ジャパンSAPユーザーグループ会長×富士通
VUCA時代を乗り切るデータドリブン経営とは

VUCA(※1)時代と呼ばれる現代において、急激に変化する経営環境に企業が適合し続けるには自社の変革が必要不可欠です。また、サステナブルな世界の実現に向け、私たち日本企業は経営を根本から変える必要があり、DXの取り組みによりグローバルかつアジャイルな対応力が求められています。今回、JSUG会長であり3 年連続で「DX 銘柄」に選ばれたトラスコ中山株式会社(以下、トラスコ中山)取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長の数見 篤氏と、富士通の変革における中核をなす「OneERP+プログラム」(以下、OneERP+)の責任者である富士通株式会社 EVP CDPOの馬場 俊介との対談が実現。富士通シニアエバンジェリスト 武田 幸治が両者の経営改革の本音に迫りました。

  • ※1 VUCA
    Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語。社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことを意味する。
目次
  1. 「お客様の喜び」が改革の原動力
  2. 全社横断の取り組みがDXの肝
  3. 「Fit to Standard」を実現するために
  4. グローバルの舞台で日本企業のバリューを創造する

「お客様の喜び」が改革の原動力

モデレーター武田: 現代において企業は生き残りをかけて変革が求められていますが、グローバル経営という観点で、経営改革の取り組みについてお聞かせください。

馬場: 富士通は2020年に「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを定めました。IT企業からDX企業への変革を目指し、OneFujitsuの理念のもと、全社DXプロジェクト「フジトラ」(Fujitsu Transformation)に取り組み、「データドリブン経営強化」「DX人材への進化」「全員参加型・エコシステム型のDX推進」の3本柱で経営改革を推進しています。ただ、現状は様々な経営判断が未だにアナログでなされているのが実情で、それらを「いかに早くデータドリブン経営に変えていくか」という大きな課題を抱えています。

数見氏: 私は2017年からトラスコ中山のDXを推進してきました。現代は、どの企業においても従来の感覚のままでは成長し続けることが困難な時代です。そのような中で自ら変革をリードし、その背中を見せることで周りが一緒に着いてくるようになる、その実践が必要であり、そして変革には「デジタル」が道具として欠かせないものだと実感しています。

馬場: トラスコ中山さんは、2020年から3年連続DX銘柄に選出され、この分野をリードされています。数見さんがそれ以前にお持ちになられていた課題認識と現状についてお聞きしたいです。

数見氏: 我々の仕事はトランザクションが非常に多く、注文や見積などが莫大にあります。私が入社した当時はそれらを電話やFAXなど手作業でやっていました。しかしそれではお客様に迷惑をかけ、業務が回らなくなる未来が見えていたので、2006年にSAPを導入した経緯があります。現在、売り上げは当時の倍になり、正社員の数は1.3倍という事業成長を遂げましたが、今振り返るとそういった経営判断で大きな投資を断行したことから繋がったのだと感じています。

馬場: 危機意識から実際のアクションに繋げるには並々ならないハードルがあると思いますが、トリガーはどういったところにあったのでしょうか?

数見氏: 最も大きな要素は「会社を変革するんだ」という経営トップの意思です。従来の仕事を変えることは、社員だけでなくお客様にも変わっていただくよう現場で説得する必要がありますので、一言ではいえない困難の連続でした。しかし時間をかけてお客様にデジタルツールを使っていただき、アナログにはない利便性や回答スピードを体験いただくことこそが、私たち社員にとっても変革を継続する力となり、今まで20年近くやってきました。
デジタルを活用し変革していく中で生産性や業務効率を上げることも大事ですが、一番のモチベーションになるのが「お客様に喜んでいただくこと」です。そこがすべての原点となっているからこそ自分たちの変革にチャレンジできますし、壁にぶつかっても「いつかお客様にご理解いただける」と信じて邁進することができます。

馬場: ものすごく共感性の高いお話です。真の目的はカスタマー・サクセス。お客様の成功や感動体験、バリューアップがなければ意味がないと私も実感しています。

数見氏: 我々も決して順風満帆だったわけではなく、現在もトライアンドエラーを繰り返し、その都度、原点に立ち返っています。

ジャパンSAPユーザーグループ会長 数見 篤氏
(トラスコ中山株式会社 取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長)

全社横断の取り組みがDXの肝

モデレーター武田: 数見さんは様々な企業を訪問されて事業改革のお話をされる機会が多いと思いますが、企業課題にどういった感想をお持ちでしょうか?

