の取り組み」の中で、AIがComputingやNetworkなどのテクノロジーと融合することでその真価を発揮することを説明しました。
AIの世界に生まれた新たな3つの潮流
急速に社会に広がり、民主化が進んでいるAI。富士通は国内・海外合わせて約5,400件の提供実績があります。
その一方で以下のような課題も存在します。
- 本当に使えるAIモデルの開発:良い精度を出すには専門家の試行錯誤がまだまだ必要
- AIを使い続けるための運用:最初に作ったAIモデルが使っているうちに精度低下し使えなくなることがある
- AIによる新たな倫理課題:AIによる差別やAI法規制など、新たな課題対策の必要性
これらに対応するため、AIの世界では新たな潮流が生まれています。
「本当に使えるAIモデルの開発」では、機械学習自動化技術(AutoML)が急速に発展しています。富士通ではAutoMLを活用してAIにデータを学習させる工数の削減や精度向上を実現しています。
「AIを使い続けるための運用」では、AIモデルの陳腐化を防ぐために自動でAIの精度監視を行いモデル修復が可能な「HDL(High Durability Learning)」の技術が注目されています。富士通では、行政機関や飲食業、メーカーなど多くの領域で導入事例もあります。また、すでに運用しているシステムへアドオンできることも大きな強みです。
「AIによる新たな倫理課題」については、AIに関するさまざまな規則の策定が求められています。富士通では、「AI倫理外部委員会」の設置や「AIコミットメント」の策定に取り組んでいるほか、AI倫理の研究・普及活動にも積極的に参画しています。そのうえで、差別のない公平なAIによって銀行ローン審査の最適化に貢献した実績もあります。
世界最高峰のコンピューティング技術でサステナブルな社会の実現に貢献
富士通の高度なコンピューティング技術を融合させることにより、AIはさらなる価値創出に役立つと期待されています。例えば、数万におよぶ津波シナリオから浸水シミュレーションをコンピュータで実行し、機械学習でモデル化することで、地図上3メートル単位での高精細な予測を実現した事例があります。特に甚大な被害が想定される臨海部において、建物や道路などの影響を考慮した詳細な浸水予測情報を把握し、安全な避難行動を支援します。
また、データセキュリティ技術とAIを融合させることで、データの真正性を管理するとともに、変更履歴やデータの出所追跡も可能となりました。これにより、企業や組織内はもちろんのこと、企業間のデータ利活用も促進されます。データセキュリティ技術とAIの融合は、自治体や民間企業が連携しながら進められています。
富士通はAIと他領域のテクノロジーを組み合わせながら、上記以外にも創薬や新材料の開発、生産性向上など、さまざまな分野におけるデータ分析に役立てていくとともに、AIによる新たなイノベーションの拡大と信頼できるAIの追求にも継続的に取り組みます。
そして、コンピューティング技術をAIと融合させ、「CaaS」も含めたさまざまなサービスを今後も継続的に提供していくことで、お客様とともにDXの推進・実現を目指し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
<登壇者>
富士通株式会社
Senior Executive Vice President, CTO
Vivek Mahajan
富士通株式会社 フェロー
富士通研究所 研究本部長
岡本青史
富士通株式会社
富士通研究所 量子研究所長
佐藤 信太郎