「サステナブルなビジネスとエシカルなサプライチェーンを目指して」tex.tracerと富士通が取り組むブロックチェーン活用

競争がきわめて厳しく、価格志向型なアパレル産業において、サステナブル(持続可能)でエシカル(倫理的)なサプライチェーンを構築するためには、業界を内部から変革していく必要があります。

2019年、tex.tracerの共同創設者であるJolanda Kooi、Bart Westermanの両氏は自らのビジョンを実現するために、ブロックチェーンを活用したプロジェクトを富士通と共に開始しました。彼らのビジョンとは透明性のあるサプライチェーン・プラットフォームを構築することであり、tex.tracerは衣料品がいつ、どこで、どのように製造されたかの情報を正確に公開することで、ファッションブランドや消費者がエシカルな購買決定をできる環境作りを行っています。

今回のインタビューではJolanda Kooi氏と、富士通ベルギーのCDO(最高デジタル責任者)/CTO(最高技術責任者)でEnterprise Blockchain – Track and Trust Solution Center長を務めるFrederik De Breuckに、ビジネスやテクノロジーはどのように社会に貢献できるのか、また両社のパートナーシップによってブロックチェーン・テクノロジーの未来はどのようになるのか、tex.tracerプラットフォームの背後にあるストーリーについてお伺いしました。

目次
  1. 検証済みのサプライチェーン・データを通じて、サステナビリティを推進
  2. 人々や地球に貢献するブロックチェーン構築に向けた富士通とのコラボレーション
  3. 信頼と検証可能なデータに基づくサステナブル・サプライチェーンの構築
  4. 透明性のあるテクノロジーで社会に貢献
  5. デジタルイノベーションを通じた、よりサステナブルな世界の創造を目指して

検証済みのサプライチェーン・データを通じて、サステナビリティを推進

――まず初めに、tex.tracerを創業された背景について教えてください。

Jolanda氏: ファッション業界は、社会や環境にネガティブな影響を与えているだけでなく、ステークホルダーが多く、フットプリントが膨大なこともあり、変革を求められています。私たちは、より良い世界の実現のために透明性のあるファッション・エコシステムを構想し始めました。社会的な側面で言えば、具体的には衣料産業に携わる労働者の権利と労働基準をめぐるすべての問題ということになります。

――tex.tracerは、これらの問題を具体的にどのように解決しようとしているのでしょうか?

Jolanda氏: 私たちは、富士通と構築したプラットフォームを通じて検証済みのサプライチェーン・データを独自に提供しています。これにより、ブランド、小売業者、サプライチェーン・パートナー、消費者などすべてのステークホルダーが、「データに基づいた意思決定」を行えるようになります。多くの場合、こうした「データに基づいた意思決定」が持続可能性をより高めるのです。

ビジネスパートナーであるBart Westermanと私は、ファッション業界に長く携わっており、この業界が変わらなければならない状況にあることを感じていました。ファッション業界で20年間活動してきた経験から、私たちは、信頼性の高いデータを用いることで変革を推進できるのではないかと考えました。これが、透明性のあるサプライチェーンを構築することにフォーカスしてきた理由です。私たちの目標はより良い世界の実現であり、衣料品産業の労働者の社会的地位向上です。私たちのソリューションは、「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「つくる責任、つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」などSDGs(持続可能な開発目標)の目標のいくつかへの取り組みにもつながるものです。

人々や地球に貢献するブロックチェーン構築に向けた富士通とのコラボレーション

――tex.tracerと富士通のコラボレーションはどのようにして始まったのですか?

