ニューノーマル時代、仲間と共にリアルイベントを楽しめる「座席割当最適化」技術で見えたスポーツ観戦の未来

新型コロナウイルス感染症の拡大は、あらゆるイベントに大きな影響を与えました。
当初は開催延期や無観客開催が多かったところ、最近では会場の収容人数に上限を設けたり、ソーシャルディスタンスを確保しての開催などが行われています。条件は国や地域、感染状況によって異なり、イベント主催者は臨機応変な判断が求められています。
ファンは会場で臨場感を味わいたいし、以前のように家族や仲間と一緒に集まって楽しみたい。主催者としては多くのファンに参加してもらいたいし、少しでも多くのお客様に来てもらった方が盛り上がって収益も上がる。しかし、感染症対策が必要で、決められた条件を守らねばなりません。

そうした中、Fujitsu Technology Solutions GmbH(富士通テクノロジー・ソリューションズ)の開発チームが立ち上がりました。利用したのは、組合せ最適化問題を高速で解くことに特化したコンピュータ「デジタルアニーラ」。スタジアムでのスポーツ観戦において、決められた条件を守りながら、観戦するグループの人数に合わせて最適な座席配置を決めることで、座席割り当て数を単純な方式に比べて最大60%増加させました。

なぜそのシステムを開発するに至ったのか、「デジタルアニーラ」は社会にどう役立つのか、ドイツの開発チームと日本の事業部に話を聞きました。

目次
  1. 「技術で社会に貢献したい」思いから生まれた、座席割り当てを最適化するというアイデア
  2. 仲間と共に楽しむことと感染症対策の両立に突破口が見えた、ドイツでの実証実験
  3. デジタルアニーラを使用した組合せ最適化技術で社会に貢献できること

「技術で社会に貢献したい」思いから生まれた、座席割り当てを最適化するというアイデア

――座席割当最適化システムはドイツで開発されました。いつ、どういう経緯で手がけることになったのでしょうか?

Central & Eastern Europe Marketing
Emerging Technology Marketing Consultant
Anne-Marie Tumescheit

Anne-Marieさん: 最初のアイデアが生まれたのは2020年6月でした。「新型コロナウイルスに対する富士通の社会貢献」というテーマで会議を行ったときです。はじまりはオフィスで従業員の安全を確保するための座席配置を最適化するシステムでした。
その頃、様々なイベントでソーシャルディスタンスを確保した座席配置など感染症対策を求められていました。来場する個人やグループが使用する座席の前後左右にどれだけ空席を作るかが定められたのです。家族や仲間は一緒に並んで座れますが、他の客人とはソーシャルディスタンスを保たねばなりません。
それを単純な配置で行うと、座席の利用率が50%以下になってしまいます。でも主催者はできるだけ多くのお客さんに入ってもらいたいと考えています。
その話を聞いたとき、我々のデジタルアニーラを使った座席割当最適化は、スタジアムのような大きな会場にも応用できると思いました。そこで、1カ月後の7月初旬、ドイツ・ブンデスリーガのサッカークラブと
連絡を取りました。

――そのような経緯があり、早いスピードで検証がスタートしたのですね。
開発にあたって留意した点と苦労した点はどこでしょう?

Digital Incubation.
Technical Team Lead Digital Annealer,
Fujitsu Fellow and Distinguished Engineer
Fritz Schinkel

Fritzさん: 観戦者は、チケットを予約するとき枚数を入力すると自動的に座席が決められるのではなく、自分で座席選択をしたいと考えています。その上で最適化を行うための工夫が必要でした。
重要なのは家族が必ず一緒に座れるようにすることでした。ドイツの感染対策ルールでは家族は一緒に座ってもよいことになっていましたし、みな家族と一緒に観戦したいと考えているはずです。
家族といってもその人数は様々です。前年度の座席利用のデータを見ると、スタジアムを訪れる観客はひとりのこともあれば、2人や3人のこともあります。データからひとりから4人の間で選べることが望ましいことがわかりました。そこで、家族の人数によって適切に配置するシステムが必要でした。

Digital Incubation.
Head of Digital Incubation
Andreas Rohnfelder

Andreasさん: さらに、座席割当最適化システムがあっても、実際にその割り当てが守られているかどうかを警備員が巡回する必要があります。それは最適化システムの仕事ではありませんが、我々は警備員の負担を減らすために、AIを使った画像認識を利用することで、観客が正しい座席に座っているかどうかをチェックするシステムも開発しました。決められた座席パターンに違反していると警告される仕組みになっています。

仲間と共に楽しむことと感染症対策の両立に突破口が見えた、ドイツでの実証実験

――実証実験の結果はいかがでしたか?

