社会のデータ流通を安全に。帝国データバンクと富士通のeシール普及への挑戦

皆さんは「eシール」とは何かご存じでしょうか。eシールとはデジタル上でやり取りされる文書の安全性を高めるために利用される仕組みです。

株式会社帝国データバンク様(以下、TDB)と富士通は、すべてのデジタル文書を伴う取引が適正かつ円滑に行われる社会の実現、そして企業のDX化推進のために「eシール」の普及を目指し、実証実験を行いました。

本記事では、eシールとは何か、なぜ必要か、という簡単なおさらいから、TDBと富士通が取り組んだ実証実験の概要や目的、また本実証に関わる担当者の見解をご紹介します。

目次
  1. eシールとは?改めておさらい
  2. なぜeシールが必要なのか、その背景とは
  3. 富士通が取り組むeシールについて。帝国データバンクと協力し、実証実験を実施
  4. 実証実験を終えた今、担当者が語る課題と展望

eシールとは?改めておさらい

総務省「eシールに係る指針」によると、eシールとは「電子文書等の発行元の組織等を示す目的で行われる暗号化等の措置であり、当該措置が行われて以降当該文書等が改ざんされていないことを確認する仕組み」(※1)です。つまり、デジタル文書にeシールが付与されていればデータの発信元となる組織の正当性が保証されることになります。

電子署名との違いは
  • 一見、同じ機能を持っていそうなeシールと電子署名。どちらも電子文書等を暗号化することで文書が改ざんされていないことを確認できる点は同じです。ただし、eシールは発行した組織の正当性を証明できる一方、電子署名は署名者が文書の内容に同意したことを示す個人の意思表示ができるという点が異なります。

デジタル文書の安全性を高めるe シールですが、世界的に見ると、欧州がいち早くその普及を進めています。例えば、欧州では「デジタルシングルマーケット」を目的として2016年にeIDAS(イーアイダス)規則を制定する等、戦略的にデジタル化への取り組みが行われています。(※2

  • ※1
    令和3年6月25日発行 総務省「eシールに係る指針」https://www.soumu.go.jp/main_content/000756907.pdf
  • ※2
    デジタルシングルマーケット: 領域内のデジタル市場を一つに統合して、人・物・資本・サービスの恩恵を等しく受けること。
    eIDAS(イーアイダス)規則:Electronic Identification and Trust Services Regulation。EU全域への電子署名法の拡大を目的として2016年に施行された標準規則。

なぜeシールが必要なのか、その背景とは

日本においてもeシールを含めた、データ流通の基盤を支えるトラストサービスについて、未来への方向性を世界へ発信していく動きがあります。何よりもCOVID-19の影響によって、これまで対面で行っていた紙の文書類のやり取りをメールやサービス経由でのデジタル文書に変更せざるを得なくなりました。対面での受け渡しが減ったことで、なりすましや文書不正のリスクが高まっており、eシール普及の必要性はますます上がってきています。

富士通でも長年、独自のトラスト技術を用いた取り組みを行ってきていますが、近年では「Computer as a Service(CaaS)」を体系化し、Data e-TRUSTを立ち上げています。CaaSとは誰でも簡単に高度なコンピューティング技術を利用できるようにすることで、最先端研究の推進や企業競争力の強化などの支援を行う富士通の新たなサービス群です。このサービス群の一つに、高度な情報セキュリティの提供を目指すData e-TRUSTがあります。これは取引情報などの真正性を担保した安心安全なデータ流通の仕組みにより、社会のDXの推進を目指すものです。eシールの取り組みもこの一環として実施しています。

富士通が取り組むeシールについて。帝国データバンクと協力し、実証実験を実施

2022年4月から約6か月間に渡って、富士通はTDBと協力し、「日本版eシール」の社会実装に向けた実証実験を実施しました。2022年11月にはこの実験結果に関する報告書を公表しています。

実証実験の目的

eシールをビジネス実業務で利活用できるのか否か、机上ではなく実際に利用して理解を深めるためです。ポイントは、データの発出元を目検ではなく自動で検証することが可能かどうかです。そして実際に利用した結果、データの発出元の自動検証にはどのような問題点が存在して、それらをどのように解決できるかを模索し、ビジネスでの在り方を検討していきます。

実証実験の概要

富士通のData e-TRUST、外部認証機関としてTDBの保有する企業の存在証明に関するナレッジ、また株式会社BOX Japanが提供するコンテンツクラウド「Box」を連携させ、「eシール」を活用するサービスモデルを構築しました。この環境を利用して、「Box」を利用したデジタル文書の受け渡しを行う際に「eシール」の付与、および検証の操作を行うことで、「eシール」利用の有用性を確認しました。

。 サービスモデルイメージ

eシール発行から検証までのプロセス

Step1 「eシール」の証明書発行

「eシール」を利用したい法人Aは、「Box」と連携された「Data e-TRUST」と、TDBが事前に法人の実在性を確認して発行した「信頼できる法人アカウント」により、「eシール」用証明書を取得する。

Step2 「eシール」付与

法人アカウントを取得した法人Aは、「Box」で受け渡しを行いたいデジタル文書へ「eシール」付与を申請すると、「Box」と連携している「Data e-TRUST」より「eシール」が付与される。

Step3 「eシール」の検証

法人Aは「eシール」が付与された文書を、別環境の「Box」を利用して、法人Bへ受け渡す。「Data e-TRUST」および「eシール」により、その文書の発行元の検証を行う。

eシールが付与されたPDFファイル(実証実験の結果より)
eシールが付与されたPDFファイルをbox上で検証した結果(実証実験の結果より)

実証実験を終えた今、担当者が語る課題と展望

eシールに関する知見や真正性を担保するための手段をTDBにご提供していただき、それを利用したeシールをデジタル文書につける技術や、サービスと連動させる仕組みを富士通が提供しました。

実はeシールの付与や検証できる仕組みを作ることの難易度はそこまで高くありません。eシールのシステム構築よりも、eシールの定義の標準化や、世の中で簡易に使えるための使いやすさの工夫、また様々なサービスを横断して簡易に活用可能な連携の仕組み作りに課題があると感じています。今後、このような課題を解決するために、次の3つのポイントを念頭に置き、協業各社と連携しながら解決したいです。

課題解決のためのポイント
  • ユーザビリティ:利用者が簡単に利用できる環境
  • ID連携:各種サービスを利用する際にユーザーが複数の認証をする必要のない環境
  • システム連携:サービス提供者が作りこみをせずとも簡易に連携が可能な環境

また、現在、eシールの制度は日本企業の文化も考慮しながら検討されていますが、先行している欧州版との相互運用も視野に入れています。TDBと富士通は誰もがデジタル文書の利便性を享受できる使い勝手のよいモデルづくりを目指していきます。

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