2022年10月28日更新

食品ロス削減の取り組みで食品製造業の企業価値向上へ 第03回 企業価値の向上、そして社員がやり甲斐を感じる元気な会社へ
~社員のより大きなやり甲斐になるようSDGsへの取り組みを応援します~

藤田 喜徳 氏

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前回までのあらすじ

毎日おにぎり1つ、一年間で365個。私たちが毎日「食べられるのに捨てている」という「食品ロス」の現状をまず数字から理解しよう、ということからこの3回連載のコラムを始めました。前回第2回は、「1/3ルール」とも呼ばれる賞味期限の背景にある納品期限、販売期限に関する商習慣が食品廃棄につながっている現状、さらにその背景には、特に日本人は鮮度志向といえるような消費者行動が要因のひとつになっているともいえる現状を挙げました。また、この問題に対してたくさんの企業が賞味期限の延長や商習慣の見直しへのチャレンジなどの不断の努力をされていることについても紹介させて頂きました。
社会全体をより良くするためには一つ一つの会社の企業努力だけではなく、サプライ・チェーン全体、また消費者と共に行動をしていくことが大切です。そのために食品ロス削減そのものの取り組みだけでなく、それを消費者へ強く発信してみてはいかがでしょうか、と投げかけました。多くの会社には基本の徹底をとことん追求する働く姿があり、そんな当たり前のことを大切にすることから食品ロス削減に貢献し続けている社員の頑張りも伝えてほしいという気持ちからです。
上場企業は資本市場の中で株価という形で評価を受けますが、このコラムをお読みくださる会社の皆さんにとっては、もっと地道な活動、食品ロス削減に繋がる全ての行動が会社の企業価値向上になっていることに間違いありません。

原料原産地表示の制度が完全施行へ

2017年9月に始まった加工食品の新しい原料原産地表示制度が2022年3月で経過措置期間が終わり完全施行に移ります。
ひとつの加工食品の中で最も多く使われている原料の原産地(あるいは製造地)がその多く占める順番で表示されます。複数の国に産地がまたがる場合、3か国以上の場合の大括り表示、「または」の言葉遣い等、実際に制度が始まって以降、その商品を手に取って表示を見た場合、実際消費者にとっては分かりにくいことも多くあります。
しかし、既に日本の食料輸入依存の高さについてはお話しをしたとおりであり、今回の制度により消費者がその表示を見た時にいかに私たちが口にする食品の原料が海を渡ってきているかを再認識することでしょう。「え!この商品の原料、国産ではないの?」と既に商品を手に取った時に感じることが多くなりました。ナショナリズムではありませんが、「もっと日本の農家を応援しなくては!」と思うことがしばしばあるのは私だけでしょうか。さらに、日本国内原料調達であれば、輸入品に比べサプライ・チェーンが短いことから特に生鮮品などその鮮度管理等「食品ロス」ついてはメーカーの高い意識が及んでおり ます。海外調達原料になると、日本到着までのサプライ・チェーンの中でも食品ロスが発生しているという意識にはどうしても及びにくいわけです。今後海外調達品が増加する中でもその意識とできる改善の努力は続けてほしいものです。
企業によっては原料の安定調達、最適コストなどの理由から調達先をフレキシブルに変えていることはいうまでもありません。それを画一的に表示した場合消費者に誤解を与えることもありえます。前回もお話しました通り、消費者とのコミュニケーションはこの点でもより求められることでしょう。

SDGsへのつながり

第1回でSDGsについて触れました。その12「つくる責任 つかう責任」のゴールの下「食品ロス削減に取り組んでいこう!」これが私たちの日々取り組むテーマであると申し上げました。そしてその取り組みは、1「貧困をなくそう」、また2「飢餓をゼロに」にもつながる非常に大切なテーマであることをお伝えしました。
昨今、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスのように、企業は義務感の中で取り組まなくてはいけないことが増えてきたようにもとれます。一方SDGsはいかがでしょうか。もちろん企業の理解はそれぞれでしょう。事業内容に応じて関連テーマも異なります。
しかし、人として自然に、当たり前のこととして取り組めるのがSDGsのように理解できます。課題の大きさは計り知れません。それだけに世界中の人が同じ目標に向かって取り組める、人間の本質的なテーマであり、社員、従業員全員で取り組める価値あるテーマです。

食べ物を無駄にしてはいけない、ということはそもそも誰もが教えられたことであり、同時に生産者への尊敬の念を忘れてはいけないと習っています。
あるお弁当製造業者のラインにいらっしゃる方のお話です。
「私は誇りをもって働いています。もちろん家でも食べ物は無駄にしないし、いつまでも元気にお弁当屋さんで働いているのは、安全で、健康のためにおいしい物を食べてほしいからですよ」と。この方の製造ラインでは野菜の切れ端しなどほとんどロスが発生していません。生産管理、品質管理そして原価管理などをいうまでもなく、この方の担当エリアは廃棄原料が出ないためゴミ入れが綺麗なままなのです。

「安全でおいしい食品を、安心して口に運んでもらい、いつも健康な毎日を送ってほしい」という自身の信念とそこからくる行動。そして、食材を扱いながら農家や漁師さんたちへの感謝し、元気に働けることを家庭や会社に感謝する。もちろん消費者からの会社と商品への信頼に対しても感謝する。これが健康なマインド・チェーンであり、人間の本質だと思います。

