2022年1月14日更新

社員の健康と企業の社会価値を両方高める
データドリブンな富士通の健康経営とは  

富士通Japan株式会社

[注] 本記事は、2021年9月28日~2021年10月29日に「日経ビジネス電子版」にて掲載したものです。


コロナ禍が長期化する中、経営戦略として社員の健康管理を通じ、組織の活性化や業績向上につながる「健康経営🄬」の価値が再認識されている。ESG経営にも直結する健康経営は、企業として「やったほうがいいこと」から「やるべきこと」に変化してきている。そんな中、「健康経営銘柄2021」にも選定された富士通は自社で実践してきた経験、ノウハウをベースに、データドリブンな健康経営を支援するソリューションとサービスを提供している。DXカンパニーとして顧客に寄り添ったサービスを提供する、富士通の取り組みをキーパーソン3人に聞いた。

[注]「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


優秀な人材獲得に時価総額上昇も…
企業価値を高める健康経営

――新型コロナウイルス感染症という未曾有の事態を経験することで、健康経営に対する企業の意識も変化したと思われますが、どのように変化しているのか教えてください。

植田 健康経営は、NPO法人「健康経営研究会」で定義が定められ、さらに経済産業省が顕彰制度を実施する形で、国内全体として推進が後押しされています。

コロナ前は、そうした経産省からの顕彰を受けることや、社内外に対して取り組みを発信することで、企業の社会的評価が高まるとともに、従業員の健康増進に連動した業績向上を期待するといった面が大きかったと思います。

コロナ後は、新たな生活様式に対応していく中で、特に働き方に関するところに重点が置かれるようになったと捉えています。これまでは、オフィスといった特定の場所で勤務する形態でしたが、現在はリモートワークに代表されるように従来と異なる場所で仕事をする形に変化しています。こうした変化の中で企業は、従業員の健康について、働き方とその環境も含めて支えていくということが、健康経営でより重要になってきたと感じています。

――改めて健康経営のメリットを教えてください。

中野 健康経営は、企業の重要な資本である人材が健康的に生き生きと活躍できる環境を整備する、いわゆる福利厚生施策として機能します。企業の業績アップや優秀な人材の獲得に影響し、また「その会社がどこまで従業員の社会的・身体的・精神的な健康に手厚く配慮しているのか」という点は、財務的な体力や就労環境整備の成熟状況といった事業継続性の視点から企業評価に直結し、投資家の投資判断材料にもなります。一言でいうと、企業のプレゼンス向上に直結している、ということです。

植田 一般的にはやはり、従業員の健康が維持・増進されることで、企業の業績向上につながるというのが大きな部分です。昨今、注目が集まるESG(環境・社会・管理体制)経営の視点からいえば、健康経営は「S」と「G」に密接にかかわっており、健康経営の実践がESG経営実践の一躍を担うと考えられるようにもなっています。この点においても、外部からの投資を誘い、その企業の存在感アップに大きくつながるだろうと捉えています。

組織全体で健康経営を自分事として
意識を変革させる

――健康経営の意義や関心は一層、高まっているのですね。経済産業省が指針を示すなどしていますが、企業はいざどのように健康経営に取り組めばよいですか。

富士通Japan株式会社
ヘルスケアソリューション開発本部
Well-Beingソリューション事業部

植田 竜介氏

植田 健康経営に取り組む上では、3つのポイントが存在すると考えています。

1つ目が「業種・業態」です。業種・業態によっては勤務場所や働き方を変えられない、変えることが難しいといった例もあります。そうした環境で、いかに従業員の健康につながる活動をしていくのか、といった点には難しさがあります。

2つ目が「体制」です。健康経営を実践していく上では、組織内で取り組みをリードする人たちが重要です。ただ、企業によっては健康管理の担当部門の方が健康経営を兼務されることもあり、なかなか十分な体制を整えられずにいます。

そして、3つ目が健康経営に関する「ノウハウ」です。経済産業省が健康経営ガイドブックや、健康投資管理会計ガイドラインといった、健康経営実践に向けた情報を発信されていますが、その内容を自社に合わせて咀嚼して計画を立案し、そのもとで施策を実行していくのは、なかなか難しいのが実態と思います。