数見氏: 多くの企業は変革を進める際、経営トップがリーダーシップをとりますが、DXではCIOやCEOが誰にどうリーダーシップを発揮してもらうか悩まれることが多いと感じます。現場のCxOをいかにリードする側に巻き込んでいくかが大事です。

馬場: 私も同感です。現場の意見が強い傾向にある日本企業は、変革のモメンタム(勢い)を作っていくのは現場を見るCxOの役割が重要という意見に私もすごく納得感があります。数見さんは現場で変革にともなう壁をどう乗り越えられたのでしょうか?

数見氏: たとえばお客様に見積を出す際、これまでは多少時間をかけてでもお客様に最適な価格を捻出してきましたが、実際の受注率は高くありませんでした。しかしデータを活用しリアルタイムでお客様に回答すると、受注率が高まったのです。これを目の当たりにするとデジタルを受け入れざるを得なかった。とはいえ「人の力は不要」ということではなく、領域ごとに特性を生かして使い分け、柔軟に進めることが重要と思います。

馬場: 定着し効果が出るまでは苦労されたのではないでしょうか?

数見氏: そこは粘り強くチャレンジを続けました。始める際に「これは必ずお客様に喜んでもらえる」という確信に近い道筋があったことが大きいです。

馬場: 私もよく「勝ち筋」という言い方をしますが、いくらデジタルで証明できても当てずっぽうでやるのではなく確かなロジックが必要です。そのためのアイデアは、トラスコ中山さんではメンバーからどんどん出てきていますか。

数見氏: 今はトップがアイデアマンとなり始まることが多いですね。ただしメンバーも言われたままにするのではなくどんな味付けをするか、どうオプションをつけるかを考えて、お客様に喜んでいただくように仕立てていきます。私たちは「DX2.0」と呼んでいますが、ある1つの部門だけが変革するのではなく、富士通さんでいえばOneERP+など全社横断で取り組むのが理想です。その環境をどう作るかが大切ですし、一番難しい。

馬場: 今のお話で勇気づけられました。当社はフジトラという大きな枠組みの中「全員参加でカルチャー変革をやってみよう」というモメンタムを作っています。一方で、SAPを中心とした基幹系ビジネスデータの標準化を推進しています。それは両輪で動かさないと、どちらかだけでは上手くいきません。特にOneERP+の導入は、時間がかかる上に大きな痛みを伴う見直しをかけないといけない。一部の人だけで進めると、周りの人はただの傍観者になると思います。

富士通株式会社 EVP CDPO 馬場 俊介

「Fit to Standard」を実現するために

モデレーター武田: 富士通が取り組んでいるOneFujitsuの現状はいかがでしょうか?

馬場: 当社は「Fit to Standard」をベースにグローバルスケールで全ての業務を標準化すると決めて早3年ですが、まだ道半ばです。目的の構想立案から始めましたがあまりきれいな形にまとまらず実装に舵を切りました。すると目的がどこかにいきはじめ、手段の議論だけが多くなってしまいました。現在は「何のためにやるのか」という目的に常に立ち返っていますが、改革とどうアラインをとっていくか、目の前の目標と最終的な目的に未だ迷いながら、考えながら進めている状況です。数見さんからみてFit to Standardを推進する際のポイントはどういったところにあるとお考えですか?

数見氏: そうですね、一言でFit to Standardといっても簡単ではありません。我々は2020年に、まず全業務・全部門の社員に「何をどうするべきか」ヒアリングしました。個人の答えの多くは全体最適ではないと予想しつつ、一方で会社としてあるべき姿を変革メンバーで作ったところ、当然のごとく会社全体の方向性と乖離した様々な要望が700個くらいあがってきました。ローンチに至るには、「会社としての全体最適で標準化を進めていく必要性」を丁寧に説明し、理解してもらえるよう現場の声を聞くことがまず重要だと思います。ただ、聞いたものをそのまま取り入れるのではなく、その中で改めて会社の目指すべき姿を納得してもらうまで話していく。手間はかかりますが、私たちの場合はその過程が大切だったと思います。

