2024年10月、富士通が主導し、他企業と連携した革新的なワーケーションが長崎県諫早市大草地区で実施されました。この取り組みは、従来のワーケーションの枠を超えた「地域課題解決」と「ビジネス創出」の両立を狙うものです。
地域住民との交流やワークショップを通して、地域課題の解決とビジネス創出の両立を目指した3泊4日の取り組みは、参加企業や地域住民から高い評価を頂くことができました。本記事では、その詳細と成果、今後の展望を紹介します。
※本取り組みは、総務省/観光庁が主催する「テレワーク・ワーケーション官民推進協議会」にて優秀賞を受賞しました。
従来のワーケーションの限界と、新たな挑戦
富士通では、「Well-beingの向上」、「パラレルキャリア、セカンドキャリアの形成」、「地域課題の解決」、「効果的なチームビルディング」を目的に、2024年現在、「ワーケーションパートナーシップ協定」を全国13自治体と締結し、ワーケーションを推進しています。この協定に基づく取り組みの一つとして、各地域の自治体と連携し、社員のワーケーションモニターツアーを開催してきました。これまで約200名の社員がワーケーションを通じて、自分のキャリアの見直しや新たな知見の獲得に役立てています。
ところが、ワーケーション推進のための施策を数多く実施する中で見えてきた課題があります。自治体からは、当初期待していたほどの盛り上がりがなく、ワーケーション施設の維持に課題を感じ始めているという話や、社員からは出社回帰の流れもある中、職場の理解を得にくいといった声が挙がっています。これらの原因の一つが、ワーケーション実施による企業としてのメリットが分かりづらいということです。
ワーケーションには社員のWell-beingの向上や人材育成の面でポジティブなインパクトが確かにあります。しかし「企業としてのメリットの明確化」という壁を打破しないと、ワーケーションが一つのカルチャーとして根付くまでには至りません。そこで、わたしたちは、企業にとっても明確なメリットが生まれる新たなワーケーションの可能性を見出すため、富士通という1企業の枠を越えたチャレンジを行いました。お客様やパートナー企業と一緒になってワーケーションを行い、自治体や現地の大学も巻き込んで地域の課題解決に取り組むことにより、企業としてもビジネスにつながるメリットを実現しようというものです。
異業種交流型ワーケーション:その取り組みと成果
本取り組みは、個人で実施するワーケーションや、チームビルディングを目的としたワーケーションとは異なり、「新規ビジネスの創出、自治体や顧客とのリレーション強化」を明確な目的にしたワーケーションです。
富士通グループ社員に加え、コクヨ株式会社、サントリーコーポレートビジネス株式会社、サントリービバレッジソリューション株式会社、トヨタ自動車株式会社、三井不動産株式会社の社員の方々、そして長崎大学経済学部の山口 純哉 准教授とゼミ生の皆さん、そして進行を担当する株式会社学びデザインの荒木 博行氏の計40名が長崎県諫早市大草地区でワーケーションを行いました。
長崎大学にご参加いただいた理由は大きく2つです。1つ目は、短期間で地域課題を把握するための助言をいただくため。2つ目は、今回の取り組みで、次につながるものがあれば引き続き地域の方々のサポートを現地でしてもらい、一過性のもので終わらせないためです。
プログラムの内容
2024年10月、人口約700名の長崎県諫早市大草地区にて、3泊4日で開催しました。参加企業とそれぞれの企業を担当している富士通の営業・システムエンジニア、そして長崎大学の学生がチームを組んで、地域課題解決の提案を行いました。
大草地区にて、ミカン狩りやヨット体験などでアイスブレイクをした後、全校生徒27名の大草小学校の児童との「大草の未来を考える」ワークショップを実施。児童からは「人は増えて欲しいけど、地区に住んでいる住民全員の顔と名前が分かる環境はなくしたくない」、「都会にある店や遊び場は増えて欲しいけど、自然は壊したくないから、地下に店を作りたい」など、教師も驚くような意見が数多く出ました。また、地域のことを良く知る地元の方々との散策を通して大草地区への理解を深めました。


最終日には、長崎大学の学生を交え、各チームが「大草をよりよい場所とするための提案」をまとめ、発表を行いました。
発表の場には、1割以上の地域住民が集まり、地域の将来について熱い意見交換が行われました。たった4日間で作り上げた各社の提案には実現が難しいものもありましたが、地域の方々からは、とても良い刺激がもらえた、将来に希望が持てた、などのポジティブな感想を頂きました。参加した富士通社員にとっても、それぞれのお客様や自治体の皆さまとこれまで以上に深いリレーションを構築できる良い機会となりました。


参加者の声を一挙にご紹介
ワーケーション実施後、参加企業の皆さまからは今回の取り組みの意義を感じられるコメントが多数ありました。
地域課題への関心の高まり
