生成AIによる革命と新たな価値創造の時代へ
~生成AIを活用するトップリーダーへの3つの提言~

ChatGPTは、生成AIの価値創造における無限の可能性を具現化しました。人間と同等の対話能力を持ち、新たなコンテンツを生み出し、仕事の手法を革新するという、画期的な能力を有しています。これにより、生産性の向上や未来への洞察、探求が可能となります。マッキンゼーによれば、生成AIが全ての産業社会に普及すれば、生み出される経済価値は年間で最大7兆9000億ドルに達すると推計しており(※1)、これは、G7の中程度の先進国のGDPに匹敵する価値を生み出すという、極めて大きな影響力を持っています。

生成AIは、従来のAIにはない能力を持つ基盤モデルとなる大規模言語モデル(LLMs)を通じて、産業社会への価値創造に新たな仕組みを提供し、持続可能な変革(SX:Sustainability Transformation)の強力な推進力になると考えられています。

今回のフジトラニュースでは、生成AIの価値創造プロセス、基盤モデルの活用法などに関する洞察をまとめ、生成AIを活用する企業トップリーダーに対して、生成AIの潜在価値を最大限に引き出し、持続的な変革と信頼的な経済社会を実現する三つの提言についてご紹介します。

目次
  1. 生成AIの価値創造プロセスと基盤モデル
  2. エンドユーザー視点から見た基盤モデル
  3. 適切なユースケースの選択と開発
  4. 生成AIの成果測定KPIとユースケースの失敗を防ぐための効果的なアプローチ
  5. 生成AIを活用するトップリーダーへの3つの提言

生成AIの価値創造プロセスと基盤モデル

生成AIの価値創造のプロセスには、インフラストラクチャの開発、事前トレーニング用の大規模なデータセットの準備、生成AIを強化するコアモデルの作成、具体的な価値創造のためのコア学習モデルを活用するアプリケーション/ユースケースの構築が含まれます。図は、価値目標をコアにした生成 AI の価値創造プロセスを具体化したものです。

生成AIの価値創造プロセスを具体化した概念図 生成AIの価値創造プロセスを具体化した概念図

生成AIのエンジンとして機能する基盤モデルの能力はさまざまなものがありますが、次の4つが主要な能力としてあげられます。

  1. 自動化:最も基本的なレベルで、データ収集、整理、簡単な計算が含まれます。
  2. 要約:次に、大量の情報を凝縮し、重要なポイントを引き出す能力が含まれます。これらは情報の理解と再文脈化を要求します。
  3. 創造性:より洗練されたレベルでは、新しいアイデアや概念を生み出す能力が含まれます。これには、既存のデータから新しい情報を作成する創造性と洞察力が必要です。
  4. 探索:最先端のモデルでは、既存のデータ内の新しいパターンや相関関係を発見する能力が含まれ、深い理解と分析が必要になります。

エンドユーザー視点から見た基盤モデル

上述した基盤モデルの能力を活用するためには、技術力やモデルの多様性などといった観点から3つの活用法が存在します。

(1)製品としてのモデルを採用する

エンドユーザー視点から見ると、ChatGPTのような、基盤モデルと一体化した汎用の市販のアプリケーションは多数存在し、繋ぐだけですぐに使えます。また、ある程度の技術スキルを持つ企業のエンドユーザーは、基盤モデルベンダーが提供するAPIを通じて既製品としてのモデルを利用できます。

この利用法では、簡易なカスタマイズが可能です。プロンプトエンジニアリングという手法を通じて、自社のユースケースに合わせて、アウトプットとしてのパフォーマンスを高めることができます。

(2)既製品のモデルを自社のデータおよびシステムに統合してカスタマイズする

一方、自社のデータを使用して、または独自のニーズを満たすために、最大の価値を引き出したい企業ユーザーは、基盤モデルの選択とともに、モデルのカスタマイズも重要な作業となります。すでに成熟したモデルが数多くリリースされており、モデルのサイズ(パラメーター数)、パフォーマンス、多用途性、透明性などの要素を考慮して、利用したいモデルの選択肢を広げます。