馬場: なるほど。一人ひとりに、いかに自分ごととして参加してもらい、建設的な意見を出してもらうかですね。数見さんのお話を伺い、Fit to Standardが難しいのは大前提でどう乗り越えていくか、それは知恵と努力、時間をかけないと不可能だと理解しました。

数見氏: 簡単に言えるものではないですが、根底に必要なのは「やりきる覚悟」ではないでしょうか。

馬場: その覚悟を強固にするためには「お客様に喜んでいただくこと」というパーパスが確立されていなければなりませんね。

グローバルの舞台で日本企業のバリューを創造する

モデレーター武田: 富士通のOneERP+が国内企業に与える影響についてはどうお考えですか?

馬場: 我々はITプロフェッショナルサービスをもとに日本のお客様に対してリファレンスモデルになりたい、「ファーストペンギンになる」と宣言しています。実況中継をしながら変革を進めていますので、上手くいかない、格好悪い姿も見ていただいて「話を聞いてみようかな」というお客様がどんどん増えて欲しいですね。知見とノウハウを最大限に生かしてDX推進を支援し日本の底力をあげていく流れを作りたい、というのが我々の想いです。

数見氏: 富士通さんのような大きな企業が、上手くいっていないこともさらけ出されているのがすごいと思いますし「このままではいけない」ということをリアルタイムに伝えようとしている姿勢に共感します。多くの日本企業がOneERP+に注目しているのを感じますし、JSUGの企業の中で富士通さんを見て「自分たちも勇気をもってやっていこう」と実践する企業が増えていくのではないかと思います。

モデレーター武田: 今後向かうべき方向について、お二人のビジョンや想いをお聞かせください。

馬場: 今、富士通が進めているDXは、グローバルビジネスに進出するためのチケットに過ぎません。チケットを揃えるだけでも大変ですが、その先のグローバルなスケールで、「自社の本当のバリュー」をどう出していくかという高みを目指さなければなりません。そのための前提条件を早く揃えたいです。

数見氏: 冒頭にも話しましたが、どの企業も変革をしていかないと成長は続けられません。それは、企業だけではなく業界やサプライチェーンという視点でみても、連携して一緒に変革を成し遂げていかないといけない。DXというのは基盤として絶対に必要であり、それを実践していくことによって、サステナブルが徐々に見えてくるのではないかと思います。まだまだ日本企業には課題が多く周回遅れと言われることもありますが、スイッチが入って覚悟をきめた時のスピード感は、他国よりも圧倒的な速さをもっている。そういったイノベーションは富士通さんだけではなく、日本の多くの企業が取り組むべきです。

馬場: いいお話ですね。明治維新ではないですが、スイッチが入った時、我々はとても大きなパワーを出せます。そのスイッチを押すために富士通は日々邁進しています。

モデレーター武田: では最後に、今回の対談を通してお互いの印象をお教えください。

馬場: 数見さんの知見やご経験に根ざした信念、そしてビジョンには共感できる部分が多く、「やりきる覚悟」という言葉が一番胸に残りました。これからもJSUGの会長としてリードしていただき、ともに持続可能な社会を実現していきたいです。

数見氏: 富士通さん自体がそうだと思いますが、すごく自然体で遥かなる高みを目指されて期待感が高まります。社内だけではなく私たちJSUGの会員の皆さんに様々なことを発信していただけるのがありがたいです。これからも一緒に楽しいこと、面白いことに取り組みながら、国内企業の発展に尽力していきましょう。

ジャパンSAPユーザーグループ会長
トラスコ中山株式会社 取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長
数見 篤氏
1993年トラスコ中山株式会社入社。約13年、営業畑を一貫して歩み、2006年大阪支店支店長に就く。カタログ・メディア課課長、eビジネス営業部部長を経て、2017年より執行役員情報システム部部長として、システム部門を率いる。2021年より現職。

富士通株式会社 執行役員EVP CDPO
馬場 俊介
1993年富士通入社。債券ディーリングシステム構築を振り出しに、一貫して金融業界のシステムエンジニア、プロジェクトマネジャーとして従事。2020年より「OneERP+プログラム」責任者としてDX改革を牽引する。

富士通株式会社 エバンジェリスト
武田幸治

ページの先頭へ