物言う消費者が主役のエシカル消費
サプライチェーンの可視化が鍵

エコ商品を思わせる、葉で形どられたショッピングバック

かつては「物言わぬ消費者」と言われた人々が、「物言う消費者」へと変化しつつあります。インターネットやSNSの普及により個人の情報発信が盛んになり、消費者の声が購買力を左右するようになりました。今、この消費者の行動変化は、SDGsの世界的な潮流に乗り、企業に対して具体的なエシカル消費の取り組みを促しています。そして、欧米主導と言われたこのエシカル消費の波は、次世代を担う日本の若年層にも根付きつつあります。いま、日本の企業に求められている対応とはどのようなものでしょうか。富士通の事例も踏まえてご紹介します。

目次
  1. 今、話題のエシカル消費とは?
  2. エシカル消費が誕生したきっかけ
  3. 今、日本企業に求められるエシカル消費
  4. 富士通のエシカル消費への取り組みとは

今、話題のエシカル消費とは?

エシカル消費とは何かご存知でしょうか。消費者庁では、「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」と定義しています。同庁の特設サイト*1ではこれを「人・社会への配慮」「地域への配慮」「環境への配慮」を含む消費活動として詳細に分類しています。
つまり、エシカル消費とは「何かを購入するときに社会、地域、環境への配慮がなされた商品を選ぶ」という考え方を指しています。この概念がどのようにして生まれたのかを理解するために、その起源を探求してみたいと思います。

エシカル消費が誕生したきっかけ

エシカル消費の概念が生まれた背景には、2013年にバングラデシュで発生した商業ビル「ラナ・プラザ」の崩壊事故が大きく影響しています。このビルは当初5階建てでしたが、違法に8階まで増築され、その結果、1,134名が犠牲となった痛ましい事故です。このようなビル崩壊事故はバングラデシュに限った話ではなく、過去にも502名が犠牲となった1995年の韓国三豊百貨店崩落事故や98名が犠牲となった2021年のアメリカシャンプレイン・タワーズ・サウス崩落事故などが発生しています。
しかし、ラナ・プラザビルの崩壊事故が他と異なる点は、その原因の多面性にあります。ビルの崩壊は違法増築が原因でしたが、間接的な要因として政府の行政管理不足、企業の法令軽視と過酷な労働条件の強要、さらには欧米企業の倫理についても問われました。というのも、ラナ・プラザビルには多くの裁縫工場が入居しており、欧米の大手企業がこの工場を末端の下請けとして利用していたからです。また、インターネットの普及により、この事故の情報は瞬く間に世界中に広がりました。その結果、安いファストファッションを求める消費者意識にも変革が必要と認識され、欧米を中心に議論が起こりました。そして、この議論は有名ブランドの不買運動にまで発展しました。
この事故の特筆すべき点は、フェアトレードという解決方法が提示され、世界中でフェアトレード認証の注目度が高まったことです。これは、消費者が商品を購入する前に、その商品の原材料や労働環境などが適切であることを証明する第三者機関による認証制度です。これにより、消費者は自分の消費行動が社会や環境に与える影響をより具体的に理解し、選択することができるようになりました。
これは、消費者が単に商品の価格や品質だけでなく、その製造過程や背後にある倫理的な価値にも目を向けるようになったことを示しています。つまり、消費者は自分の購買行動が社会全体に与える影響を意識し、それに基づいて商品を選ぶようになったのです。これは、エシカル消費という新たな消費の形が広まりつつあることを示しており、企業にとっても、その製品がどのように生産され、どのような価値を持つのかを消費者に伝えることが重要になってきていると言えます。

女性が楽しそうに、商品であるお酒を見比べている

今、日本企業に求められるエシカル消費

日本でもラナ・プラザの事故はニュースになりましたが、エシカル消費という考え方がすぐに広まることはありませんでした。その一因として、日本固有の「三方よし」という文化の存在が挙げられます。この言葉は近江商人の経営哲学と言われ「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の3つを満たした取り引きを意味します。そして、この考え方はすでに日本の文化に深く根ざしていたため、エシカル消費と同一視されたのかもしれません。
しかし、この2つの考え方には、情報の量と質において大きな違いがあります。例えば、「エシカル消費」の場合、商品を購入する前に第三者機関が保証する様々な詳細情報を知ることができますが、「三方よし」の場合、消費者は購入前に社会や環境に良い商品であるのかを判断する十分な選択肢がないのです。
消費者庁の「消費生活意識調査*2」によると、エシカル消費についての認知度が特に若者を中心に広がっていることが明らかになっています。この認知の拡大は具体的な数値でも確認できます。フェアトレード・ラベル・ジャパンという特定非営利活動法人の報告*3によれば、日本のフェアトレード認証製品の推計市場規模は196億円に達しており、その市場規模や認定を取得する企業も年々増加しています。また、フェアトレード認証と同様の取り組みとして、国産の生鮮農産物にJAS法による原産地表示だけではなく、収穫日や生産者名などの情報が記載されることも増えてきています。これらの事実から、国内のサプライチェーンの透明性は確実に向上している、といっても過言ではありません。

富士通のエシカル消費への取り組みとは

世界ではフェアトレード認証に頼らず、最新のIT技術を活用してサプライチェーンの透明性を確保する事例も出てきています。その中でも特に注目を集めているのがブロックチェーン技術です。例えば、AB InBev社は、ブロックチェーンを活用して、大麦生産・麦芽製造・ビール醸造・瓶詰・出荷までのビール製造工程を追跡できるシステムを開発しました。これにより、消費者は地元で収穫された麦芽のビールを選び、その新たな価値を享受することができるようになりました。また、tex.tracer社も、ブロックチェーンを利用して消費者が店頭で衣料品につけられたQRコードをスキャンすることで、原材料の生産から製造・物流・販売までの過程を確認できるシステムを導入しています。これにより、消費者はどの地域で作られたコットンが誰の手に渡ってどのように製造されたのかを知ることができるようになり、社会や環境にやさしい衣料品を選んで購入することができるようになりました。

店頭で衣料品につけられたQRコードを、客がスマホでスキャンしている

先端技術の活用には、高度な技術力が必要不可欠です。富士通ではブロックチェーン黎明期からその可能性に着目し、その価値を最大化しビジネスへの実用化に貢献しています。その技術力の高さは、2021年のcrQlr awardや2022年のIDC Europe and Central Asia Industry Insights Awardsなど、第三者機関からの受賞によって証明されています。
新しいテクノロジーが驚異的な速度で広まったり、数年前まではごくありふれたビジネスが急激に変わってしまうような時代になりました。そして、エシカルな消費という新たな潮流が日本にも静かに訪れています。日本の消費者が商品の詳細情報をエシカルな視点で確認してから購入するという、新たな消費者の行動パターンが、我々のすぐそばまで来ているのかもしれません。

ページの先頭へ