また、既存のモデルに対して、自社のデータを使って特定のドメインやタスクに適合させるために、追加のトレーニング(Fine-tuning)を行う、元のモデルからの逸脱(モデルの重要な要素としてのパラメーター数を調整することと新しい知識を追加すること)を意味するカスタマイズ手法も存在します。追加のトレーニングによって自社の目的に合うようにより正確なパフォーマンスが得られます。通常Fine-tuningは比較的大量のデータと計算リソースを必要とします。

(3)自社の目的に適する基盤モデルを開発する

テクノロジー企業などの一部の大手企業は自社用の基盤モデルを開発するケースも見られます。ただし、基盤モデルの構築には、強い資金力、膨大なデータ、深い専門知識を持つ人材、大規模なコンピューティングインフラなどが必要となります。

適切なユースケースの選択と開発

生成AIの基盤モデルと関連技術が急速に進化し多様化する中で、魅力的なユースケースの出現と開発に関するユーザーの関心が高まっています。実際、生成AIの多くのユースケースが提案、或いは実装されています。例えば、マッキンゼーは生成AI技術が導入されてからの初期の効果を基に、想定される63の組織ユースケースを分析し、生成AIの潜在的な経済効果を推定しました。また、Google Cloudは先進企業の実践をリサーチした結果から、6つの主要産業における優先的なユースケース例をまとめました。(※2

ビジネス変革を通じた価値創造を実現する方法として、生成AIを導入するための2つのアプローチがあります。1つは、既製品のモデルやアプリケーションを使用して手軽に利益を得ることに焦点を当てる方法です。これは、働き方やビジネスプロセスの革新を必要とするため、初期の成果を上げることで組織内での受け入れを促進し、革新を広げる機運を高めることができます。もう1つのアプローチは、組織のデータに基づいてカスタマイズされたモデルやアプリケーションを使用して、ビジネス、顧客エンゲージメント、製品やサービスの再構築を行う方法です。どちらのアプローチにおいても、価値主導のマインドセットが重要であり、ビジネスケースを定義し、成功を実現するための鍵となります。

生成AIの成果測定KPIとユースケースの失敗を防ぐための効果的なアプローチ

エンドユーザーが投資を行う以上、生成AIの能力を引き出し、ユースケースを介して生み出されたビジネス価値を証明する必要があります。幸いにも、生成AIの成功を評価するKPIに関する研究が深まり、提案された枠組みは企業にとって示唆に富んでいます。事例として、前述したGoogle Cloudのレポートには、1)生産性等のアウトプットKPI、2)正確さ等の品質KPI、3)信頼性等のシステムKPIを含む12個のKPIが記されています。指標の測定方法と基準値の設定は、KPIの成功を評価するために非常に重要で、具体的なビジネスの目標、業界のベストプラクティス、そして過去のパフォーマンスに基づいて設定されるべきです。

ただ、企業が新しい技術を導入しようとする際、その技術が自社のビジネスにどのように価値をもたらすかを具体的に特定せず、単に技術を試すためにユースケースを作り出す傾向があり、結果として失敗する事例が多く見られます。ユースケースの失敗を避けるためには、以下のようなステップを踏むことが有効だと考えます。

(1)ビジネス目標の明確化

まず、何を達成したいのか、ビジネス目標を明確に設定します。経営者など企業のリーダー全員で、既存のビジネスモデルを変革し、新しいビジネスモデルを形成して、新たな価値の源泉を生み出すという生成AI導入の目標を検討する必要があります。

(2)技術の理解

ビジネス目標を実現するために、導入しようとする生成AIがどのような問題を解決できるのか、どのような価値を提供できるのか、または解決できない問題やできないことを理解することが必要です。

(3)ユースケースの選定

ビジネス目標の設定と技術の理解を基に、自社の目的に合う具体的なユースケースを選定します。

(4)プロトタイピングと検証

選定したユースケースでプロトタイプを作り、実際にそれがビジネス目標達成に寄与するかを検証します。この検証にはPoC(概念検証)、PoV(価値検証)、PoB(ビジネスインパクト検証)のステップを含むことが望ましいです。