Jolanda氏: どのようにプラットフォームを構築したいかという具体的なビジョンが私たちにはあったので、フロントエンドのプラットフォーム開発業者については簡単に探すことができました。その反面、ブロックチェーンの専門業者を探すのは容易ではありませんでした。私たちは、レジリエントで最新鋭のブロックチェーン・プラットフォームを構築してくれるような、国際的な知名度のある企業を求めていたのです。富士通の顧客であるRice Exchange社のCEO Stephen Edkins氏とのつながりでFrederikと偶然知り合えたことは、私たちにとってラッキーなことでした。

――今回のプロジェクトのキーとなったブロックチェーン・テクノロジーについて、概要を教えてください。

Frederik: ブロックチェーン・テクノロジーには、2つの大きな潮流があります。ひとつは、例えば暗号通貨のように、すべてをパブリックに関連付けることですが、もう一つはプライベートブロックチェーンという側面です。プライベートブロックチェーン技術を使って、誰がいつ何をしているかといった改ざんできない記録やトレーサビリティを得ることで、データの検証とコラボレーションが可能になります。

そのため私たちは、 Rice Exchange、AB InBev、Botanical Water Technologiesなどの企業に利用されている、有名なエンタープライズブロックチェーンのHyperledger Fabricを選びました。各企業が協力し合い、それぞれのサプライチェーンのトレーサビリティを証明できるようなプラットフォームを構築する必要があったため、Hyperledger Fabricは最善の選択肢でした。もちろん、こうしたインサイトは更新されていくもので、プラットフォームもまたそうですが、私個人としては、正しい選択をしたと思っています。

――富士通のブロックチェーン・プラットフォームは、具体的にどのように貴社のニーズを満たしましたか?

Jolanda氏: 当社はBコーポレーション*の申請中です。すなわち、tex.tracerは利益だけでなく、人々や地球にもフォーカスしているということです。誰でも利用できるオープンソースのブロックチェーンを利用することが重要なのは、この理由からです。もう一つの重要なポイントは、ブロックチェーン・プラットフォームの技術そのものより、プロジェクトに取り組むチームです。私たちは、富士通が取引における信頼性やトレーサビリティの問題に精通しているだけでなく、ビジネスセンスも豊富なことに気がつきました。ビジネスセンスに富んでいて、ユーザーのプラットフォームの将来にわたる検証についても常に考えてくれるようなITパートナーに出会うことは本当に難しいことなのです。富士通はこれを叶えてくれました。

  • *「Bコーポレーション:米国の非営利団体B Labによる国際認証制度。環境や社会に配慮し、社会に対し透明性や説明責任を果たしているなどの基準を満たす企業に認証が与えられる。「B」は「Benefit(利益)」の意味で、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーに対する公益性を表している。」https://www.bcorporation.net/en-us/certification/

――富士通とtex.tracerのコラボレーションによる、これまでの成果を教えてください。

Jolanda氏: 私たちは、2021年3月にMVP(実用最小限の製品)を完成させました。それ以降、多くの機能を追加していった結果、現在では25のブランドで私たちのソリューションが稼働するまでに至っており、これからも大幅に増える見通しです。全力疾走の状態は現在も続いており、2,3週間ごとに新規機能を追加しています。

信頼と検証可能なデータに基づくサステナブル・サプライチェーンの構築

――本プロジェクトは、より良い社会の実現にどう貢献するのでしょうか?

Jolanda氏: 検証されたサプライチェーン・データをベースにすることで、クライアントは自分たちのサプライチェーンがどのように社会に影響を与えているのか確認できるようになります。ファブリックはサステナブルなのだろうか? 労働者が作業手順や労働時間に不満を持っている場合、それに対処する手続きが整備されているのか? 労働者には超過勤務手当が支払われているのか? などの点です。

このデータによって、例えばサプライヤーの認定を社会レベルで行うなど、各ブランドが将来に向けてサプライチェーンの改善を行うことができます。tex.tracerを利用することで、より多くのサプライチェーンに関する情報を入手できるのです。言い換えれば、各ブランドは、電話をかけたり、メールを送るなどサプライヤーに働きかけてデータを入手するのではなく、tex.tracerを通じて、自動的または半自動的にデータを入手できるようになります。

Frederik: 消費者の立場から言えば、その製品がどこで製造されたのか、原材料の調達は適切に行われているのかといったことを知りたいと思います。自分が目にするものを信頼できること、そして検証メカニズムが存在することは、社会全体に大きく貢献するものです。

透明性のあるテクノロジーで社会に貢献

――今回のプロジェクトで、もっともワクワクしたのはどのような側面でしたか?

