「アバター×生成AI」の社会実装を支えるテクノロジーとは~リアルな人間をエンハンスする技術革新-後編-

これまでゲームやメタバースなどの領域で使われてきたアバター。2Dから3Dアバターへの進化と合わせて、今話題の生成AIなどのAIと組み合わせることで、さらなる可能性の広がりが期待されています。富士通では「アバター×生成AI」という大きなテクノロジートレンドが訪れると考え、アバターやブロックチェーン技術に強みを持つ株式会社PocketRDとの協業を開始しています。「アバター×生成AI」によってどのような未来が切り拓かれるのでしょうか。

株式会社PocketRD(以下、PocketRD)代表取締役 籾倉 宏哉 氏、CTO 内田 茂樹 氏、富士通株式会社 執行役員 EVP CIO(兼)CDXO 福田 譲、富士通研究所 データ&セキュリティ研究所 所長 今井 悟史が語り合いました。本記事では、その内容を前後編に分けてお届けします。後編はアバターで広がる世界を「テクノロジーでどう実現するのか」という視点でPocketRD 内田 氏と、富士通 今井の対談をご覧ください。

目次
  1. リアルな人間をエンハンスするためにアバターを活用する
  2. アバターは「個人情報の塊」。信頼性と安全性を担保するテクノロジーが必須
  3. PocketRDと富士通の共創でアバターのプラットフォームを構築し新規市場を創り出す
  4. これからのアバターに求められるのは人間同士のコミュニケーションの潤滑油となること

リアルな人間をエンハンスするためにアバターを活用する

――アバターは今後どのように進化していくのか。AIや生成AIとの連携も含めて技術の変遷についてどうお考えでしょうか。

内田 氏:これまでは、アバターを作るためにとても地道な手作業が必要でした。本人とそっくりのアバター、魅力的なキャラクターとしてのアバターを作る際は100台や200台ものカメラで動きを細かく撮影して作り込んでいくこともあったほどです。その一方で、もっと手軽に楽しめるアバター、自分そっくりではなく「なりたい自分になれる」アバターといったニーズもあり、そのようなニーズを満たす技術やツールが登場してきました。

PocketRDでも、完全自動でオリジナルのアバターを簡単に作成できるAVATARIUM(アバタリウム)や自分の顔写真をベースに口元や目元を変えて理想の姿に変えられる「i avatar」(アイ・アバター)を提供しています。大きなトレンドとしては、自分にそっくりなリアルでハイエンドのアバターと、もっと手軽に楽しめるアバターという2つの方向性があり、それぞれのアバターでAIや生成AIとの連携など、新たな技術的要素が組み合わされている、現在はそんな状況だと感じています。

株式会社PocketRD CTO 内田 茂樹 氏 株式会社PocketRD CTO 内田 茂樹 氏

今井:アバターの技術の変遷は、やはりゲームが牽引してきたと感じています。例えば、小学生くらいの子どもに人気のオンラインゲームは、Nintendo SwitchやPlayStation、PCといったように、マルチプラットフォーム上でアバターを動かすことができます。そのゲームはいわゆる生き残りをかけたサバイバルゲームで、プレイヤーはアバターでゲームの世界に没入していき、他のプレイヤーと仲間(フレンド)になって、ボイスチャットで話をしながら「すぐそばにいるような感覚」を味わいながら遊べます。

このゲームでは、リアルの自分にはできないことでも仮想空間でアバターを使って体験できるのが魅力です。アバターは、よく「自分の分身」と表現されますが、個人的には「分身にとどまらない存在」だと思っています。単純にリアルな世界の自分が再現されるだけではなく、仮想空間で自分がアップグレードされていく感覚を味わえる、それが今のアバターです。例えば、生き残るために相手を倒したり、高く飛んだり跳ねたりと現実世界ではできないようなこともアバターならできるのです。

――アバターはもはや「自分の分身」にとどまらず、「自分をアップグレードしてくれる存在」になってきた、そこに新しい技術や機能が拡充されてきているということでしょうか。