――では、富士通ではどのように健康経営に取り組まれてきたのですか。

植田 富士通では「健康経営」というキーワードが普及する以前から、健康管理を推進する部門が中心となり、社員の健康を支え、サポートしてきていました。また、ヘルスケア領域のソリューションも開発し、提供させていただいていますが、「従業員の健康・維持増進」と「ヘルスケア領域の事業活動」を結びつけ、健康課題の解決と企業経営を結びつける取り組みを行ってきました。この取り組みと昨今の健康経営の普及に連動し、グループ全体で健康経営を推進していくことの宣言として、2017年8月に「健康経営宣言」が発表されました。現在、富士通は、パーパス経営として全社のパーパスと従業員一人ひとりのパーパスを結びつけるとともに、そのパーパス実現に向けた社員の活躍を支える観点からも、健康経営に取り組んでいます。

中野 健康経営に取り組む上でのポイントでもご説明しましたが、組織が一体的に健康経営を進めていくための体制づくりも進められてきました。経営トップが健康経営推進最高責任者(CHO)を兼ね、人事部門にあたるEmployee Success本部、健康推進本部、さらに健康保険組合の3組織が強力に連携して健康経営事務局となり、グループ会社や事業所への施策の展開、強化・拡充を担っています。経営トップのコミットメントと、役割の違う組織の連携という「トップダウン」と「ボトムアップ」を密接に連動させていることが特長といえるでしょう(図1)。



図1 富士通の健康経営推進体制
経営トップが健康経営推進最高責任者(CHO)を務め、社内連携組織の事務局がグループ全体で施策を展開する

――具体的に健康経営をどう実践されていったのでしょうか。

植田 大きな流れとしては、まずは健康経営とは何かということを従業員一人ひとりが知る、そして理解するところから始まりました。自分事として、従業員が捉えなければ、この活動の効果を得ることはできません。次に、従業員の行動変容につなげることが取り組まれています。健康行動に移るような、きっかけとなる機会や環境、仕組みを整えることで、より自分事となった状態でアクションにつなげられるようになりました。今後になりますが、次のステップは蓄積された従業員の健診結果や、ストレスなどのフィジカル、メンタル情報、労務データ、健康経営の実践から生まれるノウハウ、それらを活用し実行するスキルを持った人材をさらなる改善に活用していくこととなります。さらには、これまでの富士通としての健康経営の活動を社外に対し発信するとともに、ソリューションやサービスなどを通じて社会にも還元していく、このような方向性で、進んでいる状況です。

富士通Japan株式会社
ヘルスケアソリューション開発本部
Well-Beingソリューション事業部
シニアマネージャー

中野 直樹氏

中野 健康にまつわる経営と管理の連動について補足しますと、例えば、従業員が大病をり患し、入院して会社を欠勤するとなった場合、財務的にはアブセンティズム(病欠)コストが発生します。また、頭痛だと会社を休む人はあまりいませんが、頭痛を持ちながら働いていると生産性が下がりますよね。この場合、問題を抱えつつ業務を行っていることによる生産性低下の影響、つまりプレゼンティズム(疾病就業)コストを考えなければなりません。健康経営上の指標を基に、経営へのインパクトを考慮し、施策を策定・実行し、同時に個々の従業員が受ける恩恵もきちんと連動させて動かすという仕組みが背景にあります。

――従業員に対してはどのような取り組みをされたのでしょう。

植田 コロナ前ですと、生活習慣病やがん、メンタルヘルス、喫煙などを対象とする施策が実施されてきました。コロナ後は、喫緊の課題として、従業員が働きやすい環境づくり、コロナ前から実施していた「働き方改革」を加速させることとなりました。事業所以外の自宅やサテライトオフィスなどからの勤務など、従業員が安全・安心で効率的に働くことのできる環境や制度が整備されました。

リモートワークが定着する中、自宅にいる従業員の健康状態を正しく把握するため、メンタルヘルスをはじめ、身近なテーマとして頭痛に関するeラーニングの追加や、運動不足への対策支援として、社内向けウオーキングイベントや、自宅から参加できるオンラインフィットネスといったフィジカル面での健康維持につながる取り組みも行われています。

また、り患率が高く、重要視されている「がん」に対し、正しい知識を持ってもらうための「がん講座」に加え、新たに「がんと仕事の両立」といったテーマにも展開されています。

