市場が縮小しているアパレル業界では、低迷を続ける百貨店アパレルだけでなくファストファッションも成長が鈍化してきました。各社は生き残り策としてオムニチャネル戦略に力を入れています。
アパレル業界は時代と共に、新たな業態が登場して消費者の注目を集めてきました。1960年代からは、百貨店で婦人服が飛ぶように売れた「百貨店アパレル」が全盛でした。その後、ユナイテッドアローズ、ビームス、シップスの御三家で有名な「セレクトショップ」が目利きや提案力で売上を伸ばし、2000年代に入るとユニクロなどのファストファッションが台頭します。
ファストファッションは、SPA(製造小売り)とも呼ばれ、商品の企画から生産、販売までを一貫して行います。流行を取り入れた、あるいは高機能だが、手頃な価格の商品を販売し、ブランド価値を高めながら規模を拡大してきました。
ただ、現状ではSPAも含めてアパレル業界は苦境にあえいでいます。国内アパレル市場が縮小しているため、大手アパレルは大量の閉店や従業員の希望退職募集などのリストラに追い込まれ、百貨店業界も地方店の閉店ラッシュが始まりました。そんなアパレル業界の成長領域はECです。
経済産業省によると、2015年の消費者向けEC市場規模は対前年比7.6%増の13.8兆円に達しました。このうち、「衣類・服装雑貨等」のカテゴリは対前年比7.9%増の1兆3,839億円で、全体に占める割合は19.1%という最も大きな商品カテゴリです。
この市場を牽引するのは、「ZOZOTOWN」や「マガシーク」などのアパレルECモールです。ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの2016年3月の商品取扱高は、前年比23.6%増の1,595億円に達しました。
アパレルECモールには、ユナイテッドアローズをはじめとして数多くのブランドが出店しています。消費者は実店舗に行かなくても、スマートフォンから自分の好みに合う商品を簡単に捜せるようになったため利用が増えました。アパレル各社は、これに対抗するために実店舗を活かすオムニチャネルに力を入れています。
オンワードホールディングスは、オムニチャネル戦略として「タブレット接客」を展開しています。これは、高島屋の店頭で、欠品している商品や店頭に置いてない商品などを、タブレット端末を通してECサイト「セレクトスクエア」で販売するものです。欠品時の機会ロス防止だけでなく、店頭の商品が少ない地方店での売上拡大策としても期待されています。また、単に注文を受け付けるだけでなく、コーディネート提案や着回し方法なども提供できるようになっています。
ユナイテッドアローズもオムニチャネルに力を入れています。同社の2016年3月期の売上高は前年比14.3%増の162億7,500万円と、全社の12.7%を占める規模になりました。早くから実店舗とネットの連携強化に力を入れ、実店舗の在庫表示や店舗取り置きサービスを提供してきたことが、この業績に結びついています。このような利便性に加え、最近はレコメンデーションを活用したパーソナルな接客にも力を入れています。
ユニクロもオムニチャネルへの取り組みを本格化させました。ECサイトでは、ジャケットやシャツのサイズを豊富に用意して、セミオーダー感覚でジャストフィットが見つかるようにしています。また、2015年10月の決算発表では、5%程度のEC比率を「将来的には30~50%までに拡大していきたい」と宣言しました。これを実現するために、大和ハウス工業と次世代物流の仕組みを構築すると同時に、コンサルティング会社と協業して革新的なデジタル顧客体験の開発に取り組んでいます。
一方、消費者も変化しています。デフレの影響もあり、消費者のアパレルに関する支出は減っています。このため消費者は新品にこだわらず、中古品やレンタルも使うようになりました。服を探す際に、「ZOZOTOWN」だけでなく、中古品売買の「メルカリ」を見る女性が増えてきました。
ストライプインターナショナルでは、「earth music&ecology」などの人気ブランドを、定額で借り放題にできる「mechakari」をサービスしています。さらに、ここで使った服を古着商品としてECサイトで販売しています。このように、アパレルのビジネスは、既製服の新品を売って終わり、というスタイルから、中古品やレンタル、さらにはセミオーダーなどの受注生産も含めた形に変化していくかもしれません。
この時重要なのは、個々の消費者を理解した上で、最適な提案をしていくことです。消費者がどんな商品に興味を持ち、実際に着たらどんな感想を持ったのか、このデータの蓄積が最適な提案に繋がります。アパレル各社のオムニチャネル戦略は、実店舗とネットをシームレスに使える利便性という顧客体験の提供から始まりましたが、この先は、継続的な着こなしの提案という顧客価値の提供を目指すようになるでしょう。
(株式会社富士通総研 田中 秀樹)
株式会社富士通総研(FRI)
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