2023年03月30日 更新

商社・卸売業は顧客基盤を盤石にせよ

日本経済は変質している

2022年夏以降、個人市場を中心に最終市場は伸びを示しています。COVID-19拡大前を上回る状況です。
ところが、小売業界やBtoC企業では個人事業の廃業や大企業といえどもチェーン・店舗の閉鎖が目につきます。最終市場が伸びながらも、そこに商品・サービスを供給している産業・企業が伸び悩んだり、縮小している差分は、ご存じの通りEC(インターネット通販)と言えるでしょう。(図表1:現在の日本経済の状況)

図表1:現在の日本経済の状況

メーカーに目を転じてみると、半導体不足・原料値上げ・円安・海外生産工場からの入荷遅れなどにより、目の前にチャンスがありながらも商機を逸していることも多くあります。また、メーカー社内では技術や品質に関する研鑽を積んでいるものの、直接ユーザーと接している小売店舗ではパート・アルバイト比率が高まっており、商品知識を持っていない店員が陳列とレジ打ちをしているだけではないでしょうか。当然、「我が社の技術」とやらは、ユーザーに伝わることはありません。

商社・卸売業界だけではなく、メーカーも小売業も、変化した経済・流通構造の中で、改めて自社・自業界の役割や課題を洗い出してはいかがでしょうか?

ベースとなるのは広義の「商品力」

成長した商社・卸売業を見てみると、まずベースとなるのは「商品力」だと言うことができます。卸売業の発祥の一つに、メーカーの営業・物流部門が分離独立したものがあります。その商品を独占的に販売することができ、商品差別化ができます。また、最初から流通卸として設立された会社でも、海外商品の特約店となり、魅力的な商品を専売しているところが強みになっていたりします。言い換えると、「ウチと取引をしなければいけない理由」を作ってきたのです。

また、商社・卸売業として成長発展していく途上で取扱商品の幅を拡大し、結果として取引顧客数を増やし、顧客基盤を築き、売上が落ちにくい状況になっています。
ここで「商品力」とは、

  1. 商品そのものの価値だけではなく、
  2. 商品知識(置いておくだけで売れる訳ではない)
  3. 使い方提案力(ユーザーの立場で商品の価値を伝える力)
  4. 技術知識(技術の内容、顧客内の関連設備との連携方法など)
  5. 保守能力(技術力、対応力)

が含まれてきます。

商品そのものの価値は、メーカーが作ります。一方、商社・卸売業・小売業などの販売を担当する会社では、ユーザーにとってのその商品の価値を説明・訴求するという役割分担があります。

商品力だけでは売上は伸びない

図表2:商品力は競合の顧客基盤を切り崩す

図表2(「商品力は競合の顧客基盤を切り崩す」)をご覧ください。これはランチェスターの法則を図式化したものです。売上を上げていくには、営業力・商品力・顧客基盤という3つのパラメータが関係しています。あなたの会社で営業力を高めると(営業担当者の増員、提案力アップなど)、競合企業も同様に営業強化をして対抗してきます。それだけでは対抗できないと感じると、商品差別化を狙ってきます。それが、「mtとnt」・「mtとns」の関係です。次に商品力(mt)を見てみると、Qすなわち競合の顧客基盤に対してしか矢印が出ていません。つまり、あなたの会社で他社にはない商品を取り扱うと、競合の既存顧客から「一度、説明を聞きたいのだが」などの連絡が来て、それまで門前払いに合っていても、商談のチャンスを作ることができるということです。もちろん、優れた商品力で切り込んだ後で、営業担当者がしっかりと訴求・提案をしてクロージングしてくる必要があります。
あなたの会社で、上記1〜5の広義の商品力をしっかりと備え、市場の認知を広めるところから、業績の向上を図ることが始まるのです。

商社・卸売業の価値を高める

1980年代から問屋不要論というものが、幾度となく話題になっています。しかし、私は問屋=商社・卸売業には価値があると考えています。 まず、メーカーの視点。中小規模のメーカーでは、技術開発を優先する傾向があり、営業活動まで手とお金が回らないところが多々あります。このとき商社・卸売業は、メーカーの営業部門を代行していると言うことができます。ランチェスターの法則にもあったように、会社の成長発展のためには、商品力と営業力が車の両輪となっており、片方が欠けるだけで会社は成り立ちません。あなたの会社では、メーカーの技術・商品価値・使い方を顧客の要望に合わせて説明していますでしょうか?中小メーカーの営業代行をすることで、優れた商品を優先的に取り扱うことにもつながります。