中野 この従業員への働きかけでは、健康リテラシーやアドヒアランス(自身の健康維持増進への主体的で積極的な関与)の向上が目的であることは言うまでもありませんが、植田も申しました「自分事」といった点も配慮されています。健康維持・増進にはどんな利益があるのか、もしくは健康を害した場合にどういった損失があるのか、一人ひとりが理解し、具体的にイメージすることをサポートする取り組みです。行動経済学のアプローチといってもいいと思いますが、他者から押し付けられて動くより、自ら気づいて能動的に行動を変えられるようにすることが大切です。

そのため、教育の場を整え、継続的に発信し続けるなど地道な活動が求められます。この発信では、先程の理解促進のため、産業医や保健師が分かりやすく解説していくといった取り組みが推進されています。こうした丁寧な活動により、健康維持・増進に向けた個々の従業員のエンゲージメントが向上していくのだと考えます。

――実際、経済産業省や東京証券取引所が共催する「健康経営銘柄2021」に選定されるなど、外部評価の成果にもつながっています。

中野 そうですね。「健康経営銘柄2021」に初めて選ばれたほか、「健康経営優良法人~ホワイト500~」には5年連続の選定となりました。経営層のコミットメントと、健康経営事務局を中心とした関係部門の密接な連携が、社会的評価につながったのだと思います。この波及効果として、健康に関連した商談などビジネスシーンでも、健康経営銘柄への選定についてお客様から話題に挙げていただくなど、事業面でも良い影響が出ていると感じます。

健康管理から経営課題の解決までを
トータルにサポート

――社内実践をベースとした富士通のソリューションとサービスについて教えてください。

富士通Japan株式会社
ヘルスケアソリューション開発本部
Well-Beingソリューション事業部
マネージャー

中村 ゆり氏

中村 富士通では1964年から健診データの入力を開始し、1970年代から、自社で開発した健康管理システムを健康管理部門で使用してきています。長年現場で利用する中で、産業医や専門スタッフのノウハウを採用することで、より使いやすいものへと昇華してきています。自社を含め大企業向けに製品提供を行ってきた実績や、医療健康情報のクラウド製品提供で培ったノウハウを基に、2020年に健康経営を支える産業保健スタッフの業務を効率化するクラウド型健康管理支援システム「LifeMark HealthAssist」を提供開始しました。2001年から提供を始めたストレスチェックシステム「組織ストレスアセスメント e診断@心の健康」と併せ、従業員の心身の健康管理を支えるソリューションとして、様々なお客様にご利用いただいております。

植田 社内実践とノウハウをソリューションとして、お客様に提供してきましたが、ソリューションに加え、健康経営の実践で蓄積したノウハウと具体的なアプローチを基に、お客様の「健康経営を支援するサービス」についても昨年度から提供をスタートしております。

我々は、企業における「健康管理」と「企業経営」という2つの歯車を正しくかみ合わせることを健康経営と定義しています。この2つの歯車がしっかりと連動し続けている状態を「健康経営が実践されている状態」と捉えています(図2)。健康経営を支援するサービスでは、この2つの歯車全体を統合的に支援します。

お客様ごとに、健康経営における「課題」や「状態」などの状況は異なります。例えば、「健康管理」を課題と捉えアプローチされようとしているお客様であれば、健康管理に関する現状分析から入らせていただき、その現状に応じたアプローチを実施させていただきます。健康管理における課題や目指す姿の実現が進んでいくと、より経営視点のご支援として、健康状態の変化への組織対応や投資効果に関する分析などのご支援へ移る形になります。



図2 富士通が提供する健康経営ソリューション・サービスにおける健康経営の考え方
「健康管理」と「企業経営」の2つの歯車がかみ合って連動が続く状態を「健康経営が実践されている状態」と定義する

中村 また、健康経営を支援するサービスでは、健康管理や働き方改革を支援する各種ソリューションも合わせ、提供させていただく場合もあります。お客様によっては、健康経営の推進にあたり、コンサルティング会社や複数のシステムベンダーに声をかけられるケースもあります。しかし、バックグラウンドが異なる会社のソリューションを集めて、自社に最適化することには困難が伴います。富士通は、基本的にはお客様と当社の2社で完結することが可能となりますので、お客様の負荷を低減できます。