(5)スケールアップ

検証成功後、そのユースケースを本格的に導入し、同じドメインでスケールアップして価値創造の拡大に取り組みます。また、検証済みのユースケースから関連する新たなユースケースを開発していくことを並行して行うことも重要です。

生成AIを活用するトップリーダーへの3つの提言

このように、生成AIは、未開の巨大な潜在性と新たな価値創造能力を秘めています。その可能性を最大限に引き出し、顕在化させるのは、バリュードリブンな視点を持つ利用者の手にかかっています。以下に三つの提言をまとめました。

提言1:経営戦略の再定義:生成AI時代における価値主導の目標設定とDXプランのアップグレード

経営的な観点から見ると、生成AIは価値創造のためのツールであり、目的に応じて最適なツールを選択する必要があります。そのためには、まず会社全体の価値目標を設定することが重要です。

さらに、基盤モデルやアプリケーションを含む生成AIの実装と運用を、ユースケースを通じて実現し価値創造の実現を可能にします。生成AIは、企業内のタスク自動化のみに焦点を当てた独立した計画とみなされるべきではなく、企業のDX戦略全体に統合された 「企業DX+生成AI」 計画として位置づけられるべきです。

提言2:生成AIと従来型AIの相乗効果を活用したハイブリッドユースケースの開発

生成AIは、言語関連のタスクに最も大きな影響を与えますが、画像認識やコード生成などの技術の進歩に伴い、生成AIは非言語タスクにますます適用されるようになっています。

生成AIは与えられたソフトウェアやアルゴリズムに依存するのではなく、自主学習と成長の機能をもっています。これにより出力結果は予測不可能で制御が困難になる可能性があります。この予測不可能な挙動を制御し、その信頼性と安全性を確保するためには、従来型AIのような決定的なモデル(与えられたルールやアルゴリズムで動くので結果が予測可能)と連携してハイブリッドユースケース或はハイブリッドアプリケーションを開発することが生成AIの予測不可能性を低減する重要なアプローチです。これは、2つのタイプのAIが相互に補完し合うことで、それぞれの強みを最大限に発揮し、リスクを最小限に抑えることができることを意味します。

富士通は、すでに既存のAI Actlyzerと生成AIを統合する消費者向けサービスのハイブリッドユースケースを開発し、実装しています(※3)。このバランスのとれたアプローチは、技術の進歩と相まって、影響の少ない産業や職業に浸透することも期待できます。

提言3:生成AIの創発力の活用と信頼性の高いAIの実現のバランスを探る

従来の信頼性の高いAIの要素に加えて、生成AIの特性上、「透明性」、「公平性」、「堅牢性」が特に重要であると考えています。

例えば、「ハルシネーション(幻覚)」 は生成AIにとって特に重要な問題です。このようなハルシネーションを防ぐための戦略には、AI学習データの慎重な選択、AI学習プロセスの厳格な監視、AIが誤ったパターンを学習しないようにすること、必要に応じてAIの行動を検出して修正するメカニズムなどがあります。

富士通は、対話型生成AIの応答の信頼性を高めるAIトラスト技術であるハルシネーション検知技術を開発し、顧客に提供しています。この開発したハルシネーション検出技術は、既存の方法よりも正確にハルシネーションを検出できます(※4)。

生成AIの動作を規制し、その信頼性と安全性を確保するためには、一定の制約を課す必要があります。しかし、このような制約を課すことは、生成AIの新たな能力をある程度抑制する可能性が生じます。これは、生成AIを使用する際のトレードオフの1つです。今後、技術の進歩に伴いAIの理解と制御が進む中で、より自由度の高い生成AIの活用が可能になることを期待されます。

詳細の情報は富士通のインサイトペーパー:生成AIによる価値創造:ユースケースの探索と創出に向けた挑戦を参考してくださいませ。

プロフィール

富士通株式会社
チーフデジタルエコノミスト 博士 金 堅敏(Jiamin Jin)

2020年 富士通株式会社 チーフデジタルエコノミスト
1998年 富士通総研 主席研究員
主に世界経済、デジタルイノベーション/デジタルトランスフォーメーションに焦点を当てた研究に従事。著書物に『自由貿易と環境保護』などの書籍。直近の著作物:以下の富士通ホワイトペーパー、ほか。

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