富士通では、多様性を大切にする企業の姿勢を反映するため、国・地域・社会・業界・文化・人種などに寄り添ったブランドデザインを採用しております。この度、一般財団法人 国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)において、コミュニケーションデザイン部門で金賞を受賞しました。
本記事では、富士通が自らのブランドデザインにどのような工夫を施しているのかをご紹介します。そして現在のブランドデザインを形作るにあたり、重要な役割を担ったメンバー、ブランド戦略部の松田 善機に今の率直な想いを語って頂きます。
IAUD国際デザイン賞2022で金賞を受賞
IAUD国際デザイン賞は、一般財団法人 国際ユニヴァ―サルデザイン協議会(IAUD)が行なっている、「一人でも多くの人が快適で暮らしやすい」ユニヴァーサルデザイン社会の実現に向けて、特に顕著な活動の実践や提案を行なっている団体・個人を表彰するものです。
2023年3月1日、「IAUD国際デザイン賞2022」の発表が行われ、富士通のコーポレートビジュアルアイデンティティがコミュニケーションデザイン部門で金賞を受賞しました。ビジュアルアイデンティティ(以下VI)とは、企業やブランドのロゴ、フォント、カラー、デザインなど、視覚的に表現される要素全般を指し、企業やブランドのイメージを形成するために重要な役割を果たすものです。
富士通は、2021年に事業ブランド「Fujitsu Uvance」を策定しました。この事業ブランドのもとで、サステナブルな世界の実現に向け、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを強力に推進しております。そして、「Fujitsu Uvance」策定に合わせてVIも刷新し、多様性を大切にする企業の姿勢を反映するために国・地域・社会・業界・文化・人種などに寄り添ったデザインを実現しました。視覚障がい者、聴覚障がい者、ディスレクシア(読字障がい)などの視点に立ち、アクセシビリティ(近づきやすさ、使いやすさ)も意識しています。
例えば、色は個人の多様性から文化的背景にも関わる重要な要素です。物事を表現する上で色を自由に選べることがダイバーシティ(多様性を認めること)に結びつくと考え、新しいVIではブルー、エメラルド、イエロー、オレンジといった様々なカラーバリエーションを増やしました。名刺も5つのカラーから選べるようになっています。他にも文字のフォントやイメージの選定基準を見直し、富士通らしさを活かししつつ、誰もがより使いやすい、わかりやすいものを提供できるようにしています。
今回の受賞は、企業の方向性と使命を、このように社会のサステナビリティやダイバーシティに基づくものにシフトしている点が高く評価されたものだと考えています。
受賞者の代表を務めた、松田 善機の想い
IAUD国際デザイン賞の授賞式では、自らが聴覚障がいを持つ松田 善機が代表を務め、プレゼンテーションを実施。当事者視点でのダイバーシティの重要性を世の中に発信しました。なぜ富士通のVIが高く評価されたのかや、松田自身のVIに込めた想いについて赤裸々に語って頂きました。
――受賞した今の率直な気持ちをお願いします。
松田:嬉しい反面、まだまだこんなものじゃないぞと「勝って兜の緒を締めよ」の気持ちになりました。今回のアクセシビリティ対応は、ここ2、3年の集大成ではなく、富士通が培った歴史の集大成でもあります。引き続き、アクセシビリティを向上し続け、進化した富士通を見せたいと思いました。
――松田さんが授賞式で行ったプレゼンテーションですが、審査員からの評価がとても高かったそうですね。
松田:私は生まれつき耳が聞こえないので、話せてもやや発音が不明瞭なところもあります。そのため、何度もリハーサルを重ねました。審査員やステークホルダーだけでなく富士通全社員に向けても、説明している気持ちで取り組んだこともプレゼンの評価が高かった一因と考えています。例えば、色のバリエーションがこれまでのVIより増えました。その反面、色と色の組合せ方によっては見にくい、わかりにくくなるといった危険性もあります。色同士のベストな組合せを全社員が知って対処することは困難です。そのため、あらかじめ最適な色の組合せをすぐに出せるカラーパレット機能を配布するなど、従業員にとっても使いやすいことにもこだわりました。このように、VI刷新で浮彫りになった課題とそのサポートを行ったことを伝えた点が審査員の方々に特に好評だったのではと考えています。