以前から、ソリューションを単体で提供する企業はありますが、当社には社内実践で得た健康経営のノウハウと豊富なソリューションがあります。このソリューション群から企業の課題や実態に合わせた最適なメニューを組み合わせることで、DXカンパニーとして伴走型の支援を展開していくことが可能です(図3)。



図3 健康管理支援システム「LifeMark HealthAssist」の概要
企業における健康管理の課題に合わせ最適なメニューを組み合わせて伴走型の支援を展開する

――様々な課題に対し、豊富なソリューションが用意されているのですね。具体例を挙げてもらえますか。

中村 健康管理の部分でいえば、累計で約950社217万IDを発行した実績がある「組織ストレスアセスメント e診断@心の健康」というストレスチェックサービスがあります。労働安全衛生法に沿ったストレス対策の運用を支援するソリューションです。グラフやイラストなどを使った「見える化」によって、結果や傾向を直感的に把握できる状態でストレスレベルに応じたアドバイスを含めて、個人にフィードバックします。また、個人だけでなく、それらのデータを組織分析につなげられるところも大きな強みです。

4軸のチャート上に、部門組織ごとの傾向やポジションを全社平均と比較できる形となっています。まさにダッシュボードです。ストレスチェックの実施管理者が複数の部門を俯瞰して比較することで各部門の強みや課題も把握できますし、また、各部門の管理者が自分の部門のポジショニングを把握できるので、自浄作用を働かせやすくなります。

植田 個人の“点”から、部署、部門、現場の“面”に視野を広げて課題を明らかにする。どこに課題があるのか把握し、経営の改善につなげる。「健康管理」だけではなく、「企業経営」の改善にもつなげられるようになります。先ほどの図でいうと、両輪が回ってくる状態になるわけです。データドリブンで職場環境の改善活動まで落とし込むということです。

日本の社会課題解決にもつながる、という意識を持って

――健康経営のカギはこのようなデータドリブンにあるわけですね。

中村 その通りです。データドリブンは、当社が健康経営のソリューションを提供する際のキーワードとなっています。2017年からは東京大学川上研究室と健康経営の評価を予測する共同研究を進めています。血圧・血糖値などの身体的指標や運動頻度・睡眠時間などの生活習慣指標などのリスク要因と、生産性低下や欠勤などによる損失といった金額換算可能なアウトカム指標を関連づけて評価するものです。共同研究で開発した予測アルゴリズムを自社データで検証し、社内実践を通して、データを蓄積・活用し健康経営の実効性をさらに高めるソリューションとして、2021年10月にご提供する予定です(図4)。

今後も産学共同研究によって知見を得て、富士通社内での実践を通じたリファレンスモデルをつくり、ソリューションとしてご提供していくことでお客様の健康経営の取り組みをICTで支援していきます。



図4 2021年10月から提供予定の「健康経営」のソリューション
アウトカム指標の目標や達成状況が確認できるダッシュボードを備え、各分析機能にアクセスしやすくなっている

――ウィズコロナ時代の健康経営の推進に向け、重要なことは何ですか。

中野 当社の取り組みを踏まえますと、トップが強いメッセージを継続的に発することがとても重要だったと思います。推進関連部門のみならず、社内の各部門、そしてその部門に属する従業員が、自分たちがなぜ健康経営の活動をしているのか、会社として、組織として、個人としての意義や、健康経営が自分事であると改めて理解できるからです。「会社に言われたから健康経営をやらなきゃいけない」では、大きな推進力につながっていきません。

そして、健康管理は個々人の問題であるという側面もありますが、チームや会社は、元気な従業員、つまりは社会的・身体的・精神的な健康の上に成り立つものです。健康を管理し、維持増進することが組織の成長を後押しする“礎”であるという意識を共有することが重要です。

健康経営を実践する企業の活動は社会保障費の適正化など地域や国の抱える課題解決にもつながるという、広い視野を持って取り組んでいただければと思います。また、それは、社会における会社や組織、個々人のパーパスとも多かれ少なかれ相関すると思っています。1社1社が健康経営に取り組み、成果を上げていくことは、社会のサスティナビリティの向上にもつながっていくと考えています。

富士通はこれからも健康経営から成長戦略を描けるパートナーとして、1社でも多くの企業に伴走し、一緒に成長していきたいと考えています。

著者プロフィール

富士通Japan株式会社

【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

富士通Japan株式会社

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