Anne-Marieさん: 従来の単純なチェックボードパターンでは、2席ごとに座席を配置し、その前後一列と左右3席ずつと空けることになっていました。それですとひとりで来た方は隣を余計に空けなければなりませんし、3人家族だと席が2人とひとりに分かれてしまいます。結果、座席の利用率は38〜45%にとどまっていました。
サッカーで使われるベルリンオリンピックスタジアムやF1グランプリが開催されるニュルブルクリンクで行った実証実験では、我々の座席割当最適化システムを使うことで、利用率を47〜60%と大きく改善させ、制約事項を遵守しながらも収益を向上させることができました。ベルリンオリンピックスタジアムで行われたブンデスリーガの試合では、58.6%の増加率を確認しています。
このように安全で快適な観戦環境を提供することで、多くのファンが訪れることができますし、リピーターも期待できます。

――この仕組みは、今回の実証実験以外でも使われたのでしょうか?

Digital Incubation.
Technical Consultant for Digital Annealer
Abhishek Awasthi

Abhishekさん: はい。残念ながら公表はできないのですが、他のスタジアムやイベント施設での利用も検討しています。
このコンセプトはコンサートや演劇など座席指定が必要なイベントなら幅広く使えますし、ソーシャルディスタンスを最大限に確保して来場者数を制限することもできます。
逆に、コロナ禍が収束してソーシャルディスタンスが不要になったときも、グループ予約の座席使用率を最大にすることなどにも役立ちます

デジタルアニーラを使用した組合せ最適化技術で社会に貢献できること

――今回は座席割当最適化システムについてお聞かせいただきましたが、あらためてデジタルアニーラの技術について教えてください。

ソフトウェアテクノロジー事業本部
デジタルアニーラ事業部
中村 和浩 事業部長

中村さん: パソコンやサーバーなどは汎用コンピュータと言われていて、様々な用途に使えるのですが、そろそろ性能の進化が限界に達しつつあります。そこで特定の用途に特化した、ドメイン指向コンピュータが注目されています。デジタルアニーラはアニーリングという手法で組合せ最適化問題を高速で解くことに特化した設計のコンピュータなのです。汎用コンピュータでは時間がかかりすぎて実用的ではない問題を解くために開発しました。

――どのような分野で活用されているのでしょうか?

中村さん: 現在は創薬金融物流新素材の4つの業界が大きなところかなと思います。

ソフトウェアテクノロジー事業本部
デジタルアニーラ事業部
宮島 豊生 部長

宮島さん: 創薬ではペプチドリーム社と協業し、中分子の医薬品に取り組んでいます。分子サイズが大きくなってくると、数兆種類の化合物ライブラリーから医薬候補化合物を絞り込む過程において、従来のコンピュータでは安定構造を探索することが困難でした。そこで、デジタルアニーラで粗く絞込み、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)で高精細に計算することで安定構造を高速かつ高精度に探索する技術を開発しました。

下川さん: 金融メルコインベストメンツ社と取り組んでいます。株式ポートフォリオでは採用する銘柄を組み替えながら組合せ最適化問題を解くことになりますので、従来型のコンピュータよりもメリットが出ます。

宮島さん: 今一番力を入れているのは物流の最適化ですね。トヨタシステムズ社と協同で実証を行いました。100を超える仕入れ先から部品を仕入れ、何ヶ所もの中継倉庫を通り、数十の工場へそれを配送するためのルートは300万通り以上あるのです。それをデジタルアニーラを使うことで最適なルートを決められます。
結果として運送コストが下がりますし、運送にともなって発生するCO2の削減にもなりますから環境面での課題解決にもつながります。

――環境問題の解決にもなるというのは非常に重要ですね。

ソフトウェアテクノロジー事業本部
デジタルアニーラ事業部
下川 聡 マネージャー

下川さん: そういう意味で、社会課題解決とビジネス効率化の両面で最もニーズが高いのは物流配送問題かなと思います。長い目で見ると、トラックドライバーが減るという労働人口問題や、CO2削減による環境問題が解決できますから。お客さんと話をしていても、ESG(環境・社会・ガバナンスの頭文字)の観点から、特に環境問題と労働力問題の話になることが増えており、意識がそちらに向いているのを感じます。
単なる効率化ではなく、その先を見据える提案をしたいと考えています。

中村さん: ひとつのキーワードとして「全体最適化」があると思います。今までは個別最適化で行っていたものをデジタルアニーラの技術が進んで、もっと大きな問題が解けるようになると全体の最適化ができるようになります。
物流ですと、将来自動運転が進んでどの車がどこにいるかがわかるようになれば、都市全体として渋滞がなく目的地に最短で着けるようになります。今のカーナビを見て一人ひとりが最短ルートを取るのが個別最適化だとすれば、自動運転で全体を最適化するということですね。
環境問題という面ではプラスチックや鉄に代わる新素材を膨大な材料の中から見つけ出すことにも使えそうです。
デジタルアニーラの技術は様々な社会課題を解決する可能性があると思います。

「デジラルアニーラ」のサービス開始からおよそ3年。今回の取材を通じて着実に進化していると感じました。
テクノロジーを活用し短期間で最適解に近づけていく。
今まで無理だと思われていた課題も、近い将来必ず解決できると実感しました。
これからも富士通の挑戦は続きます。ご期待ください。

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