企業カルチャーの重要性は今や無視できないレベルに達しています。その主な理由は、企業の革新と生産性を高めるため、カルチャー自体が変革の引き金となるからです。しかし、カルチャーを変えるのは容易なことではなく、ユーザーエクスペリエンス(UX)の観点から従業員が心地よく感じる新たなアプローチが必要となります。そこで注目したいのが、富士通が推進する「ワタシブランディング」です。セルフブランディングを企業カルチャーとして導入し、その結果、心理的安全性が10%向上するなど驚きの効果を発見しています。この記事では、その秘訣について紐解いていきます。
セルフブランディングがカルチャー変革のカギ
企業は「人」の集合です。DX(デジタルトランスフォーメーション)においても、最終的には「人」が変わることが求められます。企業の変革を実現するためには、個々の自律性が欠かせません。しかし「自分らしく働く」とは言うものの、本当の意味でそれを実感しながら働くことは容易ではありません。多様な体験を積み重ねることで、徐々に構築されていくケースがほとんどです。
服装の自由化を始めとした柔軟な働き方を推進してきた富士通でも、セルフブランディング(=従業員1人1人が自分らしさを理解し、それを強みとすること)のために常に新しい体験が求められています。そこで生まれたのが「ワタシブランディング」です。身近なものから「ワタシ」を表現する楽しさを体験してもらうことで、富士通に新たなカルチャーを創出することを狙っています。次の章ではその具体的な取り組みについて詳しく見ていきましょう。
アナログ×デジタルな体験をデザインする
富士通では、社員の「Well-being」を4つの分野で捉え、これら全てが重要と考えています。

https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/wellbeing/
繰り返しになりますが、セルフブランディングとは、自分自身をブランド化し、自分らしさを積極的に表現することで、自分のキャリアや成長を後押しするものです。これは私たちが考える「自律的な学び、成長」を示すCareer & Growth Well-beingに寄与します。一方、セルフブランディングを通じて組織カルチャーをアップデートすると、「良好な人間関係の構築、維持」を表すSocial Well-beingが向上すると考えられます。
自分らしさの獲得・表現と組織カルチャーのアップデートに向けた取り組みとして、「ワタシブランディング」が注目したのは、社内コミュニケーションツールのプロフィール写真(アイコン)でした。従来、富士通では、いかにも「証明写真」のようなプロフィール写真か、未設定の人型アイコンが主流でした。
しかし、対面で会えないリモートワークが増えた現代では、プロフィール写真は個々の第一印象を形成する重要な要素です。ワタシブランディングがまず行ったのは、社内制度の改革からでした。もともと「自身以外の映り込み」や「顔の見える割合」などに関する細やかな規定が多かったプロフィール写真に関するルールを改めて社内で議論し、2021年に改訂しました。今では、「ペットと一緒に」「イラスト」「好きな風景」など基本的にはどんな写真でもOKという制度となりました。
制度変更を皮切りに、若手社員を中心に広がっていったプロフィール写真の設定ですが、およそ全体の1~2割程でその波は止まってしまいます。その時妨げとなっていたのは、「良い写真がない」という素朴な課題でした。この課題を解決するため、ワタシブランディングではプロフィール写真の撮影会、プロフィール写真にまつわる社内イベントの企画、AIによる写真のイラスト化アプリ(2023年現在開発中)などのアプローチを進めています。

撮影会のスタッフ(カメラマン等)は社内副業制度(FUJITRA10)を利用して募っており、オフィス内・外観などを背景に500名以上のプロフィール写真を撮影してきました。撮影会のスタッフはただの写真撮影に留まらず、自作のポージング集や声掛けなどを駆使して、撮影会そのものを参加者にとって楽しいイベントとして作り上げています。今では日本各地10以上の拠点で開催される人気イベントとなりました。参加者アンケートでは、「魔法をかけてくださったかのような仕上がりに感激しています。」や「働きやすさや仕事のしやすさ、コミュニケーションの円滑化につながると信じております。」などのコメントも頂いており、NPS®スコアは90(※1)を超えることもあります。
- ※1 NPS®スコア:ネットプロモータースコア。サービスユーザーの「信頼」や「愛着」を測る指標のこと。

ワタシブランディングはこのようなデジタルツールとアナログの温かみを融合させた活動によって、"最高のユーザ体験"を追求することで、Well-beingの達成に寄与しています。社員の自分らしさを表現し、自己成長を促進することで、個々のWell-beingと、それを通じた企業文化全体の向上に繋げます。
画像1枚がもたらす驚きの効果
プロフィール写真にはどんな効果があるのでしょう。社内で検証実験を行った結果がこちらです。
まず、プロフィール写真を見て「気軽に話しかける」ことをためらってしまうということがある、と回答した比率が49%であるといった結果が得られました。プロフィール写真1枚が変わるだけで、周りの人から見る印象は変わりそうです。
また、プロフィール写真が証明写真の場合、それ以外の比較的カジュアルな写真の場合を比較した時、後者は前者と比べて信頼度9%上昇、心理的安全性10%上昇、相談しやすさ16%上昇、好感度15%上昇といった結果を得ることが出来ました。

一方、この差が年代や役職によっても変化することが分かってきています。具体的には入社から10年目までの年代において上昇率が顕著であり、11年以上の勤続もしくは幹部社員(管理職)以上だと上昇率は緩やかになるというデータも得られています。ミドルキャリア以上の社員にとって、プロフィール写真の工夫は「自分が思っているよりも」自分にとって良い効果があると言えるでしょう。
推進メンバーに聞く、ワタシブランディングが描く未来
最後に、ワタシブランディングが思い描く将来や、更なる企業カルチャー変革の狙い等についてワタシブランディングのプロジェクトマネージャーである城光 潤に、同プロジェクトメンバーである淺間 康太郎からインタビューを行いました。
―淺間:ワタシブランディングによってどのような企業カルチャーを目指したいですか。
―城光:まずは、全従業員が当たり前にプロフィール写真を設定し、自分らしさを表現することに対して抵抗のないカルチャーを作りたいです。そして、自分の強みや特徴を活かしたキャリアを描き、それをセルフブランディングとして、プロフィール写真に限らず多様な形で表現できるようになることです。これにより、社内でのコミュニケーションが今よりももっと気軽に、活発に行うことができるカルチャーを目指していきたいと思っています。
―淺間:プロフィール写真の次に、もっと広い意味でセルフブランディングが重要になるとしたら、どんな要素がキーになると思いますか。
―城光:プロフィール写真1枚で自分らしさを表現することは、簡単なようで意外に難しいです。まずはプロフィール写真で自分らしさを表現できるようになることが重要でありますが、もっと広い意味で重要になるのは「発信力」だと思います。色々な媒体を使って、自分のことを自分で発信できるようになる。発信力が高まれば、より多くの人との交流が生まれることも期待でき、自身のブランディングに大いに貢献すると思います。
―淺間:仰る通り、今後は従業員が自発的に発信しやすいように社内環境を整えていきたいですね。最後に、富士通としてこの活動を基にどんな社会の創出につなげたいですか。
―城光:自分自身を表現し、個性を認め合うことで、一人ひとりがコミュニケーションに悩まずに、自分のスキルを活かして活躍する社会を作っていきたいです。まずはその波を富士通内で起こしていければと思います。
富士通ではこれからも持続可能な社会の実現に向け、社員一人一人のWell-beingを大切に、自社の変革に取り組んでいきます。

富士通株式会社 Digital Systems Platform本部
CIO Office マネージャー
城光 潤