――今回の受賞は、SX企業を目指す富士通にとって、どのような意義があるとお考えですか。
アクセシビリティに真摯に取り組む会社だと認められた証と考えます。富士通のパーパスは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。信頼や持続可能性を示す際、アクセシビリティを取り入れることは大変重要です。しかし、あらゆるものにアクセシビリティ対応することは大変困難です。例えばアクセシビリティ対応は日本では努力義務ですが、他の国の多くは法律によって厳しく定められています。文化の違いや状況により様々な解決策があるのです。解決策が1つしか考えられない場合でも実現するには技術的ハードルが高いこともあります。世界中のすべての人に行き渡るデザインを考えて実装することが理想ですが、実際は大変険しい道です。
IAUDの審査員の方々、世界より賞をいただけたのは、このような背景を熟知しながらも、その困難さを乗り越える力とアクセシビリティの向上に向けた実践力があることの期待の表れです。その期待に真摯に応えることに意義があると考えます。
――多様性を大切にするには、国・文化といった異なる視点を受容する捉え方が重要と思いますが、どの点に注力を置かれましたか。
このプロジェクトはドイツ、イギリス、ポルトガル、日本と多様なチームメンバーと共に世界トップクラスの品質に挑戦した取組みです。アクセシビリティを考える会議を定期的に実施しており、その会議名は「Accessibility Evolution(アクセシビリティの進化)」としています。この進化という捉え方が重要だと思っています。
よくチームで話されるのは、アクセシビリティは障がい者だけのものではないというマインドです。例えば、ある情報を音声のみ、文字のみで知りたいという要求は我々が生活する上でよくあります。障がいの有無に限らず、あらゆる環境下において必要な情報が異なるのにそれが選べないことも障害だという考えがあり、これを解決することを進化と捉えています。どんな情報もそれぞれにとってベストな環境で享受できるよう、様々な選択肢を提供することが国・文化といった異なる視点も解決しうると考えます。
――最後にメッセージをお願いします。
私は耳が聞こえません。スマホが無い少年時代は、あらゆる社会での情報を当時の聴者ほど受け取ることは困難でした。例えばテレビに字幕がないことも経験していますし、学校で校長の話を半日わからないままずっと立ちつづけた経験もあります。当時はそれが当たり前で、将来もそうだろうと諦めていました。
しかし、現在は手話や字幕、音声認識など情報支援のあり方や技術がどんどん増え、周囲の理解も高まってきました。当時諦めていたことが段々できることに変わっています。こうした技術革新は、私に物理的な障害がありつつも、社会ではハンディギャップのない状態を生み出しました。まさにこれも進化といえます。
私のパーパスは「『できない』を『できる』に変える」です。今回の受賞は、障害や環境で諦めていた人たちの要望にようやく技術と理解が追い付き、実装された結果です。まさに昔「できない」ことが「できる」に変わった進化です。
「できない」を「できる」にしていくこと、それを諦めていた皆さんに伝えていくことをミッションと捉え、我々はさらにスピード感を持ちながら、様々なユーザーの多様性と環境に応えられるよう絶えず進化し続けます。自分でも、どのような姿になるかわくわくしながら、邁進したいと思います。
今、この記事を読んでいただいている皆様からも進化をどんどん促していただけるよう、引き続き叱咤激励をどうぞよろしくお願いいたします。
さらなるアクセシビリティの向上を目指して
富士通では以前から誰もが使いやすいコンテンツ制作を実施しており、昨年はWebサイト上でアクセシビリティをサポートするツール(UserWay)も導入しました。画面右下の人型のアイコンにお気づきでしょうか。アイコンをクリックすると、色、フォントサイズ、合成音声による読み上げなど、閲覧者のニーズに基づいた設定ができます。UserWayが必要のない方でも、ぜひ一度お試しいただき、「サイトを訪れる方々にどんな方々がいるのか」、「その人たちのニーズとは」について考えるきっかけになれば幸いです。
富士通のアクセシビリティ向上への取り組みはこれで終わりではありません。むしろここからが本番です。全社レベルでビジネス、マーケティング、人材/職場環境の各領域のアクセシビリティの向上に向けて、推進していく所存です。