次に小売の視点。店頭に商品を並べているだけの店舗は、購入の手軽さという点から、商品写真を掲載しているだけのECサイトには勝つことは難しいです。商社・卸売業はさまざまな店舗や小売業の売り方を見ることができる立場にいます。そこでの経験を基にして、売り場作り・提案のサポートをすると喜ばれます。動画を撮っておけば、Face to Faceで説明しなければならない専門的な事項以外は、伝えることができます。1本5分程度の長さが良いです。もうひとつ、小売業の仕入の事務軽減のため、1社の商社・卸売業に注文するだけで、ほぼすべての商品を購入できることを希望しています。実際に顧客から要望を出された方もいらっしゃることかと思われます。日本だけではなく、アジア諸国でも同様の傾向です。ここであなたの会社でできることは、取扱商品を増やす…ではなく、品揃えが異なる同業者とアライアンスを組むことです。石油業界では交換取引という取引形態があります。A社が自社拠点のない地域の顧客に石油商品を引き渡す場合、その顧客の近隣の同業B社に商品配送を依頼し、B社はA社として納品し、A社とB社社の間で決済するという取引です。品揃えの相互補完をしつつ、顧客との取引を長らえさせることにつながります。

最後に商社・卸売業をM&Aの視点で見てみましょう。M&Aで売買価値を算出する場合、買われる会社の強みに着目します。私たちが価格算定する際、特約店契約等の商品差別化がなければ、顧客基盤を見て評価をします。つまり、

  • 顧客数はどれくらいか
  • どれだけ優良顧客を有しているか
  • 契約継続率はどれくらいか
  • 関連販売ができているか

などです。

自社の顧客基盤を評価しよう

さて、商社・卸売業の中心的な財産である、顧客基盤を評価してみましょう。
設問の中に、あなたの会社の業績アップのヒントがあるかもしれません。ピンとくる項目があったら、自社でどのような行動をとることができるか、深掘りして検討してみると良いかと思われます。

[セルフチェックリスト]

  1. 顧客数
    □ 今期取引をしているアクティブ顧客数は何社か
    □ 直近5ヶ年のアクティブ顧客数の推移は増加傾向か、減少傾向か
    □ 既存顧客でありながら、直近2年間に取引がない顧客数(スリープ客)は何社か
    □ 最大顧客を失った場合、赤字にならないですむか
       自社の損益分岐点比率を計算し--仮に85%だとした場合--、
       最大顧客の売上高構成比が15%を超えないかという意味
  2. 顧客企業の理解
    □ (生産財卸なら)顧客の新商品発売の情報を得たり、予測をしながら営業提案をしているか
    □ 各顧客について、同業者のどこと取引があるかを把握しているか
       自社の顧客内シェアを高めること
    □ (生産財卸)顧客が保有している資産情報を把握しているか
       顧客データベースに、顧客の資産情報・資産構成図が保管されていると尚良し [重要]
    □ 顧客業界の重要経営管理ポイント(経営課題)を把握しているか
       提案力の向上に、強力に役立ちます。
    □ 顧客企業の業績推移を知っているか
  3. 営業アプローチ
    □ 過去に取引があったが、現在は取引がない過去客の掘り起こしをしているか
    □ 顧客企業の業務支援をしているか(店頭支援、商品知識提供、事務軽減支援など)
       自社が「顧客業務の一部を担う」ことで、取引は切られにくくなる。専門的な言い回しをすると、「顧客のバリューチェーンの一部を担う」となる。フェデラルエクスプレス社は「あなたの会社の物流部門です」と訴求している。
    □ 社内外の業務に、動画を活用しているか
       動画を活用することで、自社営業担当者が顧客訪問をしなくても、関係継続をすることができる
    □ Webの活用・ECを行っているか
       知らない商品を、知らない会社から買うことはできない。認知獲得・興味喚起のために、Webを営業担当者代わりに使いたい。また、小売店舗そのものが減少しており、新しい販路としてECをメーカーに先んじて活用したい。
    □ 成長市場にシフトしているか
       小売店舗を見ると、多くの業界で仙台・東京・千葉・名古屋・大阪・広島・福岡は成長しているが、その他の地域は減少している。市場のあるところへ出ていくと、チャンスに巡り会いやすい。
    □ 自社の営業担当者は十分な商材知識を持ち、顧客に合わせた提案ができているか

(注)まだまだチェックしておきたいポイントはありますが、最小限上記の項目について自社の現状を把握し、対処をとることが求められています。

商社・卸売業向けデジタル新営業スタイルの確立
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著者プロフィール

尾田 友志 氏

日系コンサルティング会社 開発部 コンサルタント、青山監査法人/ プライスウォーターハウス(現、PwCあらた有限責任監査法人)シニアマネージャー、中央青山監査法人/プライスウオーターハウスクーパース ディレクターを経て、現職。スターティア株式会社 社外取締役(兼務)。
<専門分野>財務・管理会計・経営工学(統計・オペレーションズリサーチ)

尾田 友志 氏

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