Jolanda氏: このテクノロジーが社会に貢献できるという点です。透明性は、社会的なムーブメントを成功させる要因です。そして、その透明性の確保が私たちのプラットフォームを通じて実現できるのです。我々の顧客はプラットフォームを通じて提供される、独自に検証された情報に基づいた意思決定を下すことができるようになるのです。

Frederik: 変化を生み出すことに取り組んでいる、ということをチームが理解している点を私は誇りに思っています。根本的な変化をもたらすソリューション、すなわちエシカルな主張が正しいことを確認し、保証するソリューションを見つけ出しているのです。こうしたプロジェクトは、感覚的にも正しいものだという想いが得られます。tex.tracerのような企業とコラボレーションすることにより、富士通のような大企業のマインドセットに変化が生じる様子を目の当たりにしました。顧客との対話が、巡り巡って私たち自身に大きな変化をもたらすのです。

デジタルイノベーションを通じた、よりサステナブルな世界の創造を目指して

――tex.tracerと富士通のコラボレーションは、将来どのようなものになりそうでしょうか?

Jolanda氏: これまでの取り組みは、ほんの始まりに過ぎません。私たちがパートナーシップを組んでから1年あまりが過ぎましたが、さらに長期的なコラボレーションも視野に入れています。当社はファッションを専門としており、テクノロジーのプロではないので、このパートナーシップを通して、ファッション業界に最適なプラットフォームを構築したいと考えています。富士通に対し「顧客のニーズとそれを実現するためのプラットフォームを理解していると考えていて、その実現のために、ブロックチェーンプラットフォームの開発に必要なことは何なのかを教えてほしい」と正直に聞けることは、本当に素晴らしいことです。このパートナーシップの素晴らしい点はまさにそこにあります。

Frederik: 長期的に見れば、富士通にとって、これは単にソフトウエアの開発支援をするだけに留まりません。私たちは、市場を生み出すこと、そして現状を変えようとする顧客のサポートを行いたいのです。これは、プロジェクト領域だけでなく、その外にもリーチを拡大することを意味します。その両方を実現することは可能なのです。私がいつも言っていることですが、自分のボックス(守備範囲)から出るだけで満足するな。ボックスを投げ捨てて、一から考え直すことが重要です。

――突き詰めて言うと、このようなコラボレーションは何を達成することを目指しているのでしょうか?

Frederik: 真の目的をもって物事に取り込み、社会課題を解決し、データを起点にした意思決定を行い、企業や産業やエコシステムを変革することです。最終的にはデジタルイノベーションを通じた、よりサステナブルな世界の創造を支援することと言えるでしょう。

Jolanda Kooi氏

tex.tracer共同創設者

エラスムス大学で繊維工学を学び、経営管理学の修士号をもち、ファッションの開発・製造に15年の経験がある。IIC-Intersportやmarlies|dekkersなどのファッション企業で、企業変革や業績向上を達成した実績には定評があり、極東や欧州で、販売・小売業務の管理とガーメントの調達、製品開発、購入・サプライチェーンなどにおける経験を組み合わせた活動を展開してきた。業界をよりサステナブルなものにしたいと考え、tex.tracerを共同創設。ファッションブランドやサプライヤー、消費者が洞察に富んだサプライチェーン情報を引き出すのを支援し、ファッションのサプライチェーンを透明性のあるものにし、ブランドと消費者が知識に支えられた決定を下すことができるようにしている。

Frederik De Breuck

富士通ベルギーのCDO(最高デジタル責任者)/CTO(最高技術責任者)、Fujitsu GlobalのFujitsu Track and Trust Center長

富士通ベルギーのCDO/CTOとして、従来型ビジネスをデジタル化することで成長と戦略的更新をより促進させる業務の総責任者の役割を果たしている。Fujitsu GlobalのFujitsu Track and Trust Centerの管理・運営も行っており、ブロックチェーン方式の分散型台帳ソリューションの開発と、スピーディーに企業に実装するためのイノベーティブな方法論確立にフォーカスしている。



※この記事はFujitsu Blogに掲載された「Building a sustainable business and ethical supply chain with blockchain technology」の抄訳です。

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