意識はSDGsすべてのテーマへ

こうした健全なマインド・チェーンを持つ社員、従業員の取り組みが、食品ロスを削減し、もちろん品質改善やコスト改善にもそれは繋がっており、会社はサステナブルであり続けるという良き循環ができあがります。

SDGs12「つくる責任 つかう責任」で話を始めた私たちにとって、食品ロス削減を見つめる中で、1「貧困をなくそう」、2「飢餓をゼロに」について考えることも第1回で触れたとおりとても大切です。3「すべての人の健康と福祉」の中の健康については、安全な食品を正しく見極めるために必要な教育の問題があります。4「質の高い教育をみんなに」は子どもからお年寄りまで非常に大切なテーマです。そして食に関わる皆さんの仕事はすばらしい労働と捉えれば、8「働きがいも経済成長も」に関係します。9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に関しては、様々な視点で食品産業の革新を目指した取り組みを行い、具体的に、製造、貯蔵、輸送等の技術革新を繰り返す企業があります。一方、農業原料供給国においてはまだまだ低賃金、労働環境の問題などが多く、10「人や国の不平等をなくそう」の視点でフェアトレードに取り組む企業は少なくありません。世界中のいかなる産業も重要視する13「気候変動に具体的な対策を」は特に農業において深刻です。14「海の豊かさを守ろう」は、海洋資源の保全の問題であり水産業に携わる方たちだけの問題ではなく水産資源を多く口にする日本人の食生活からも身近に感じたいテーマです。15「陸の豊かさも守ろう」には、生物多様性と環境保全の問題が含まれます。そして全体をまとめますと、フード・チェーンやサプライ・チェーンの中の協業で解決しようとする「食品ロス削減」の取り組みはまさに17「パートナーシップで目標を達成しよう」となります。今日食品ロス削減にむけたそのパートナーシップはますます大きな輪となっています。

フードバンク、フードドライブそして子ども食堂への支援

商品開発等賞味期限延長に向けての企業の取り組み、またいわゆる「1/3ルール」改善に向けたスーパーマーケット等流通業における取り組みを前回ご紹介させて頂きました。
社会におけるパートナーシップの重要性を意識し、地域に根差した会社が積極的に取り組みますのがフードドライブやフードバンクへの参加や子ども食堂などへの支援です。
「炊き出し」から始まったという日本のフードバンクの先駆け「セカンドハーベスト・ジャパン」の活動はさらに大きくなっています。参加団体は2,258に至り、2021年の企業及び個人からの寄贈による食の提供数は320万食、金額にして15.8億円のあたる食品が配布されています。
東京都江東区にある企業の店舗は、フードドライブの常設回収窓口を設置し、消費者とのネットワークを通して地元自治体が進める食品ロスに向けた活動を支援しています。そして「地域に役に立つ、地域の課題の課題に対して何ができるだろうか」という社員の思いが実行するという強い信念へと発展し店舗内で子ども食堂の運営が実現するというケースもあります。
日本全土にこうした活動が広まっています。個々の企業の取り組みに加え社会全体の中でネットワークができ、仕組みが構築され、その結果食品ロスの削減がさらに進んでいることは素晴らしいことです。

まとめ

「美味しい夢を食卓に届けたい」、「食卓を笑顔に、地域を豊かに」、・・・様々な思いで皆さんの会社の社員、従業員の皆さんが日々、美味しく彩りのある食品を私たち消費者にお届けくださっております。感謝が絶えません。
そして社会の中で自分たちに何ができるのか?社会、地元のために役に立ちたいと食品ロスの削減に向けて様々な、そして社会的に大きな意義のある取り組みが行われています。
SDGsを外国生まれの難しいプロジェクトととらえるのではなく、元々は毎日皆さんが自然と、そして心から精一杯に取り組まれている活動そのものであると誇りをもち、食品ロス削減への取り組みから、さらなる活動へと発展させることで、社員、従業員の皆さんの働き甲斐が大きくなり、より元気になることは素晴らしいことです。
皆さんの毎日にこのSDGsの彩りを加えることが、まさに皆様の会社の企業価値をより大きなものにすることになると信じております。
次回4回目をご期待ください。

コラム特別篇のご案内

これまで3回にわたってお伝えしてきましたコラム「食品ロス削減の取り組みで食品製造業の企業価値向上へ」の特別篇として、藤田喜徳氏による書き起こしコラム「今さら聞けない決算数字から紐解く自社の経営」をお届けします。
「食品ロス」への取り組みと共に、経営の視点から「決算書」を紐解くことで得られる、企業価値向上に向けたヒントをお伝えします。

著者プロフィール

藤田 喜徳 氏

2015年まで花王株式会社に勤務。経営監査室長、グループ会社監査役等歴任。海外駐在を含め、内部統制整備、内部監査、ガバナンス対応やリスクマネジメント等に従事。その後、カゴメ株式会社、三菱自動車工業株式会社で海外事業責任者、株式会社ウェザーニューズ執行役員を歴任。現在はシカゴに本部を置くコンサルティングファームJLEANのVice PresidentとしてJapan Business責任者を務める。

藤田 喜徳 氏

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