今井:はい。そして、これから先はさらに面白い展開が考えられます。先に紹介したゲームでは、さまざまなクリエイターたちがゲームの中で自分の世界を作り、そこで有効なアイテムやサービスを他のプレイヤーに提供するなどして報酬を得ることができます。リアルの自分ではできないことでもアバターでなら実現できる、アップグレードされた自分であるアバターならできるという世界観が広がっています。

今後は、これをゲームなどコンシューマー領域ではなく、ビジネス領域で活用しようという動きも出てくるでしょう。具体的には、仮想空間に自分のエージェントとなるアバターがいて、スケジュール調整やメールのやり取り、必要な会話などをしてくれるだけではなく、自分の分身以上、もっというとリアルの自分以上のこともできるようになっていくようなイメージです。

その実現には当然、生成AIの技術が必要不可欠です。アバターに生成AIを組み合わせた自律的で自分をアップグレードしてくれるようなエージェントの研究開発は、すでに立ち上がっています。

富士通でも企業向けのさまざまなメタバースの研究開発を進めていますが、アバターを介して自分以外の視点を体験することで、その人の業務内容や着眼点、作業のコツのようなものを効率的に学習できるのではないかという研究にも取り組んでいます。リアルの人間をエンハンスするために、バーチャルのアバターを使うという世界はもうすぐそこまで来ているのです。

富士通株式会社 富士通研究所 データ&セキュリティ研究所 所長 今井 悟史 富士通株式会社 富士通研究所 データ&セキュリティ研究所 所長 今井 悟史

アバターは「個人情報の塊」。信頼性と安全性を担保するテクノロジーが必須

——アバターは単なる分身から分身以上へと進化を続けているのですね。そうなると、進化したアバターをどう社会実装していくか、技術的な課題は何かが気になります。

今井:社会実装を加速させるためには、技術的な課題の側面ではなく、ビジネス的な課題の側面から、まず考える必要があります。アバターに限らず、メタバース、ブロックチェーンに代表されるWeb3関連のテクノロジー、これらを社会実装していくには「新規市場を創り出す」という視点で考えることが重要だと思います。

従来型ビジネスのほとんどは課題解決型で、ある程度明確な課題があり、そのソリューションを開発して提供する形が基本となっていました。一方で、SNSやビットコインなどのブロックチェーンビジネスを考えると、最初から課題解決を目的に作り出されたものではないことが分かります。今までにない新しいユーザー体験を生み出すことで、いつの間にか多くのユーザーが使うプラットフォームとなり、そのプラットフォーム上にさまざまな機能やアプリケーション、サービスが乗っかって、新たなビジネスモデルが生み出されてきました。

アバターもメタバースもWeb3も、その側面が強いと思っています。つまり社会実装のためには、多くの人に使ってもらい、アバターのプラットフォームが作られ、その上にアバターを活用したさまざまなアプリケーションやサービスが乗っかっていく、そうなることが重要ではないかと考えています。

結果として、必然的にアバターのサービスは、様々な技術の組み合わせによって実現されることになります。私は、それらの技術の組み合わせの「接着」領域に技術的な課題があると考えています。

内田 氏:アバターと生成AIなどの新たな機能が融合すればするほど、その社会実装には「信頼性」と「安全性」が重要になると感じています。アバターや生成AIに代表されるような新しいテクノロジーには、光がある一方で影もあるからです。

アバターにおいては、大きな課題としてはセキュリティの担保があります。例えば、ある人の「その人らしさ」や癖までも完璧にアバターで再現できるとしたら、なりすましとして悪用することもできますよね。このようなリスクを考えたとき、セキュリティを担保するのはPocketRDでも注力しているKYC(Know Your Customer)やブロックチェーンといった技術になると思います。

アバター×生成AIで、ある人を再現するアバターを作ったら、それはもう「個人情報の塊」です。それをプラットフォーム上で扱うために、セキュリティの問題やリスクを解決できる仕掛けが必須で、PocketRDが取り組んでいるブロックチェーンに代表されるWeb3の技術が活用できると考えています。

PocketRDと富士通の共創でアバターのプラットフォームを構築し新規市場を創り出す

――信頼性と安全性を担保するテクノロジーがとても重要になると…。PocketRD と富士通が協業に踏み切った意味合いがわかってきたような気がします。

内田 氏:PocketRDにはアバターやブロックチェーンに対する実績、経験、知見があり、一方、富士通もトラストとセキュリティといった分野で世界トップクラス、さらにAIやコンピューティング技術などの先端分野でもトップを走っている企業です。両社の知見やノウハウをうまく掛け合わせることで、社会的意義のあるアバタープラットフォームを創り出すことができるのはないかと期待しています。

