2021年6月17日

統合EDIコラム INSネット(ディジタル通信モード)サービス終了で変革を迫られる国内企業の電子商取引
~後編~

富士通Japan株式会社

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2024年1月にNTT東日本及びNTT西日本(以下、NTT)が、INSネットディジタル通信モード(以下、INSネット)のサービスを終了します。それに伴い、INSネットを使った電子商取引(EDI)を利用している企業は、インターネットを使ったEDIへの移行などの対策が求められています。しかし、サービス終了の発表から約3年が経過した今も多くの企業において「移行作業が進んでいない」のが現状です。現行のEDIが使えなくなる「EDI2024年問題」が間近に迫る中、企業は現状をどう認識し、どういった対策をとればいいのでしょうか。後編では、インターネットEDI普及推進協議会(Japan internet EDI Association 以下、JiEDIA)の見解と具体的な対策について解説します。

タイムリミットは2023年中
早急にインターネットEDIへの切り替えを

2024年1月にINSネットのサービスが終了するのに伴い、既存のEDIが事実上、使えなくなります。こうした状況の中、多くの企業はどういった対策を取ればいいのでしょうか。JiEDIAでは、「2023年中にインターネットEDIへの切り替え」を推奨しています。

インターネットEDIとは、インターネット経由でデータ交換を行い、業務を自動処理するEDIを指し、手作業の必要なWeb-EDIとは異なるものです。「グローバルな視点で見てもEDIはインターネットに移りつつあり、ネットワークインフラにおいてはインターネットがトレンドになっていることもインターネットEDIを推奨する理由です」(藤野氏)

<図3>図3
JiEDIAではインターネットEDIへの切り替えを推奨している
出典:インターネットEDI普及推進協議会「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】 V4.3.0」

インターネットEDIを使うメリットとして、プロバイダーが固定されておらずサービスベンダーが多く存在すること、ハードや設備、サポートの面で充実していること、従来型のEDIよりも高速な通信が可能であり、今後もさらなる速度向上が期待できること、既存サービスや社内システムとの親和性が高いことなどが挙げられます。

しかしながら、個々の企業やシステムベンダーが独自の方式でインターネットEDIへの移行作業を行うことは避けなければなりません。EDIには業界ごとに標準(フォーマットやプロトコル)が定められており、各企業が独自方式を採用してしまうと相手先ごとに個別対応を行う必要が生じます。

そのため、「可能な限り業界ごとに設けられた『インターネットEDI標準』を使うことが望ましい」(仲矢氏)とされ、例えば小売・流通業においては基本的に「流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)」への移行が推奨されています。流通BMSは流通事業者が統一的に利用することができるEDIの標準仕様です。

また、小売や卸業者、メーカーにとって受発注業務の効率化は永遠の課題とも言われていますが、受発注システムの共通化は進んでいるとは言えない状況です。一部でWeb-EDIの導入も行われていますが、前述の通り人手による作業負荷が発生するため、有効な解決策だとは言えません。また、Web-EDIによる受発注業務の負荷軽減施策としてRPA(Robotic Process Automation)が注目されましたが、例えばWebサイトのデザインが少し変わるだけで正しく動作しないこともあるため、まだまだ受発注業務の効率化に有効であるとは言い難い状況です。

このような課題を解決するためにも流通・小売業における流通BMSの導入は有効です。

<図4>
図4
流通・小売では流通BMS、鉄鋼では鉄鋼EDIなど各業界でインターネットEDI標準が策定されつつある
出典:インターネットEDI普及推進協議会「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】 V4.3.0」

インターネットEDIへの切り替えには
業界全体で取り組むべき

INSネットを使ったEDIからインターネットEDIへと舵を切っていく中で考えなくてはならないこととして、JiEDIAでは「個社で対応できるほど小さな問題ではなく、業界全体を巻き込んでいく必要があるということ」(石金氏)と指摘します。

例えば、流通・小売業界においては、小売・卸業者・流通・システムベンダーが一体となってこの問題に取り組む必要があります。特に流通・小売の業界にあっては、小売の立場が強いこともあり、自社が取り入れたインターネットEDIの仕組みを卸業者や流通にも取り入れるように要請するケースもあります。ある特定の企業だけが先行してしまうのではなく、業界全体で取り組んでいくことが大切になります。こうした考えに基づき、流通・小売をはじめ、鉄鋼、建設、化学、金融などの業界では、インターネットEDI標準が策定され、その普及が進められています。

<図5>
図5
JiEDIAが公開している対応ロードマップ、
すでにインターネットEDIへの移行に着手していないと間に合わない時期にきている
出典:インターネットEDI普及推進協議会「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】 V4.3.0」

もう一つ、インターネットEDIへの切り替えで考慮すべきことは、「切り替えにかかる時間」と「スケジュール」です。前編でも説明した通り、企業同士はEDIで複雑な網の目状につながっています。このため、インターネットEDIへの切り替えには、事前に入念なテストを実施することが求められます。1対1の取引でインターネットEDIへの切り替えがうまくいっても、さらにその先の調達先や取引先を含めて、全ての商流がインターネットEDIでうまく流れるかを検証しなくてはならないのです。

通常、通信テストには1社につき最低でも2~3時間はかかります。そのため、「あるシステムベンダーのインターネットEDIへの切り替え作業キャパシティが1日に10社程度であった場合、仮に1万社の接続先がある場合は単純計算でも1000日近く、つまり3年もかかってしまうことになります」(石金氏)。

さらにどこか1社でも移行トラブルが発生したら、そこから再テストが必要になるため、できるだけ余裕を持った移行計画を立てなくてはなりません。2024年1月のINSネットサービス終了を考えると、もうすでに取り組みを開始しなくてはならないタイミングといえるでしょう。

インターネットEDIは
新しい商取引を実現するインフラ

また、IT業界の人材が特に不足している今、切り替えの依頼が一度に集中してしまうとシステムベンダーも対応しきれない可能性があります。そうした視点からも、業界全体で情報共有をしながら移行作業に取り組むことが重要となります。

仲矢氏は、インターネットEDIへの移行をスムーズに実現するためには、「各業界において業者や業界間の垣根を取り払って『競争領域』を『協業領域』にする必要があります」と説きます。さまざまな業種・業界におけるビジネスの重要なインフラであるEDIの切り替えにあたっては、普段は競争・競合関係にある企業同士でも協力しあって、インターネットEDIの導入や普及を推進していかなくてはならないのです。

インターネットEDIは、流通・小売業をはじめ各業種・業界におけるビジネスを支える重要な商取引の仕組みであり、各業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのインフラのひとつでもあります。流通・小売業界においても、「インターネットEDIをベースにしたビジネスインフラが、新しい姿の商取引を実現する」(石金氏)と考えられています。インターネットEDIへの切り替えに着手することは、未来のビジネス基盤の構築に向けた第一歩となるのです。

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【取材協力】
インターネットEDI普及推進協議会(Japan internet EDI Association:JiEDIA)
https://www.jisa.or.jp/jiedia/tabid/2822/Default.aspx新しいウィンドウで表示

藤野氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長
藤野 裕司 氏

石金氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長代理 技術部会長
石金 克也 氏

仲矢氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長代理 普及推進部会長
仲矢 靖之 氏

著者プロフィール

富士通Japan株式会社

【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

富士通Japan株式会社

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