2020年12月18日

統合EDIコラム INSネット(ディジタル通信モード)サービス終了で変革を迫られる国内企業の電子商取引
~前編~

富士通Japan株式会社

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2024年1月にNTT東日本及びNTT西日本(以下、NTT)が、INSネットディジタル通信モード(以下、INSネット)のサービスを終了します。それに伴い、INSネットを使った電子商取引(EDI)を利用している企業は、インターネットを使ったEDIへの移行などの対策が求められています。しかし、サービス終了の発表から約3年が経過した今も多くの企業において「移行作業が進んでいない」のが実情です。現行のEDIが使えなくなる「EDI2024年問題」が間近に迫る中、企業は現状をどう認識し、どういった対策をとればいいのでしょうか。前編・後編の2回に分けて解説します。

日本経済に大打撃を与える「2024問題」

現在、国内では流通・小売り・製造・金融など、さまざまな企業が本社や支社、営業所など30~50万拠点で、INSネットディジタル通信モード(以下、INSネット)等の固定電話網を使ったEDIを利用しているとされています。インターネットEDI普及推進協議会(Japan internet EDI Association 以下、JiEDIA) 会長の藤野 裕司氏は、「INSネットのサービス終了で、多くの企業はこれまで使っていたEDIのシステムを事実上、利用できなくなります。通常、企業は調達先や仕入先、販売先など数十社と取引がありますが、これまでのような電子商取引を継続することができなくなるのです。その影響の大きさは計り知れません」と指摘します。

この問題は「EDI2024年問題」として注目され、一部ではインターネットEDIへの切り替えなどの対策が取られ始めていますが、実情は「ほとんどの企業がまだ具体的な対策をしていない状況」(藤野氏)です。JiEDIA 会長代理 普及推進部会長の仲矢 靖之氏は、「そもそもINSネットの『サービス終了を知らない』、あるいは知っていても『どれほど大きな影響が出るのかわかっていない』企業が数多くあります。EDI2024年問題を、どこか他人事のように捉えている企業が多い」と現状を説明します。

<図1>
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NTT東西は2024年1月のINSネットサービスの終了を発表
出典:インターネットEDI普及推進協議会「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】 V4.3.0」

それでは、どれほどまでに大きな影響が懸念されているのでしょうか。INSネットのサービス終了に伴い、従来のJCAや全銀TCP/IPといったプロトコルは使えなくなります。例えば、小売業では、自動受発注ができずに「店舗で欠品が出てしまう」といったことが懸念されるだけでなく、銀行など金融機関との決済などの取引もこれまでのEDIの仕組みでは難しくなります。

また、製造業においては、原材料や部品をジャストインタイムで仕入れることが困難になり、「たった1つの部品が調達できないことで、自動車の製造ラインがストップしてしまう、決してあり得ない話でありません」(藤野氏)。

今すぐ対策を実施しても2024年1月までに間に合わない

しかも、INSネットを使ったEDIが利用できなくなることの影響は、ある企業と取引先企業という「1対1」の関係にとどまるものではありません。ある企業と取引先企業、その先にある取引先企業の相手、さらにその先にある企業というようにEDIによる接続は「m対n」の複雑な網の目状に拡大しています。

仮に編み目を構成する各企業の拠点のほとんどがINSネットを使ったEDIからインターネットEDIへの切り替えなどの対策を取ったとしても、たった1箇所の拠点が対策をしないでいるとそこがボトルネックとなり、商取引のデータがうまく流れなくなります。つまり、網の目の商流の全てに連鎖反応をもたらすのです。

一方で、サプライチェーンにおける力関係が明確な業種や業界であれば、例えばメーカーが部品の調達先や卸業者に対してこれまでのEDIからインターネットEDIへの切り替えを要求し、調達先や卸業者がそれに従うといったケースはあります。ただし、その場合でも切り替えにかかる費用をどちらが負担するかなど、クリアすべき問題があり、切り替えが進んでいないのが実情です。