今井:富士通は、汎用的で高信頼な技術を作りあげていくことは得意であり、我々も様々な新技術の開発を進めています。しかし、それらの技術を活用して、UXに優れたアプリケーションを作り上げるところは、いまひとつ得意とは言えません。そういった富士通が苦手とするところをPocketRDとの協業で埋めることができます。

もうひとつ、アバターを社会実装するには、新規市場を創り出すという視点が大切と話しました。新規市場を創り出すことは、富士通だけでできるものではなくエコシステムが不可欠で、そこでは一緒に創り上げていく「共創」がとても重要になります。

アバターの社会実装では、インターネットがプラットフォームとなって新規市場やさまざまなビジネスが創り出されてきたのと同じような動きがでてくるのではないかと思うことがあります。インターネットは、もともと一部のローカルなネットワークの構築から始まりましたが、最終的にそれらが相互につながり合うことで、今のようなかたちになりました。

そのアナロジーで考えると、アバターやメタバース、Web3に関連する領域でも、さまざまな企業が個々のサービスやプラットフォームを生み出しています。私は、これらがつながってエコシステムが構築されることで、新規市場が創出され拡大していくと考えています。まずは、PocketRDと富士通が「共創」し、アバターやWeb3などの領域で新たなサービスやプラットフォームを構築し、さらに様々な他社のサービスと連動させることで、大きな市場を創り出していきたいと考えています。

これからのアバターに求められるのは人間同士のコミュニケーションの潤滑油となること

――今後、アバターによって創り出される新たな世界についてのお考え、理想とする未来像についてお聞かせください。

今井:アバターとAI、とくに生成AIに人間の個性や思考を反映させることで、リアルな人間を写像することもできると考えています。アバターが人間のような個性を持つと聞くと恐怖を覚える方もいると思いますが、もちろん、以前に映画で観たようなAIの暴走が起こらないようにする技術開発にも取り組んでいく必要があります。

富士通は、アバター×生成AIの社会実装に必要となる要素技術を多く持っていますが、それらをアプリケーションとして完成させ、世の中に受け入れられるよう親しみやすく使いやすいものに仕上げることが、これからは重要です。PocketRDの持つアバターに関連したサービスやテクノロジー、ブロックチェーンなどのWeb3技術、富士通のAIプラットフォーム「Kozuchi」などを融合させて、「新しい市場を創り出す」という方向で社会実装を考えることが重要だと感じています。だからこそ、富士通としても大きなチャレンジであると感じています。

内田 氏:これからのアバターの重要な役割のひとつに、私たち人間のコミュニケーションにおける潤滑油のような存在となることがあると思っています。もしかしたら、そのアバターには大した機能が備わっていなくても、その場にいるだけですごく心が楽になる、あるいは誰かとコミュニケーションを取るのが楽しくなるといった心理的側面にポジティブな影響を与えてくれる、そんな役割です。そういったことも視野に今後もアバターに関連した技術開発に注力していきたいと考えています。

――最後に、フジトラニュースの読者に向けてのメッセージをお願いします。

今井:テクノロジーの社会実装は、「こんなことを実現したい」から始まると思っています。何よりも大切なのは、本人が「楽しい」「やりたい」と思えることです。心の底からワクワク感を持ってやらないと社会実装は成功しないでしょう。その意味で、私たちの活動に興味を持ち、共感してくれる方々がいらっしゃれば、ぜひ、さまざまなアイデアをお聞かせいただけるととても嬉しいです。一緒にワクワクしながら無限ともいえるアバターの世界を開拓し、創り上げていきましょう。

内田 氏:PocketRDがアバターやAI、ブロックチェーンに代表されるWeb3のテクノロジーで実現したいのは、リアルとバーチャルの垣根を越える新しい未来です。そんな世界観をテクノロジーで創り出したいと真剣に考えています。我々の考えや活動に共感していただける方がいると非常に嬉しいですね。

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