- 住民や大学生と一緒に提案を計画することで地方創生について自分事としてとらえることができた。今後、個人としても企業としても関わっていきたい。
- 自らの担当業務や自社事業ドメイン以外の社会テーマ(特に地方創生や地域課題)に関心を持つようになった。またそれを他人事としてではなく、自分なら、自社なら、という視点で発想を巡らせる習慣がついた。
- 大草小学校の純朴・素直な生徒たちと接点を持つことにより、改めて地域課題について当事者意識を持てたこと、その機会を作っていただいたことに感謝している。
- 中心都市だけではなく、過疎化していく街のイメージを具体的に知ることができたことにより視野が広がった。
ビジネスチャンスの発見
- 地方創生への貢献や先進的な取り組みとして、企業価値の向上につながると感じた。
- 地域課題解決を進める事で我々のビジネスチャンスがあると感じた。
- 改めて現在の事業を通して提供したい価値をきちんと振り返ることができてよかった。
- ワーケーション後に別の地方自治体の方と話す機会があり、どの自治体も同様の課題を抱えていて、ビジネスチャンスがあると感じた。
- 社会に向けて、各企業の良い所をかけあわせたらもっと面白いビジネスができるのではと思った。
顧客関係強化
- 富士通の方と4日間過ごし、とてもよい関係が構築できたと思う。
- 他企業の方との交流を通じて、視野が広がった。
- 4日間を通して、普段ビジネスの場ではできない会話ができ、お客様との距離も近くなった。
- 担当顧客チームのメンバーとして参加したことで、顧客理解につなげることができた。
自身のキャリア形成
- 他企業の方や普段お会いすることのない地域の方との交流を通じ、自身を振り返るきっかけになった。またこれからのキャリア形成に役立つと感じた。弊社の社員にとって不足している外を見る経験ができただけで本当に大きなメリットだったと思う。次回以降も実施の際はぜひ声をかけてほしい。
- 普段と異なる環境で仕事をすることで、今後のキャリアや仕事について新しいエッセンスを得た。
また、長崎県様や長崎大学様、地域住民の皆さまからも今回の取り組みの重要性が感じられるコメントを頂きました。
長崎県様
- 従来のワーケーション受け入れ対応は、県や市の行政職員主導でプラン検討や各種調整を実施してきたが、今回は地域住民(大草まちづくり協議会の方々)主導で受け入れ対応を推進いただいた。
- 地域住民の皆さんにとっては初めての経験であったが、これをきっかけに皆が一致団結していく姿や、企業の方々との交流を通じて自分達が住む地域の魅力を再認識し自信を深めていく姿を目の当たりにし、ワーケーションにより意識の変革がもたらされたことを実感した。頼まれたことをただただ実施するだけではなく、自ら考え行動したことでそういった良い効果が生まれたと思う。
- 地域課題は、地域外の誰かに解決してもらうものではなく、地域住民自らが解決していくべきものであるので、今回のワーケーションによる意識改革は課題解決に向けて動き出す重要な一歩となった。
- 今後も地域住民の主体性を引き出しながらワーケーションの受け入れを推進していきたいと思う。
長崎大学様
- 参加者が属する企業様の理想像の構築、現状把握、問題析出、課題設定から事業構想に至る過程を体験できたことがよかった。
- 地域経済・社会の持続可能性をテーマに掲げる研究室であるため、企業の規模や立地場所を問わず、社会性の強い企業(ソーシャル→ビジネス)と密に関わる機会が多い中で、日本経済を支えてきた伝統ある企業の皆さん(ソーシャル→ビジネス→ソーシャル)と交わることができたことは、ゼミとしてもメリットだった。
- ゼミ生が自らの進路を考えるキッカケになったと思う。
地域住民の皆さま
- 日頃から持っている課題感を外からの視点で教えてもらい、新たな気づきも多くあった。
- 普通ではありえない企業の皆さんとの交流で、大人だけでなく小学生も良い刺激を受けた。将来の選択肢が増えたと思う。
持続可能な社会の実現のために
初の試みである「新規ビジネスの創出、自治体や顧客とのリレーション強化」を目的とした異業種交流のワーケーションは当初の予想を大きく上回る成果を収めました。富士通社員にとっては、顧客とのリレーション構築ができるよい機会だったと思います。また、参加いただいた各企業の方々からも、個人としても企業としても得るものが多かったとのコメントをいただきました。そして、何より、小学生をはじめとする地域住民の方々にも元気を与えられたのではと感じています。
近年注目を集める「場所・時間にとらわれない働き方」は、もはや実現しつつある未来像です。本ワーケーションは、場所・時間にとらわれない働き方によって、社員個人の成長、企業の発展、ひいては地域社会の活性化と持続可能性に貢献できる可能性を改めて示す、極めて有意義な取り組みとなりました。富士通では今後もワーケーションを通じて、持続可能な社会の実現を目指していきます。