さらに、EDIの仕組みは、切り替えたらすぐに使えるわけではなく、相互に通信テストが必要です。とりわけ、m対nでつながっている状態であれば、1箇所が切り替えたことで他の商流に影響がでないかを検証しなければならないケースもあり、時間がかかることもあります。こうしたことを踏まえ、JiEDIA 会長代理 技術部会長の石金 克也氏は、「今からインターネットEDIへの切り替えなどの対策をし始めても、2024年1月までに対象となるすべての企業がEDIを切り替えることは現実問題として間に合わないのではないか」と危機感を示しています。

NTTの補完策やWeb-EDIへの切り替えはあくまでも
「その場しのぎの対策」

INSネットのサービス終了までに切り替えが困難な企業に対しNTTでは補完策として「メタルIP電話上のデータ通信」を期間限定で提供を検討しています。これはメタル回線を使って既存のISDN対応端末を利用したデータ送受信を可能とするものです。しかし、JiEDIAの検証によると現行のINSネットに比べ約1.1~4.0倍の遅延が発生することが確認されています。

<図2>
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NTT東西が示した補完策では現行EDIの1.1~4.0倍の「遅延」が発生する
出典:インターネットEDI普及推進協議会「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】 V4.3.0」

つまり、「現在のEDIをNTTの補完策に切り替えた途端に、企業の受発注などの取引に『遅れ』が生じるのです」(石金氏)。石金氏は、「例えば、これまで発注にかかわる通信処理に30分かかっていたとすると、それが最大2時間もかかることになってしまいます。商流を考えると、ある1箇所の遅れが次の取引をさらに遅らせることにもなります。補完策はあくまでも期間限定の代替措置にしかなりません」と指摘します。

遅延の原因はデータの伝送にIPパケット化処理を経由する必要があるためです。送信時にデータをパケット化する処理と、受信時にパケット化したデータを元に戻す処理が入るため、その処理時間の分通信に遅延が発生することが分かっています。したがって、仮に一つのデータ伝送が遅れたら五月雨式に他のデータ伝送にも遅れが生じるため、生じる影響はかなり広範囲にまで及ぶことが予想できます。

また、NTTがこの補完策を提供するのは切り替えのタイミングでISDN契約をしている先のみであり、仮に補完策移行後に伝送遅延対策として回線を増設したいと考えてもNTT側では受け付けない可能性があることに注意が必要です。つまり、「NTTの補完策は、インターネットEDI等の代替策移行が間に合わなかった場合の予備期間と考えるべき」(仲矢氏)と言えるのです。

こうした、NTTの補完策の他に、Webサーバ上にシステムを構築し、インターネット回線を使ってデータの送受信を行う「Web-EDI」と呼ばれる手法もあります。電話回線やISDNを使わずにデータ送受信ができるため、INSネットサービス終了後の代替策の一つとして挙げられていますが、Web-EDIも「一時的な代替案に過ぎない」という考え方が主流です。

その理由の一つとして、Web-EDIはブラウザでの操作がメインとなるため人の手による操作・運用が必要になってしまうことが挙げられます。例えば従来のEDIで小売が発注データを作って卸に送っていた場合には、卸は何もしなくてもデータを受け取ることができましたが、Web-EDIを用いると卸は送られてきたデータを手作業で取りに行かなければなりません。せっかくこれまでコンピュータを使って自動化していたものが手作業に変わってしまうのです。

このようにNTTが提供する補完策である「メタルIP電話上のデータ通信」やWeb-EDIは、一見するとINSネット終了後の有効な対策にも思えますが、「伝送の遅延や作業負荷の増加といったデメリットを考慮すると、あくまでその場しのぎの対策」(石金氏)と考えられるのです。

それでは、企業はどういった対策をとればいいのでしょうか。後編でJiEDIAの見解と具体的な対策について解説します。

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【取材協力】
インターネットEDI普及推進協議会(Japan internet EDI Association:JiEDIA)
https://www.jisa.or.jp/jiedia/tabid/2822/Default.aspx新しいウィンドウで表示

藤野氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長
藤野 裕司 氏

石金氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長代理 技術部会長
石金 克也 氏

仲矢氏

インターネットEDI普及促進協議会
会長代理 普及推進部会長
仲矢 靖之 氏

著者プロフィール

富士通Japan株式会社

【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

富士通Japan株式会社

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